盲目の狙撃手
哲翁霊思
序章
建設中のビルの中、視界は半々に分かれた変な状況。
しかし、自分にとっては仕事での日常的な光景だった。
右目を瞑ると、双眼鏡の視界が。
左目を瞑ると、スコープの視界が。
これを両目で見ると、左半分に広角の視野、右半分に望遠の視野が広がる。
周りを左目で確認していると、目的の人物を発見した。
途端に緊張が走る。
左目で人物を捕捉しながら、右で照準を合わせる。
同時に脳内で着弾の計算をする。風は無し、相手は横移動、直線距離はおおよそ1500m、位置としてはこちらの方が10m程高い。相手の移動速度と落差を考慮して、何もないところへ照準を合わせる。
ゆっくりと引き金に指を当て、予測した時間までの間呼吸を整える。
そして一呼吸置いて、引き金を思いっきり引いた。ズドンッというとてつもなく大きい音と衝撃が体や辺りの空間に響く。
その数秒後、目標の人物はさっき放った弾丸に当たり倒れた。スコープからみたところ、ちゃんと心臓のあたりに命中したらしく、周りの様子から倒れて動かなくなっているようだった。
今日も何とか一撃で終わった。そう思ったのもつかの間、俺はすぐに弾丸の箱と銃本体をスーツケースにしまう。填めていた鹿革の手袋をポケットに仕舞いながらビルを駆け下り、何食わぬ顔で関係者を装い工事作業員用の扉から出る。制服である黒いジャケットに付いた粉末状の建材を払いながら、赤いネクタイを正し、人混みへと姿を消す。帰るまでが、仕事だ。
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