すぐさま既読のサインがつき、返答がある。


『来た』


『これ、あんた?』


『違う』


『じゃあ、Seiなの?』


 しかし、当の「Sei」からは一切のリアクションがないため、判断ができない。


 要するに問題は、私たちの中で話し合いの結論が出されていないうちに、Mission2のクリア通知が来たということだ。

 すなわちそれは、アスタリスクの間違いでない限り、三人のうち誰かが回答を送ったということにも繋がる。

 もちろん「清盛」もそのことを認識していたようで、


『既読もつかないってことはたぶん見てないだろうけどそうなんだろうな』


 と返答が来る。それを見て、私は思う。

 なーんだかなぁ、と。


 別にSeiが正しい回答を導いて、それを送ったというのならそれで構わない。だけど、私たちに黙ってってことはないでしょうに。真面目に考えようとしていたのがバカみたい。


『ふーん』


 その後に続けて送る。


『じゃ、これ見たらSeiも返事してくれるよね?』


 ひとまずはこれで送っておく。もしかすると、ただのアスタリスクのミスということも考えられたからだ。


 すると間もなくメールの着信を知らせる音が鳴る。内容は、Mission3の謎についてだった。内容を確認するが、パッと見ただけでは何も分からない。むしろ前の謎よりも難しくなっているのではないだろうか。


 だけど、あの「Sei」に任せておけばいいのかもしれない。というか、考えるだけ無駄な気すらしてしまう。そうとすら思わせてしまうほどに、何というか白けてしまったのだった。


「シロちゃん?」


 ハッ、と顔を上げるとそこには真珠の姿があった。


「どしたの? バスでちゃうし、帰ろうよ?」


 そういえばもう放課後であった。いつもなら何も言わずに私が先導して帰るというのに、違和感を覚えたのだろう。

 何も知らない真珠に対して、変な態度を取り続けるのも変に介入されそうで面倒だ。ここはいつも通りに対応しよう。


「あー、帰ろっか」


 そう言うが早く、私は鞄を片手に教室を出る。


「やっぱり携帯ばっかり見てるよね」


 後を追いながら、真珠が言う。


「……まあ見てるけど」

「どしたの? 何か困ったことでもあるの?」

「困ってたけど、どうでもよくなった」

「どうでも? ――ってちょっとちょっと! シロちゃん速いって!」


 どうやらかなり急ぎ足になっていたようだ。足を緩める。


「あー、ごめん」

「……素直に謝るのはシロちゃんらしくないな」

「はい?」

「なんか変。ねえ、何が困ってたの? どうでもよくなんてなってないんでしょ」


 たかだか二週間ちょっとの付き合いだというのに変だと言われても、と思うが確かに変なので仕方はない。

 だが、この一風変わりまくっている出来事の一部始終を語る気にもなれず、聞き方を変えてみる。


「……ねえ真珠」

「ん?」


 私たちはバスに乗車し、隣同士の席に座った。


「例えばの話だけどさ」

「うん」


 バスは急ぐ生徒たちの乗車を確認すると、ゆっくり発進する。


「突然全く知らない人からメールが来て、全く知らない人たちと連絡を取り合って謎を解けって言われたらやる?」

「えらく具体的だねぇ……」


 真珠が眉をしかめるが気にせず続ける。


「例えばの話だって。で、どうなの?」


 うーん、と真珠は宙を見つめながら考える。


「……まあ、それでいいものが貰えるなら、やるかな」


 意外にも合理主義的な返答を頂く。いや、まあ単純に考えたらそうなるけどさ。


「じゃあ、何も貰えないとしたら?」

「いや、そりゃあ意味ないよね。時間の無駄だしさ」


 そして私のやっていることに対して、非常に辛辣しんらつな一言を投下する。人の知らないところで人の心を踏みにじっていくのが得意だよね、この子。


「だよね……、じゃあ実際それをやってる人がいたとすればどう思う?」

「うーん? おかしな人だなって思うねー」


 事もなげに言うが、私にとってはものすごく辛い。


 しかし、でも、と言葉を続ける。


「やってる人たちにとって、それで大事なものが見つかるのなら、意味がないなんてことはないよね」


 ……大事なこと、か。

 私にとってこれは、大事なことを見つけるためにやっていることなのだろうか。そもそも二人に対して連絡を取ったのは私だ。じゃあ私はどうしてこんなことをしたのだろうか。


 果たしてそこに理由なんてあったのだろうか。


「……ま、そうなるよね」

「で、シロちゃんは誰と連絡を取ってるの? 全く知らない人たちと連絡を取り合って謎を解いてるの?」

「だから例えばの話って言っちょるやろ!」


 言ってからしまった、と私は口元を抑えるが時既に遅し。真珠はニヤリと笑って言った。


「そうそう、その方がシロちゃんらしいや」


 まったく、この小娘は私のことを何だと思ってるのか。本当に憎たらしい。

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