♥


『俺も一応生徒会員なんだよ。あんまり目を付けられたくないんだ』


 昼休みも終わりに近づいた時間に、「例の」グループから送られてきていたメッセージを見る。

 なーんだかなぁ……、と私は思っていた。なんというか、返事がし辛い。この「Sei」のメッセージは。


「どーしたのシロちゃん? なんだか、難しそうな顔してるけど」


 向かいの席でキョトンとした顔をしているのは、藤巻真珠ふじまきまこ。なんか知らんけど最近はこの転校生と一緒にいることが多い。


「んー、いや、なんかちょっと返し辛いメッセージなもんで」

「彼氏?」

「ちゃうわい」


 このド田舎暮らしでどこにまともな男がいるもんですかい。言うと、真珠はクックッと小気味良く笑う。


「そりゃそっか。シロちゃんに彼氏なんてできないよね」


 オイコラ小娘ェ……。できないだろうけどよ、まるで私に原因があるみたいな言い方じゃないですかそれ。こんなに端正な顔つきで性格まで整ったJKがこんなド田舎にいること自体奇跡だっていうのに。


「シロちゃん睨まないで……、ごめん、私の言い方が悪かった」

「ならいい」


 言い方が悪いことには気付いているのか。というか確信犯なのか。やっぱりこの子腹黒クソビッチだ。ビッチかどうかは知らないけど。クソ、なんかあの「清盛」が私のことをビッチだのなんだのうるさいから、ついついそう考えてしまう。


「でもさ、シロちゃんて結構スマホ触ってるよね。やっぱり色んな人と常日頃からやり取りしてるってことなの?」

「あのさ、この狭いコミュニティの中でどこの誰と学校の中でわざわざ連絡取り合う必要があるんじゃ……あるの? 全っ然、関係ないとこ」

「ふーん、そっかー」


 少し意味ありげに私を見つめる真珠は放っておいて、とりあえずスマホにもう一度目を移す。


 「Sei Nakaseko」「榊田清盛」そして私、「ましろ」。この三人による奇妙なグループは、全く機能していないようで、発言だけはきっちり続いていた。

 遠くに住む人間ともやり取りができる反面お互いの顔が見えないというSNSの長所と短所をきっちりと網羅しつつ、私たちは謎解きをしている……のだろうか。そういえば全く謎解きしてないんだけど。


 いや、大体悪いのは「清盛」だ。私はいつだって謎解きをする気満々だ。なのにあいつはすぐに人のことを茶化して、話を逸らしてしまう。

 それに「Sei」はそれを止めるようなこともあまりせず、大体は傍観している。そしてヒートアップしてきたのを見計らってやっと止めに入るのだ。また、さっきのような空気の読めない優等生アピールもしばしば。ある意味こっちの方がイラッとくる。


 別にこんな偶然生まれただけのグループになんの価値もないし、まあ暇つぶしにはちょうどいいか、という気持ちぐらいのものだった。なのに、無駄に感情を揺さぶってくるというか、無駄にこの二人は私のことをイラつかせる。


『ってかそろそろ真剣に二つ目の謎のこと、考えよ』


 たぶん同じような内容のメッセージを今日の朝ぐらいに送っていたはずだ。二つ目の謎について、何か分かったことがあるのかと二人に問うと、「清盛」からはあんまり、という非常に無価値なメッセージが寄せられたのだ。


 そこからまた言い争いだったな……。


『だからさ、そういうやる気ない発言やめて』


 続けて送ったのは、


『どこまで分かってるのかとかないの?』


 具体的な話を詰めようとしているというのに、


『あんまり分かってないからあんまりって言っただけだろ』


 コイツは本当に人の話を聞いてるのか。

 そして最終的には、


『だから本当にあんたは捻くれたことしか言えないの? マジで嫌になるんやけど』


 とまた方言についてのボロを出してしまい、即座に「清盛」に突っ込まれるという屈辱的な展開となっていた。流れでこいつに東京出身だなんて丸わかりの嘘をつかなければよかったと後悔したのもつい最近だ。


 そしてその辺りでやっとこさ「Sei」が話に加わるのだが、全くの役立たずで、話を曖昧あいまいに流すことしかできていない。だから結局謎については、一歩も前に進んでいないのだ。


 まあ、そんなことが何度も繰り返されてるのだけれど……。

 私が送ったメッセージに反応があったのは、昼休みが明けた最初の授業が終わった頃であった。


『暇つぶしにはいいかもな』


 相変わらず一言多いよなコイツ、と思いつつもここはグッと我慢する。


『とりあえず変に思ったこと言ってよ』


 私の授業が始まったため、「清盛」の返答を見たのは授業後、帰る間際のことであったが、意外にも「清盛」は核心に近い所にまで思い至っていたようだ。


『まあ、乾くんっていうのがどう考えても怪しいよな。あとは、何時から何時までっていう表現も。なんか、もうちょっとで出てきそうなもんだけどな』


 そう。その辺りの不審感については私も感じていたところであった。「Sei」からのメッセージはなかったが、案外ここから話を詰めていけばすぐに答えにたどり着くかもしれない――。


 そう思った時であった。スマホがメールの受信を知らせる。


 そのメールを見た私は思わず固まってしまった。


『ねえ』


 内容も詳しくは確認せずに私はメッセージのグループへと画面を戻す。


『メール、来た?』

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