告白したクラスメイトが実は有名配信者で、その秘密を知った僕は配信の手伝いをさせられている
きなこ軍曹/半透めい
配信ノート 一冊目
1 きっかけ
薄暗い部屋で、無機質なタイピング音が部屋に響く。
部屋を照らすのはパソコンの画面だけ。
「…………」
僕は慣れた手つきでキーボードを打つ。
それ以外のことなんて今の僕には興味がない。
「……出来た」
小さな声でそう呟いた僕はキーボードを打つ手を止める。
そして一度だけ小さく息を吐くと、机の上に置かれていたヘッドホンセットを頭にはめる。
調整することなくすっぽりと僕の頭を包み込むヘッドホンセットは、とても新品とは思えないほど僕に馴染んでいた。
「…………」
それでも僕は特に思うこともなく、目を細めてパソコンの画面を見つめている。
そこにはただ一文だけの確認画面が表示されていた。
【 ライブ配信を始めますか 《はい/いいえ》 】
その問に対して、僕が選んだのは――――
◆ ◆
「好きです……! 僕と付き合ってください……っ!」
放課後の教室で好きな女の子と二人きり。
この時しかないと思ったからこそ、一世一代の告白だった。
成功するなんて思ってもいないし、自分の容姿にうぬぼれたりしているわけでもない。
今の自分にどれだけの価値があるかなんて自分自身が一番よく分かっている。
それでも、この「好き」を「好き」のままで終わらせるなんてしたくなかった。
「無理」
その一言は僕の勇気を一瞬にして吹き飛ばす。
告白に対しての答えとしてここまで端的な答えがこれまでにあっただろうか。
それでもそんな二文字で僕の想いが諦められるわけがない。
「なにか理由があったら、教えてください」
変えられるものなら努力する。
好きな人と釣り合うために出来ることがあるなら何だってする。
「きもい」
「あっはい」
僕の人生で初めての恋はあまりにもあっさりとその幕を閉じた。
「ちっくしょおおおおおおおおおおおお」
なんなんだあいつは!
もうちょっと言葉を選ぶってことは出来ないのか!!
豆腐メンタル舐めんな!!!
僕はあの人に一体何を夢見ていたんだろう。
全くあんなやつを一瞬でも好きになった自分が恥ずかしい。
もう絶対何があっても関わらないことにしよう。
「……はぁ」
残された教室でため息を吐く。
僕の名前は
冴えない高校生男子の代表だ。
因みに僕がさっき告白したのは
クラス内カーストではトップ層に君臨し、普段からギャルっぽい化粧でその顔を覆っている。
今になってはどうしてそんな人のことを好きだったのか分からない。
勝手に妙な幻想を押し付けていたのかもしれないが、それも今日までだ。
司波さんは僕の告白が終わると早々に鞄を持って教室から出て行ってしまった。
普段はすぐに他のクラス内カースト上位の人たちと帰っていると思っていたが、今日は一体どうしたんだろう。
僕は日直の仕事があったから残っていたが、司波さんは別に日直でも何でもないはずだ。
これはもう運命なんじゃないだろうかなんて浮かれていた数分前の僕を殴りたい……!
「僕も帰るか……」
日直の仕事はもう終わらせてしまっている。
今日は別に忙しいというわけではないが、早く帰るに越したことはない。
それに最近はちょっとした楽しみもある。
というのも今、若い世代の間で『ライッター』というアプリが流行っている。
それは個人間でのチャットに始まり、複数でのチャット、通話という豊富なコンテンツを無料で楽しむことが出来るものだ。
その数ある中のコンテンツでも僕が一番気に入っているのは『ライブ配信』である。
そこでは毎日たくさんの配信者たちがそれぞれのチャンネルでそれぞれの生配信をしている。
雑談をする人もいれば、ゲーム実況をする人、自慢の歌声を配信する人などその種類はさまざまで、色んな人たちの好きなことや面白いことを生で見れるということは僕にとって大きな快感の一つだった。
もちろんそんな配信者の中でも僕のお気に入りはいる。
それは『
どうやら若い女の子がしているらしいのだが、僕が気に入っているのはそういう理由ではない。
純粋に面白いのだ、彼女が。
四葉さんの配信スタイルが特徴的というわけではない。
これまで何度も聞いてきたが、彼女のスタイルは「リスナーからのコメントと雑談していく」というありきたりなものだ。
でも僕はやっぱり四葉さんの配信が気に入っている。
少なくとも僕が聞き始めた時から毎日欠かさず生配信をし続け、どれだけ短くても長くてもリスナーとの雑談を楽しむ。
そんな四葉さんの真面目さに知らず知らず惹かれているのかもしれない。
「まぁ、今から帰っても間に合うよね」
普段四葉さんが配信を行っているのは平日は午後9時以降、休日は色々、とまぁこんな感じだ。
教室の時計を見てみても今はまだ6時過ぎなので、特に問題はないだろう。
「ん、これは……?」
告白も振られてしまったことだし僕も帰ろう、としていたところで扉の近くに一冊のノートが落ちていることに気付いた。
特にこれといった装丁もないそのノートはいつから落ちていたんだろう。
僕が日直の仕事をしている時には見なかったような気がするが、偶然目に入らなかっただけだろうか。
僕はそのノートを拾う。
表紙には「HAISHIN」というアルファベットの羅列が可愛い丸文字で書かれていた。
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