友人の後押し
午前の授業が終わって、昼休みになった。
私と麻衣は、机を向かい合せて並べて、お弁当を広げた。
「このカフェの制服って、めちゃかわいくない?」
麻衣が、お弁当の横に広げた、街のバイト情報が載ったパンフレットのその箇所を指差しながら。
「うん。でも、ひらひらしたフリルがついてて、ちょっと恥ずかしいかも……」
「そんなの気にすることないって。最初は恥ずかしいかもしれないけど、すぐに慣れるって」
「そんなものなのかな……」
「とりあえずさ、今日の帰りに、このカフェがどんなとこなのか、下見に行ってみない?」
「そうだね。店長さんが、怖い人とかだったら嫌だもんね」
「それじゃあ、決まりね。ところでさ――」
麻衣が、机に身体を乗り出すようにして、私に顔を近づける。
「瑞貴は、まだ貴弘と仲直りしてないわけでしょ?」
「え……?」
突然そう聞かれて、私は、どう答えて良いか分からなくて、ただ、弱々しい頷きだけを返した。
親友の麻衣も当然、私と貴弘の間にあったことを知っている。正樹と同じで、私達の仲を、なんとか取り持とうとしてくれてもいる。
でも、その気持ちは嬉しいんだけど、私はそれに応えることができていない。
「……そうなんだ。でも、いつまでもうじうじ悩んでるだけじゃ、いつまでもなにも変わらないよ。確かに、勇気がいるかもしれないけどさ、勇気出して話しかけてみなよ。もう五年も経ってるんでしょ? いいかげん時効だって」
「そうかもしれないけど……」
「だいたい、瑞貴が悪い、ってわけでもないと思うけど。誰に責任があるわけじゃない、不幸な事故、ってやつだったんだからさ」
「でも……」
「煮え切らないなぁ。正樹が立てた夏休みの旅行さ。あれに貴弘が参加してくれるんだったら、瑞貴と貴弘が仲直りするための絶好のチャンス、ってやつだと思うんだよね。貴弘って、シャイなやつじゃん? 瑞貴も誘われて、なんか気まずいから、断っただけだと思うんだよね。もう子供じゃないんだし、貴弘も、もうその事故の事は気にしてないと思うよ」
「そう……なのかな……」
「私から、正樹のやつに、もう一度貴弘が旅行に参加するように説得させるからさ。瑞貴が行くことで気兼ねしてるんだったら、私が、瑞貴は用事があるから参加しないことになった、って言わせるようにするから。それで当日になってから、用事はなしになったから、参加します、って顔出せばいいんだよ」
「そんな嘘吐いて、余計貴弘を怒らせるようなことにならないかな……」
「大丈夫だって。このチャンスを逃したら、瑞貴みたいに大人しいタイプは、いつまでたっても決心できないままだよ。瑞貴、まだ貴弘のこと好きなんでしょ?」
「……うん……」
「旅行代、半分あっちが持ってくれるっていうんだし、瑞貴も、いつまでも悩んでばかりいないで、いいかげん行動に出なって」
麻衣に上手く乗せられる形で、私は、そうすることを無理やり受け入れさせられてしまった。
だけど、そうしてくれてよかったって思う。
周りから強く押されないと、臆病な私は、いつまでも、逃げてばかりだっただろうから。
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