不良友達
午後二時を回って、かきいれどきが過ぎてから、客足が落ち着いたところで、私と麻衣は、休憩を取ることになった。
「ま~い」
私達が、店の奥のスタッフ控室に戻ろうとしたところで、店内に入って来た一人の女の子が、麻衣に声をかけてきた。
「莉子じゃない」
麻衣が、その女の子の顔を見て返事を返す。
彼女――
麻衣と同じ中学出身で、以前は仲が良かったらしいけれど、高校に入ってからは、学校にもあまり出てこなくなって、悪い連中と付き合っている、みたいな悪い噂も流れていて、麻衣も、距離を置いて接するようになったらしい。
金色近くまでブリーチして、毛先をカールさせて、トップを立たせてボリュームをもたせた髪型で、ファッションも、豹柄のワンピースや真っ赤なブーツっていうように、至るところに派手さが目立つギャル風な格好をしている。
麻衣が派手目なファッションって言っても、この莉子ほどじゃない。
見た目だけとっても、私の苦手なタイプだ。
麻衣も、表向きは会えて嬉しそうに振る舞っているけれど、内心、あまり歓迎していないはず。
実際、『今の莉子には、あまり近づきたくない』――って前に話していた。
「久しぶり。今日は、例のボーイフレンドと一緒じゃないんだ」
麻衣が笑顔を作りながら、その莉子に尋ねた。
「それいつの話? あんなケチなキモメン、すぐに別れてやったって。今日は、麻衣に話があってここに来たんだ」
「話って?」
「今私、独り身で寂しい思いしてるんだよね。だから、正樹が夏休みに計画してるっていう、泊まりがけの旅行に、私も一緒に連れて行ってもらいたいんだけど」
「なんで莉子が、私達が一緒に旅行するつもりでいるの知ってるわけ?」
麻衣が驚いたように。それは私としても同じ気持ち。
「正樹から聞いたんだけど」
それがなにか? みたいな言い方で莉子は答えると、
「正樹は、麻衣達さえ良ければ、俺はかまわないぜ、って言ってくれたよ。ねぇ、麻衣、いいでしょ? 麻衣と私の仲なんだからさ」
馴れ馴れしい仕草で、麻衣の肩に手を置く。
「私は別に良いけど……瑞貴や貴弘は、莉子のことまったく知らないわけだし……」
いつもはきはきと喋る麻衣が、歯切れの悪い言い方で口籠もる。
「その旅行で仲良くなればいいわけじゃん。麻衣さ。アイドルの寛斗君の大ファンなんでしょ? 彼がいるグループの、秋のコンサートのアリーナ席のチケット、私、手に入れちゃったんだけどなー」
『寛斗君』、というワードに、麻衣の片眉が、ピクリ、と反応した。
「もし、私を一緒に連れて行ってくれるってんなら、そのチケット、譲ってあげてもいいんだけど、どうする?」
「ほんと!? いいよ、いい。全然OK。私と莉子の仲だもんね」
寛斗君によってまんまと買収された麻衣が、即OKの返事をした。
麻衣……
「ありがと、麻衣。それじゃ、私、これからクラブで皆と会う約束あるから、帰ってから携帯に電話するね」
そう言い残すと、莉子は店を出ていった。
莉子の言ったクラブっていうのは、たぶん、学校の部活動のクラブじゃないはずだ。
高校生は出入り禁止なはずの、ナイトクラブ。
普通は、高校生だってばれたら、入口のところで追い払われるらしいけれど、化粧とかで誤魔化せばどうとでもなる店もある、なんてことを、前に同級生の誰かが話しているのを耳にしたことがある。
まさか麻衣は、本気で、そんな不良な彼女を、今度の旅行に連れて行くつもりでいるんだろうか……
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