第57話 白咲要

 谷崎先輩目線で、一部始終見ていた。

 そして、栞が撃たれた。

 撃たれた。

 スナイパーだ!! 

 バートが持っていたのが、初めてライフルだと自覚する。

 なぜそんな物騒なものが突然? 

 いやっ、昨日から会談場所を知っていたから、ライフル一式を夜の内に設置していたんだ。

 栞を初めから狙っていた。

 足が震えだす。


 ――どうすればいい? 


 バートは急いでライフルの解体を始めている。

 やつには零翔ぜろかけが効かない。

 そして能力者は消す。

 俺も少しやばいんじゃ……。

 唐突に目の前にバートが現れた。


「えっ?」


 手に全長30センチのナイフ。

 後ろに下がるが、左腕に熱いものが瞬時に広がる。

 続いて激痛。

 斬りやがった。

 恐怖。

 でも浅い。

 髪が持ち上がり体を押さえつけられて、首にナイフがかかった。


「監視カ?」


 巨漢が質問をしてきた。

 同時にバートの接触で、自然とフラメモが発動して周りが真っ暗になる。


「何のこと……うっ」


 否定しかけたら、腹に拳が入ってきた。


「他の希教道のメンバーハ?」

「狙撃しただろ」

「チッ。部外者カ」


 そう言うと、俺の持ち物を調べだした。

 部外者ってなんだ? 

 いいや、それより保持者とバレたら殺される。

 何とか逃げる手段。

 体力では問題外。

 零翔ぜろかけは駄目。

 フラメモも真っ暗。


 ――非力だ。


 他に何か。

 何かないのか。

 バートが俺の携帯電話を引っ張り出した。

 途端に着信音がワンコールだけ鳴った。

 すぐ携帯電話を落としたバートは、俺を引き寄せて足で携帯電話を破壊する。

 ナイフを持った手は、外にむけて誰が来ても対処できる状態になった。

 俺は自然とバートと抱き合う格好になったところで、移念体ムーブオーラが頭に浮かんだ。

 試してみる価値はある。

 偶然を装い思いをこめて首元に口をつける。

 バートは速攻で俺を突き放し、押し倒してきた。

 すぐ腹ばいにされ、手を後ろに回され足を重石にして踏みつけられる。

 おかしな行動ととらえられたようだ。


「……ったぁ」


 斬られた腕の傷と押しつけられる痛みで、顔をしかめる。


「何をしタ?」


 聞かれたのと同時に左太ももに激痛が走る。

 ナイフで刺された。

 歯を食いしばって痛みに耐える。


「いっ、うっ……くっ」


 苦痛の喘ぎしか出てこない。

 バートは俺をのぞきこんで、首元をさすり考えている。

 幻覚が起きている様子は感じられない。

 いよいよ最後の気分がしてきて、抵抗を続けるためバートを集中してみる。

 すぐアクセスできたときの、頭が持ち上がる感覚が襲ってきた。

 周りを見ると屋上のコンクリートの地面はなく、砂塵の舞う土色大地の異国だった。

 近くに平屋の家々が立ち並んでいる。


 ――おっ? 


 これは繋がった? 

 バート目線の移念体ムーブオーラ映像か? 

 左右に視線を向けるが、バートは動かない。

 慎重に状況判断をしているようだ。

 唐突に黒い箱のようなものを持った少年が現れ、バートに駆け寄ってくる。

 俺から足をつけたまま立ち上がる。

 少年が俺の頭上を越えたところで破裂。

 爆風と煙が周りに立ち込めた。


『ぐあああっ』


 巨漢は叫びながら後退すると、周りが屋上に戻っていた。

 これは幻覚イリュージョンだ。

 魔邪まやも発動している。

 給水タンクへ下がって頭をかかえてうずくまったバートから、俺は逃げるために腕と足を引きづり後退する。

 そこへ後方から声を投げかけられる。


「忍君、大丈夫?」

「要!?」


 俺は答えて振り返ると、その少女が走り寄ってくる。


「これは酷い」


 俺の二箇所の傷を見て、ハンカチを取り出して足の傷口に止血。

 ポニーテールを束ねているリボンを外し、腕の傷口を止血する。

 そのあるまじき行為を見ながら俺は感嘆していた。


「生きていたのか?」


 違和感を持ちつつ安堵した。


「すぐ医者を呼んでくるから」


 立ち上がる要に、


「まだバートは危険だ。止めで失神させないと」


 と俺は急いで告げた。


「バートに移念体ムーブオーラをかけたのですか? じゃあ、直接が効いたのですね」


 話しながら、うずくまり低くうめいている巨漢を見つめる。


「よくわからないが、幻覚イリュージョンもできるようになった」

「そう」


 要は返事をすると黙った。

 少ししてバートがうめきながら顔を上げると、体を一回震わすと硬直したように床に倒れて死んだように静かになる。


「本当ですね。ただ移念体ムーブオーラで立ち上がった過去の記憶のようですが、アクセスはできました」


 要は何事もなかったように戻ってくる。

 それに少し違和感を覚えつつ、髪を下ろした要は栞になっていた。

 事態が落ち着いてきたら、違和感に気づいた。

 要に現実に応急処置されていたことに……こっちの要が、本物の栞。

 それで歩けていることに。



 ***



 俺は集中治療室に運ばれ、腕に四針、足に七針縫うことになった。

 とくに太ももが深く裂けてるとのことで、そのまま入院である。

 バートは急患診療室に運ばれるが、顔に軽い火傷のまま昏睡状態なので、起きたら事情聴取らしい。

 狙撃された現場は、会長グループがすぐBMWで離脱、近くのスポーツ会館にしばらく避難した。

 ワゴンに乗った道場主メンバーも俺の怪我を知り、中央病院に駆けつけ入院手続きを取ってくれた。

 実家にも連絡してくれて、母親がマンションに立ち寄り着替えを持ってきた。

 竹宮女医と話をしてしばらくいたが、


「一安心」


 と言って帰っていった。

 希教道の計らいか、個室にベッドごと移動する。

 そこへすぐ警察が来て、バートとの経緯を事情聴取された。


「展望デッキから風景を見ていて巻き込まれた」


 入院中の患者の付き添い人の友人として語ると、軽い質問だけで済んだ。

 付き添いの友人は谷崎さんのことで、嘘は言ってない。

 困ったのが谷崎会長で、足の不自由な孫と会っているときに内偵者から暗殺されかけたとニュースになり、病院に戻ってから病室に記者が殺到した。

 被害者の俺の病室に記者は来なかったので、道場主たちが取材に受けたか追い払ったのだろう。

 栞自身も会長の孫として取材が来たそうだが、断ったとあとで言っていた。

 夕方のニュースで、会長のインタビューと現場の地面から銃弾痕が三発見つかったが、けが人はいないと伝えられていた。

 今回の事件で会長の孫が希教道の信者だと報道されていた。

 だが、撃たれた報道はされてはいない。

 目撃証言があったと思うのだが、どちらかが揉みつぶしたのだろう。

 俺が谷崎さん目線で見た栞の撃たれた姿は、本人でなく偽者イミテーションだった。

 まだ栞の秘密を全てわかっていなかったことを知る。

 そう、栞は歩けるのだ。






 母親が帰ったあとに、ポニーテール姿の少女が病室にやってきた。


「ごめんなさい」


 彼女はベッドの横にあった、折りたたみ椅子に座り控えめに言った。


「謝ることないんだけど」

「忍君を危ない目に会わせました。まさかライフルや大きなナイフ持参だなんて思わなくて、考えが足りなかったです」

「俺も自分から手伝うって言ったんだし、気にしなくていいよ。それで、今日病院にいた要が本物だったのか聞きたいんだが? 歩けることの話をね」

「えっと、今日は一緒にいました。黙っててごめんなさい。零翔ぜろかけのレクチャーや会談の下調べで余裕がなかったので、時期が来てから話そうと思ってました」

「うん。大方予想はしているんだけど……教祖を降りていること。谷崎栞と白咲要の名前を二つ分けて使っていること。これは今回のバートみたいな者に対してのかく乱だね」

「そうです。もっと先の事態だと思っていたのですが、高田さんの案です」


 彼は参謀のような役割をしているのか。


「今回は上手く引っかけたってことか。会長たち何人もいたけど、前に言った写真の方法かい?」

「はい、車椅子には身代わりの等身大人形ドールを配置して、会長や公園の人たちには集団幻覚ファントムシンドロームを視せました。谷崎先輩のヒートシーカーもしっかり光らせて」


 そう言って、要は一枚の公園の写真プリントを見せた。


「バートは零翔ぜろかけの影響を受けないのに、狙撃したのは、素直に人形ドールを勘違いしたってこと?」

「そうなりますね。谷崎先輩のマイク実況や短時間でのスコープ確認では、身代わりを見抜けなかったと思います」

「即効で済ませて逃げる予定だったんだろうな」


 いや、バートに捕まったときに、『部外者カ』と漏らしていた。

 バートも狙撃する前後で、車椅子が身代わり人形ドールだと気づいたんだ。

 それを俺が知らなかったから、気を抜いたのかもしれない。


「ついでに血痕の演出もさせてもらいましたけど、会長たちへの効果は絶大でした。本当に驚いて逃げていきましたから」

「栞の車椅子はそのための演出なの?」


 俺の話を要が遮って言う。


「立てないのは本当です。でも動き回れるのも本当です」

「えっ、それ矛盾してない?」


「栞は小学五年のときに自宅の階段から落ちて、頭を痛めてしまいました。それ以来、足が動かなくなって車椅子生活です」


 要が栞を他人のように語り始めたのと、その内容に二度驚く。

 俺を黙って見つめる要に、


「わかった」


 と理解を示して先をうながす。


「その怪我から三年経ったある日、栞は気分が悪いと言って車椅子の上で失神したそうです。側には竹宮女医と回復訓練の渋谷さんがいてベッドに運ぼうとしたのですが、目を覚ましてしばらく呆けてたあと、ゆっくり立ち上がって歩き回ったそうです。女医たちが驚いている間にまた倒れたんですが、栞はそのときの記憶が飛んで覚えてなかったんです。でも私は覚えてました」

「えっ?」

「そのあと、栞は記憶がない時間が何度か続いてわかったんですが、竹宮女医が解離性同一性障害だと結論付けました」

「それって、栞と要は多重人格者?」


 驚いて俺は要を見入ってしまった。


「栞じゃない時間がポニーテールの私、要です。そして歩けるんです」


 椅子から立ち上がって歩き回って見せた。

 ただ、俺には偽者イミテーションの区別がつかないが、彼女の前身を眺められたので目の保養になった。


「多重人格になると、立てるのか?」

「ええっ、栞だと立てなくて、要なら立てるのです。竹宮女医の審査で、栞が階段から落ちて怪我をしてできてしまった脳の小さな良性腫瘍が、要に変わると消えていると診断してくれました」

「そんなことあるのか?」

「いくつか症例はあります。人格が変わったらハチに刺されて腫れた場所が治っていて、また人格が戻ったら治った部分が腫れだしたと」

「ほう」

「人格変換で糖尿病やてんかん、そして腫瘍とかがなくなる実例があるそうです」

「栞のとき、立って歩けないのは本当なのか……じゃあ、入れ替わったときの記憶は繋がりはどうしているの?」

零翔ぜろかけを使って解決しました。意識が零の聖域に繋がると、瞬時に別人格の出来事や約束事が浮かび上がってくるのです」

「二つの時間を繋げてくれる作用を零翔ぜろかけが起こしたわけか」

「お陰で人格同士、意思の疎通もできて、零の翔者しょうしゃとして幅が広がりました」


 それは残留思念能力で片方の記憶や思念を抽出してるようなものか。


「人格交代は、どうなってるの?」

「感情の起伏で起きるのがわかって、今では意識で変えられます。こんな感じに……」


 要が言ったら、体がゆっくりベッドに倒れてきて、俺が急いで彼女を抱きとめようとするが腕の傷が痛んだ。


「あっ、忍君。ごめん。もーっ、要は」


 栞に代わった彼女は、俺の腕から抜けられず、腰から下が動かないようだ。

 手を放したら床に滑り落ちてしまいそうになっていた。

 顔が近いので彼女のチャクラに触れて、移念体ムーブオーラを発動しないように顔を背ける。

 心臓が早くなり傷口が大きく脈打つ痛みに見舞われるが、なぜか心地良い痛みに感じた。


「あっ、あっ、あっ、ごめんなさい……」


 慌てて顔が真っ赤になってきた栞は、目をつむり俺に体を預ける。

 すぐ目を開け俺を凝視すると、笑顔でゆっくりと立ち上がる。

 人格交代した?


「あはっ、怒られちゃった」


 要になった彼女の真っ赤な顔は、見る見る消えていった。


「俺で遊ぶな。病人だぞ」

「ごめんなさい。でもわかってくれましたか? 突然の人格交代は、朝目が覚めた状態に似ています。状況もすぐ思い出します」


 そう言って椅子に座る。

 俺はすぐ麻由姉との意識の同居を思い出し、同じことを彼女たちがやっているのだと自覚する。


「じゃあ、今までも偽者イミテーションでなく今回のように、直接会ってたときがあるんだな」


 歩道橋で立てなくなって背負ったシーン、要の部屋でベッドに座りっぱなしだったシーン、指キッスで移念体ムーブオーラをじかに体験したのを思い出す。


「思い出して当ててください」


 そう言うと、弾けるような笑みを俺に向ける要。


「いや、見分ける方法を教えてくれ。性格は同じっぽいし、会っているときも今みたいにコロコロ変わっていそうだし」

「内緒です」

「わかった。そのうちに突き止める。だが、一つだけ当てられるぞ。弓道場の試合だ。あれは集団幻覚ファントムシンドロームを使ったまやかしイミテーションだろ?」

偽者イミテーションを使ったなんて、一言も話してません。それに言ったはずです。私はしっかり弓道できるって」

「えっ。集団幻覚ファントムシンドロームまやかしイミテーションを見せるやり方教えてくれてたから、てっきり……」

「方法論を聞かれたから、教えたんです」


 それを聞いて、俺はベッドの角度をつけた背部デッキへ崩れこむ。


「最後に私と栞が同一なのは、これからもオフレコにしてください。高田さんに脇が甘いと叱られました」

「だよな。俺も今回、体で勉強したよ」

「だからさきほど、柳都超心理学研究室? 黒メガネの三竹さんだったかな、あの日の夜のこと黙ってもらうように約束してきました」

「ええっ? じゃあ麻衣や谷崎さんに?」

「一人で手一杯です。これから二人に会おうかと思っていますが」

「麻衣はしなくていい。俺があとではっきりと言っておくから」


 俺は慌てて要に言いよった。


「私は浅間さんには、会っておきたいんです。謝っておかないといけないから」

「あっ……その、まずは俺から」

「忍君だって大変でしょ? 浅間さんかなり怒っていそうだし」

「いや、いや、俺から謝っておくから」

「そうですか? ……じゃあ、おまかせします」


 笑う要を見て、二人が会って笑い会ってるところを想像して震え上がった。


「今度は私から聞いてもいいですか?」


 真面目になった要は、俺の顔を見る。


「ああっ」

「どうやってバートに幻覚イリュージョンをかけたのですか?」

「うん。……俺も一杯一杯だったので理由はわからない。捕まったときにフラメモをしたけど真っ黒で効果なし。でも携帯電話にワン切り着信があってチャンスができたんだ」

「竹宮女医の撤収コールですね」


 要が補足を入れた。


「上手くやつの首元に口が当たったんだが、しばらく効果なし。そこでバートに倒されて必死にあがいていたら、幻覚イリュージョンが発動していて 遠隔視オブザーバーで確認できたんだ」

「首元からの移念体ムーブオーラが幻覚行使に繋がったようですね。気の出入り口チャクラ経由なら可能なわけか」

「思い直すとそうかもしれない。それで過去の幻覚が発動して、零翔ぜろかけの防御が解けたとみれるかな」


 あっ、おっさんの喉首にキスとか、嫌なことも思い出した。最悪で悶絶しそう。


「何にせよ、忍君が助かってよかったです」

「でも……バートって、何であんな防御できてたんだろ?」


 俺は要に問い返す。


「バートは目が見えてなかったんです」

「えっ? 嘘だろ。ナイフ振り回してたぞ。ライフルも撃ってたし」

「バートがいつも黒サングラスで、くわえタバコのスタイルでしたが、変だと思いませんでした?」

「それが種明かしか? たしかに夜でもサングラスしてたし、必ずタバコらしい物くわえてたが、あれは噛みタバコみたいな一種なのかな」

「サングラスは小さなデジタルビデオカメラとCPUになっていて、その映像信号を無線で送り舌に電気として伝える装置。くわえタバコの正体です。常人と変わらないのでかなりの訓練を経て到達したと思います」

「ちょっとまて、舌が目の役割をしているって、本当に目がみえてないってこと? いやいや、その装置ってなんだよ」

「私も知らなかったのですが、高田さんから情報確認を取りました。忍君はブレインポート脳への入り口って聞いたことありますか?」

「いいや。それがサングラスとくわえタバコの通名?」

「ええっ、舌で見る視覚障害者用の装置がブレインポートです。バートの装置はその高度な改良版だと思って差し支えないでしょう。暗視装置で夜や暗がりなど私たちよりはっきりと見えているだろうってことです」

「見てるものが違うから、 遠隔視オブザーバーは使えず、まやかしイミテーション幻覚イリュージョンも現実の電気的刺激に過去の幻覚は調合されず起動しなかったってことなのか」

「唯一、過去の記憶が功を奏したのですね。私もあの記憶から介入したらまやかしイミテーションで眠らせることに成功しましたし、そこから残留思念抽出サルベージも使えました」

「あっ、もしかして倒れてたバートから情報を?」

「軽くですが、失明前の記憶へアクセスできました。残留思念抽出サルベージできなかったのも、ブレインポートの記憶になっていて抽出されなかったと推測できます」

「ブレインポートの記憶は認識されずに不一致として行使されなかったってことか……それだとサルベージした情報は、目が見えてた頃の?」


 そう聞くと軍人時代が抽出され、最終的にアフガニスタンで自爆テロに遭遇、重症で帰還から情報は途切れたとのこと。

 それを聞いて幻覚イリュージョンで現れた少年のイメージに納得した。

 要は総括のように、新薬の一般売りの差し止めのための会談も無駄に終わって、次の段階に入ってしまったと話して帰っていった。






 独りになり麻衣達、クラスの三人に入院したと携帯電話のメールを送る。

 すぐ麻衣からコールが来た。


『どうしたの入院って?』


 慌ててる麻衣の声。


「うん、ちょっと事件に巻き込まれて」

『えーっ、何なの? 大丈夫なの?』

「平気だよ。入院も四日ぐらいとか」

『四日も!? 私が退院したばかりなのに』

「麻衣だって調子はどうなんだ? 学校の方は大丈夫か?」

『きっ、昨日も行ったでしょ』

「それならいいけど……」


 移念体ムーブオーラと関係する話に近づくと口が重くなる。


『うん……じゃあ、明日見舞いに行くからね』


 そう言って麻衣からの通信が切れた。

 喫茶店で彼女のとった拒否行動や、学校で元気がなかったことが思い出されて胸が苦しくなる。

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