第70話 保持者たちのオフ会(二)

 軽い雑談のあと、十二時になったので昼食が支給された。

 軽食は前の喫茶店カフェ-ショコラに1週間前に依頼してあり、デリバリーサービスで夢香さんがウエイトレスとして持ち運んできた。

 また何かやらかすかと思ったが、無事に運びとおした理性的な夢香さんだったので、俺は考えを改めるべきだと心の中で謝罪した。


「忍君、ここでいいの?」

「はい、二十二人分確認しました。ご苦労様です」

「もう忍君は、道場の人になっちゃったわね。麻衣ちゃんもいつの間に入っちゃってるし」

「いやいや、俺も麻衣もお手伝いをしているだけで、思想的に変わったわけじゃないですよ。夢香さんと同じですから」

「そう。今日の信者さんたちは、みんな若い子だね」

「今日は見学で、まだ信者ではないですよ」


 最後に夢香さんから渡された領収書を見ると、俺の名前で書かれていた。


「もしかして……夢香さんが領収書を書きました?」

「うん、そうだけど、私の達筆な字に惚れちゃったかな?」

「ええっ、綺麗な字でそれは認めますが、道場主の名前が欲しかったんですけど」

「あっ、あっ、そうだった。あーっ、やっちゃった。すぐ、書き直してくる。はははっ、ご、ごめんなさいね。ははは」


 そう言うと、そそくさと勝手口のドアから勢いよく立ち去った。

 うん、夢香さんだ、安心した。






 城野内緋奈はダイエット中といい、軽食のサンドイッチは食べずに西浦たちに与えて喜ばれる。

 なお要は軽食は頼んでなく、道場から出て休憩中。

 それを見た麻衣は、俺を引っ張り食事の席に着いた。

 要がいなくても、栞はいろいろ見ているから気にするなとは言えず、麻衣と肩を寄せ合った昼食に付き合う。

 テーブル一つ離れたところで、今村が軽食を食べながらこちらをにらみ、隣の彩水は素早く食事を終えていて、ひじをテーブルに落としアイスコーヒーをすすりながら俺を見てにやけている。

 そのだらしない格好のかんなぎ様へ、城野内が歩み寄り話しかけた。


「さっきまでいたポニーテールの子、お名前知りたいんですが」

「えっ、白咲……要だけど、何か不都合でもあったの?」

「白咲要さんですか……いえ、ちょっと似てたものでしたが、やはり勘違いでした。車椅子の子だと聞いてましたし」

「そう」

「それで、元教祖の谷崎栞さんに会いたかったんですが、来てないんですか?」

「元教祖? 先代なら来てないよ」


 彩水からの遠隔視オブザーバーで城野内の会話を聞いていたら、車椅子と栞の名前が出て俺は飛び上がるくらい驚き、食事を止め彩水の会話に割り込む。


「えっと、谷崎さんに何の用ですか?」


 彩水の横に来て応対すると、城野内は俺の横槍に嫌そうに眉をひそめた。


「ただ、話がしたかったんですけど。純粋に人となりとかね」

「えっと、誰から栞……谷崎さんのことを聞かれました?」

「谷崎栞さん? もう有名人じゃないですか」

「有名人?」

「そうですよ。谷崎栞さんはもう私たちの間で有名人です」


 城野内緋奈の口が薄ら寒い笑みに変わった。


「なんたって今は野田大臣が台風の目で注目、後ろ立てに拝み屋さんがいるって話ですよ。おじい様も唸ってますし、ふふっ、うらやましいことですわ」

「うっ……」


 栞の出張先絡みか。

 でも、おじい様って関係あるのか?


「うーん。あっ、広瀬さんでしたね? 口ぞえしていただけません。会うだけでもいいんですよ」


 いろいろ、察しがいいようだが、肝心の栞とは要の偽者イミテーションでもう会っていることは黙っておこう。


「今は使用で道場には来ていないので、後日要望がありましたらうかがいます」

「そうですか、会えたら誰がナンバー1か知りたかったのですが残念です。ではまたの機会に」


 城野内は踵を返して、西浦たちのテーブルに戻っていった。

 いがいとあっさり引き下がってくれたので、少しほっとする。

 私がナンバー1と言いたいような素振りだったので、先が思いやられる。


「私あいつ嫌い、何か無視された気分」


 隣で黙っていた彩水がおかんむり状態、城野内は教祖を前に先ほどから何も感想なしだから仕方ない。


「ところで忍ちゃん、先代のこと知ってたの? 何か大臣がどうとかあいつ言ってたし、聞きたいな」

「あーっ、ははっ、うっ、うん。今度ゆっくりと……」

「本当よ」


 上目使いでにらんできたので、麻衣の居るテーブルに逃げ戻るが、反対側の席もよくない雰囲気。


「ここ、思ったよりショボイよな」

「ああっ、教祖もちっこく威厳なくて笑える」

「あれで俺たちより年上なんだぜ」

「はははっ」

「城野内さんも、十分に教祖やれるんじゃないですか?」

「ふふっ、いえいえ私など」


 微笑む城野内の周りに東京三人組が、食事をしながらこれ見よがしな発言。


「何あの人達。酷くない?」


 隣の麻衣も俺の耳元で不満げにささやく。

 そして少し離れていたが、食べ終えた今村もしっかり話を聞いていた。


「お前ら。彩水様に恥ずかしげもなくよく言えたな。レベルもないくせに、恥を知れ」


 立ち上がって、東京三人組のテーブルに指を差しながら歩いて抗議し出した。

 今村の怒声に近い声を浴びても、怯まず言葉を返す三人。


「なにマジになっているんすか?」

「だって、事実じゃん」

「ホントーのこと言って何が悪いんだ?」

「おまえら、目上の者への発言もなってないな」

「止めるのよ。道場ではお互いに相手に敬意を持って接しなさい。同じ保持者でしょ?」


 竹宮女医が割って入り、お互いをなだめて収まった。

 だが、他の保持者が険悪なムードに引いているのが見える。

 どうも東京三人組は、わざとかき乱しているような気がしてきた。


「忍。忍、あれ、あれ何?」


 突然、麻衣が俺の肩を叩いて呼んで驚く。


「どうしたっ?」

「煙に炎よ。ボヤじゃない?」


 道場から引き戸が開いた先の廊下を見ながら、立ち上がった。


「火事だ!」


 他の保持者も気がついて、廊下に体を向けてこちらに声を上げた。

 声にすぐ反応した道場主が廊下に駆け出し、消火器の設置場所に向かう。

 俺の目には何も映っておらず、麻衣が指差す廊下のボヤは、まやかしイミテーションと核心した。

 消火器を持った道場主の後ろに直人がつき、両手を広げ保持者たちに近づけさせないようにし始める。

 その直人の後ろへ浅丘結菜が駆け寄り同じ事をするが、危なっかしく純子が連れ戻して保持者たちの中へ戻った。

 中房三人組も飛び出し、廊下で喜ぶように声を上げる。


「うっひょー、熱そう」

「燃えてる、燃えてる」

「どんどん廊下に広がっているじゃん」


 他の保持者たちも、廊下の炎を遠巻きに見はじめて騒然となる。

 遠隔視オブザーバーで隣の彩水からのぞくと、結構大きな炎が廊下に広がっている。


「お前が先ほど現した、バーニングの燃えカスじゃねえか?」

「ーんなわけないわ……よ」


 俺の冗談の突っ込みに彩水が少々取り乱したところへ、竹宮女医が携帯電話を取り出してやってきた。

 すぐ通報だと思い、竹宮女医に小さい声で制止する。


まやかしイミテーションです」

「えっ? そうなの。……じゃあ、悪戯ね」

「燃え続けるようなら、栞か俺が消します。でも、誰が何の目的か特定できるまでは」

「そう、わかったわ」


 そこへ道場主が何も燃えてない廊下に、消化薬剤を噴出させていた。


「あっ」


 俺と竹宮女医が同時に声を上げる。

 道場主にも話しておくべきだったが、消火訓練と思えばいいよな、うん。

 もちろん、火は消えてくれない。


 そのとき俺の左上に晒していた遠隔視オブザーバーに、異変が起きた。

 監視中の美濃正目線が廊下から階段へ変わりだしている。

 美濃正が行動に出た。

 気配を消して、迷うことなく二階へ上がっていく。

 注意してみると、美濃は事務所へ入り経理の中村さんがいる中、本棚のファイルを探し一冊を取り出した。

 まやかしイミテーションで本人と音を消した状況に、つい上手いと誉めてしまう。

 そのせいで中村さんは、美濃にはまるで気づかず事務作業を続けている。

 美濃目線を追っていくと、ファイルの希教道幹部情報を探しているのがわかった。

 その情報ページを胸のカメラに向けて、ゆっくりめくっている。

 これはすぐ取り押さえるべきだな。

 近くで消火活動を見ていた彩水に、手柄を立てさせるべく声をかけてみた。


「事務所にいる中村さんが用があるって」

「中村さん? なんだろう」

「すぐ来てくれってさ。急いでたぞ」

「そう。でも火が」

「道場主が消すよ」


 廊下に歩き出した彩水に、今村が気づいて後ろについて行ったのは予定通り。

 そこへ、要が念話で話しかけ状況の共有を確認する。


まやかしイミテーションなのね?』

 ――美濃正が仕掛けてきた。

『この騒ぎを起こした?』

 ――おそらく、美濃は今、忍者になって事務所に行っている。

『えっ? この騒動は陽動なの』   

 ――たぶん。目的も希教道の情報らしい。事務所の場所とか把握されてたから、能力判定の残留思念抽出サルベージで深く潜って彩水から情報収集してたと推測できる。

『レベルは上級っぽい。能力判定は自己申告だから隠してたのね。忍君がいて良かった。私の偽者イミテーション遠隔視オブザーバーのちょっとした穴だわ。それで美濃はどうする?』

 ――彩水に行ってもらった。バックアップするが、彼女に捕まえてもらおう。

『うん、騒ぎの原因がわかったから、消えない炎を消してみるわ。あの3人組も怪しいから監視続けてる』


 遠隔視オブザーバーで彩水目線を追うと、二階の事務室に今村と入ったところだった。

 すぐ美濃の存在してないイミテーションを解除するイメージを投影する。


「あら? そこで何してんの」


 すぐ解けたようで、彩水が美濃に気づいて声をかけた。

 美濃は驚いて硬直し、持っていたファイルの一冊を落とす。


「み、見えるのか?」

「何言ってるの」

「おまえが何でここにいる? どういうつもりだ」


 今村が声を上げて問いただし、それを聞いて経理の中村さんも驚き立ち上がる。

 慌てた美濃だが、体制を立てるとすぐ彩水の前から消えた。


「わわっ、どうして?」

「消えた」


 また存在してないイミテーションを使われたが、同じパターンで三人を解除させると、美濃は彩水の横をすり抜けようとしていた。

 すぐ後ろの今村が、美濃の腕を掴んで取り押さえる。


「こそこそ何している」

「いやっ。その、トイレを間違えたようで……」

「んなわけないでしょ」


 後ろから彩水が、落としたファイルを拾い上げて、近づいた中村さんに手渡した。


「その見ていたファイルは、希教道幹部名簿、落としたのが去年の会計帳簿だわ」

「会計帳簿? お金の流入過程を調べるって……頼まれたわね」


 彩水と中村さんの会話中に、突然上から水滴が落ちてきて、持っていたファイルに当たるといくつもの穴を開けて溶け出した。


「わーっ」


 経理の中村さんは、慌ててファイルを放り投げる。

 同じく美濃を押さえていた今村陽太が、声を上げて飛びのく。


「さっ、作務衣の裾がこげるように溶けてる。なんだこれ?」


 美濃を床にはいつくばせて、溶け出した作務衣を脱ぎ捨てる今村。

 その横で、投げ出されたファイルが見る見るうちに溶けて床まで溶け出していく。

 呆気に取られている三人に、また水滴が目の前にボタボタと落ちてきて、慌てて後ろへ下がった。


「熱っ……」


 彩水が手にかかった水滴は、火傷のような痛みを感じて声を上げる。 

 床に落ちた水滴は、床を溶かして黒い穴をいくつも作っていった。  

 

「硫酸水?」

「今空中から沸いたように落ちたよ」


 彩水と経理の中村さんが、驚愕に顔を歪めて足元の溶けて行く様子を見つめている。

 今村も目の前に落ちてきた多量の水滴に肝を冷やして、美濃の背中から飛びのいた。


「まるで硫酸の雨だ」


 今村から開放された美濃は、転がるように廊下へ出ていく。


「あっ、陽太。逃げたわよ」


 彩水が声を張り上げて、今村があとを追って廊下へ出が、俺が声を出して言った。


「大丈夫」


 二階に上がって廊下に待機していた俺が、美濃を上手く取り押さえることができた。

 もちろん、彼のまやかしイミテーションは視えないので、逃げないように後ろ手を捻り上げる。


「くっ、何で?」


 バードにやられたことを真似してみたが、痛がるので効いてるようだ。

 胸に隠してた小型カメラを取り上げると、発信式の小型器具がポケットから出てくる。


「そんなの持ってたのかよ」


 前に立っている今村も驚いて言った。


「どこかに情報を送っていたってことか?」


 美濃は取り上げられたカメラをいちべつしてから、顔を背けて口を閉ざす。


「ぼやもここの硫酸も、お前の能力だな!」


 俺が質問するが、答えず顔をそらしたまま黙秘する美濃。

 部屋の硫酸のあとは消していたが、彩水たちは恐る恐る事務所から顔を出して美濃を見る。


「能力はそいつに間違いないよ」


 彩水が俺の前で片ひざをついた美濃に、指を差して断言して言った。

 今村が美濃の頭を持って、そらした顔を彩水に向ける。


「何のつもりかしら?」

「返事なしかよ」

「廊下の火事も派手にやってくれたわね」

「……違う」

「うん、今なんて?」


 美濃は、顔を上げてメガネも指で上げ答える。 


「僕……じゃない」

「お前じゃないのか?」


 今村が美濃を小突いて答えさせた。


「……騒ぎに便乗しただけだ」

「じゃあ、あれは西浦か?」

「うん? 忍なんか知ってるの?」

「いや、まだ終わってないってことだね」


 棒立ちの中村さんから、押し込める場所はないか聞くと奥に空き部屋があると答える。

 すぐ美濃をそこへ入れて、今村に外で見張り番をしてもらうことにした。

 もちろん鍵をかけて、あとでいろいろ聞くためにも。


「中に入っていじめるなよ」

「するか。こっちが硫酸で溶かされるわ。それであの野郎は何者だ?」

「落ち着いたら話すことになる。今は逃がさないように見張っててくれ」






 階段を下り出したところで、彩水が引き返そうとした。


「いけない。中村さんに用があったんだ」

「ああっ、今の美濃の保護だろ?」


 俺はうやむやにさせたが、もう偽者のまやかしイミテーションを含めた零の翔者しょうしゃをばらしていい頃合になっていると感じだした。


「これから彩水は、ぼやの犯人を特定してもらうぞ」

「なっ、なんで私なのよ」


 さっきの硫酸のイメージで、彩水は少しびくついているようだ。

 俺は零翔ぜろかけで全体を把握していることと、前回のバード、その前の草上たちで体制がついてきているようで冷静でいられてる。

 でも、ここは彩水で対峙するのがいいだろう。


「教祖だろ。あの力を見せてやればいい。それでぼやの犯人を西浦に絞り、揺さぶりをかけてくれ」

「西浦って、東京の中坊? 忍はわかってたのか」

「いや、推測」

「なんだそれ。大丈夫なのか?」

「俺やしお……要がフォローする」


 栞に事の詳細を念話で送ろうとしたが杞憂だった。


『忍君の彩水押し立てで、西浦を揺差ぶるのに賛成です』


 俺を遠隔視オブザーバーに返して見聞きしていた彼女には、成り行きは筒抜けだった。

 栞の了解を得て彩水と一緒に下りてくると、廊下のぼやの騒ぎは収まっていた。

 廊下で道場主が頭を垂れて立っている中、純子、直人がモップを麻衣、結菜がバケツと雑巾を持って白く泡立った消火薬剤の後始末をしている。

 道場の方では、竹宮女医と要の前で城野内緋奈が詰め寄って抗議しているのが聞こえてきた。


「説明してください。あのぼやは教祖が出した炎の残り火じゃないんですか?」

「ぼやは、ただいま確認中です。しばらく待機していてください」


 要が立って答えているが、隣で椅子に座っている竹宮女医は我関せずの構えでノートパソコンを眺めている。

 竹宮女医は、要から情報を受け取っているのか静観の構えのようだ。


「教祖としては、致命的な不手際ですよ」


 それを聞いた彩水は、俺より早く前に出て彼女らの輪に入る。


「不手際ってなんなの」

「あら、逃げて隠れてたのかと思いましたわよ」

「随分舐めたこと言ってくれるわね。私のバーニングは触ると熱いけど、建物に燃え広がることのない優れた一級の炎弾なのよ」


 俺が着くと口論は始まっていた。


「はははっ、あれが一級? それならもう教祖廃業していいんじゃなくて」

「口だけは達者なようだけど、これならぼやの犯人もわかるってものよ」


 彩水は片手を上げて俺を振り返って微笑むので、すぐ彩水目線に注視すると握りこぶしの炎が作られ、遠巻きに見ていた西浦へ軽く投げたところだった。

 すぐ西浦の目の前に着弾して、炎は破裂して霧散した。

 さすが彩水……直接攻撃とかストレートすぎるだろうと、心の中で声を上げる。

 驚いたのは西浦とその周りにいた東京組で、罵声が飛んできた。


「何してくれるんだ。ちんちくりん教祖」

「ノーコンは選手交代だ。教祖も他と変われよ」

「城野内さんの方がぴったりだぜ」


 予想が外れ西浦からの動きがなく、城野内も彩水の行動に意味を計り兼ねている。

 彩水も誤爆とわかってきたのか、俺に振り向きにらんできたので、思わず目をそらしてしまう。


「この、忍」


 と彩水が声を上げると、腕も上げて振り下ろした。

 俺にバーニングを投げつけたようだが、見えないからその場所を適当に避けてみる。


「あっ、避けるな」


 外れたようだ。

 だが、さすがに焦ってきて、西浦のランクを俺が見ていれば、色々情報を引き出せていたのを悔やむ。

 いや、その相手をしていた竹宮女医からフラメモを使って、西浦の思念映像を持って来れないか? 

 んっ、女医が思念映像を見てなければ無理か。

 他に何か……どら焼きだ。あの箱は、まだテーブルの上にあったはず。

 すぐどら焼きの箱が置いてあるテーブルに行き、さりげなく触りながら椅子に腰掛けた。


「周りを巻き込んで八つ当たりですか? それとも遊んでらっしゃるのかしら。ファイヤースターターさん」


 腕を組んだ城野内が、また彩水をあおってきた。


「ちょ、ちょっとした手違いだ」

「手違い? 手違いであんな危ない炎を人に投げつけるのですか。あきれました」


 苛立って歯軋りが聞こえてきそうな彩水を制して、俺は城野内に声をかけた。


「あきれると言いますが、城野内さんもなぜ、そのように隠れたまま能力を使ってる姿勢でいるんですか?」

「ええっ?」


 俺の言葉に城野内は、明らかに動揺しだしていた。


「内の教祖が西浦君たちに能力使ったのは、その意味を正すためですよ。なあっ、そうだろ?」


 彩水に言葉を振りながら、上手く合わせてくれと何度か首を縦に振って見せた。


「あっ、ああ。そっ、そうだとも。忍の言うとおりだ」


 以外に彩水は空気読める子だった。

 西浦を見るとやはり慌てだしたので、城野内を挑発させてボロを出すように誘ってみる。


「なんなら教祖のさっきの火の玉バーニングのように、その能力を見せて欲しいものですね」

「……わっ、わかりました。お望みなら何か見せて差し上げますわよ」


 動揺から居直り始めた城野内が、誘いに乗ってきた。

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