3 司波さんの秘密
「……あの、さ」
「ん? どうしたの?」
「わ、私さ」
「うん」
「ら、ライブ配信してるの」
満を持してという風に僕に視線を向けてくる司波さんだが、これでは僕も胸ばかり見ているわけにはいかない。
残念だ、本当に。
それで、司波さんがライブ配信をしているって?
まぁうん。
だいぶ前から分かってたよ、わざわざ言わないけど。
「それって『ライッター』で、だよね?」
「う、うん」
「僕も毎日ライッターでのライブ配信は見てるから結構知ってるよ」
「そ、そうなの?」
「だから別に司波さんがライブ配信をしているからって別に引いたりしないし、むしろ凄いって思う」
「す、すごい……?」
「だって、好きだからライブ配信をしてるんでしょ?」
「……うん」
「好きなことを頑張れるってのは凄いことだと思うよ」
今の世の中、皆が皆好きなことだけをやれているわけじゃない。
生活するために嫌いなことをやっている人だっている。
そんな中で好きなことのために時間を割いて、リスナーと一緒に楽しい時間を過ごしているっていうのは何も恥じることじゃないし、誇るべきことだ。
まぁやっぱりそれでも確かに司波さんがライブ配信をしてるなんて意外なことではあるけど……。
「司波さんがライブ配信していることは誰か知ってるの?」
「…………」
どうやら僕だけが司波さんの秘密を知っているらしい。
いや、秘密だったかどうかは別に知らないが、女の子と二人きりの秘密ってなんか、いいじゃん……?
まぁでもこれまでの反応を見るからにどうやら秘密じゃなかったとしも、ライブ配信をしていることがリアルでの知り合いにバレるということは恥ずかしく思っているらしい。
それは僕も経験しているというかその真っ最中なのでよく分かる。
「心配しなくても、司波さんのことを広めるつもりはないよ」
「そ、そうしてくれたら助かる、かも」
こんな時まで素直じゃないというか。
そこは普通にお礼を言ってくれるだけでいいのに。
まぁそういうところも全部含めて、僕は司波さんことが好きで告白したんだし別に否定はしない。
だって可愛いんだもの。
「僕はもう帰るけど、これからもライブ配信頑張ってね」
「う、うん」
気が付けば案外長話をしてしまっていたようだ。
これから帰ってご飯を食べたりお風呂に入ったりするのを考えたら、夜九時までは結構ギリギリかもしれない。
急いで帰らなければ。
「あ、そういえば聞くのを忘れてたけど司波さんのチャンネル教えてくれない?」
「な、なんでよ!?」
「そりゃあ司波さんがライブ配信してるの聞きたいし」
「恥ずかしいからだめ!」
「えー、じゃあ司波さんがライブ配信してるの誰かにばらしちゃおうかなー」
「そ、それは……」
少しいじわるだったかもしれないけど、司波さんのライブ配信を聞くためだ。
それに僕だって告白を一瞬で振られたりと色々いじわる的なことをされていたので、その仕返しとでも思ってほしい。
「う、ううううぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅ……!!」
こ、こやつ天使か。
そう思ってしまうほど今の司波さんの可愛さは破壊力が高い。
だ、だがこんなところで折れる僕じゃない。
目的を達成するためなら心を鬼にでもしてやる!
「……チャンネル」
「え? なに? 聞こえなかったんだけど」
「だ、だから……ばチャンネル」
「もう少し大きな声で」
「だからぁ! 四葉チャンネルだって言ってんでしょうが!!!!」
「ひぃっ!?」
ごめんなさい調子に乗りすぎました!!
もうしないから許してくださいいいいいい……って……え?
「よ、四葉チャンネル!?」
ん? 聞き間違いかな?
司波さんが自分のチャンネルとして教えてくれたのは僕が知らぬはずもないチャンネル名だった。
きっと僕が今日も四葉さんの配信を聞きたいと思うばかりに幻聴が聞こえてしまったのだろう。
うん、絶対そうだ。
「うん、四葉チャンネル。私のチャンネルだけどどうかした?」
「……はああああああああ!?」
いやいやないないないないない。
ありえないから!!!
僕のお気に入りのチャンネルの「四葉チャンネル」の配信者が司波さんだって!?
さすがにどこの冗談だよ、たちが悪いぞ。
もしかして僕が四葉チャンネルを毎日楽しみにしているのを知っていて、それをからかっているんじゃないだろうか。
「う、嘘だよね……?」
「そんなことで嘘つかないわよ……。それに私の名前覚えてるでしょ?」
「え、司波さん?」
「下の名前も!!」
「司波 凛さん……だよね」
「
「……あ」
「ほら、これがアカウントページ」
そう言って自分のスマホを見せてくる司波さんの画面には、確かに僕のお気に入り配信者『四葉 鈴』のアカウントページが表示されていた。
「ま、まじですかー……」
なんてこった。
まさか僕が告白した人が僕のお気に入りの配信者だったなんて。
一体どんな偶然なんだ。
「私のチャンネルを教えただけでどうしてそんなに驚いてるのかは分からないけど、そろそろ帰らないと配信の準備もあるから。じゃあね」
「さ、さようなら」
「あ! あと私が配信しているってことはくれぐれも誰にも言わないように。言ったら……殺す」
「絶対言いません!!」
司波さん怖すぎでしょ!?
なんというか最後の一言も鬼気迫っていたというか、恐ろしくて堪らない。
そんな司波さんも僕を残して教室から出ていってしまった。
教室の中には僕以外誰もおらず、響くのは時計の針が進む音だけ。
なんだかそれは嵐の前の静けさのような気もした。
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