『授業中くらい携帯触れるだろ』


 俺の最後のメッセージに対して「清盛」が返していたこのメッセージから未読となっていた。


『うわ、キモオタのくせにいきってやがる』


 それに対してこのように返しているのがもちろん「ましろ」であった。


『授業中に携帯触ってるくらいでいきってるとかいつの時代の人間? あ、そうか。時代に取り残された田舎民だもんね、仕方ないね』


『だから田舎ちゃうって言ってるでしょ!』


『ほら、若干ボロが出てますよまっしろさん』


『まっしろじゃない!』


『はいはい乙。だけど君も君でずっと返してくるけど、授業受けてるの? あ、学校行ってない? 不良少女乙』


『あんたと違ってちゃんと授業は受けてます! 今は自習になっただけ!』


『じゃあ自習しろよ』


『はいはい、しますよしますよ』


 それっきりで連絡は途絶えてしまっていた。

 相変わらず口を開けば喧嘩の二人だったが、それが逆に後戻りできない関係の構築へと繋がってしまっているようで、何となく居心地の悪さを感じる。


 ともかく、何かしらのメッセージは発信しておこうと思い、文章を打った。


『俺も一応生徒会員なんだよ。あんまり目を付けられたくないんだ』


 それにしても意外だったのは、「ましろ」は自習だったことだ。「清盛」の方は平然と授業中にスマホをいじっていたということを暗に認めている。


 まあ少し会話をしただけの仲だ。実際の所なんて全く分かりはしない。

 ともかく、絢星が言うように謎が解けた件については言っておこうかと思い、そのまま続けてメッセージを送ろうと画面を触ろうとする。


 と、そこで俺の名を呼ぶ声がまた一人。


「中世古ー、やっぱり分からないって、全然思いつかない」


 生徒会長の谷村だった。例の書類についてのことだろう。手にはクリアファイルが握られている。

 だが、これも想定内だ。俺は「武器」を揃えているのだ。


「そのことなんだけど、今回は俺がある程度素案をまとめておくよ。そこに谷村がちょっと手を加えるような形にしよう」


 言うと、谷村は待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせる。


「マジ!? 超助かる! いやー、さっすが中世古! やっぱ経験者は違うねー!」


 そう言ってポンポンと俺の肩を叩く谷村を見ながら、調子の良い奴だと思う。


 しかし、俺は何をしているんだろうな。

 元はと言えば谷村の仕事だ。それは間違いのないことだ。それをわざわざやってあげるだなんて、お人好しもいい所だ。


 思えばこの謎解きだってそうだ。

 二人は謎に関わるつもりがほとんどと言っていいほどない。第一、最初の謎だって解けていたのかすら分からないのだ。結局今の所、俺一人で全ての謎を解いている。


 ならば、わざわざ二人に確認を取る必要なんてあるのか? 俺は自問する。

 俺は絢星の席の方に目をやった。他の女子たちと談笑する絢星の姿が目に入る。


 ……いや、確認の必要なんてない。そう結論付けた俺はSNSアプリではなく、メール画面を開いたのであった。




 放課後になっても、俺の中でモヤモヤとした気持ちが渦巻いていた。前では担任が何やら連絡事項を述べているが、全く耳に入らない。

 俺のスマホは時々反応している。おそらく二人がまた喧嘩でもしているのだろう。スマホの画面は開いているものの、それを確認する気は起きない。


 などと考えていると、ブーッ、というバイブ音が鳴る。画面を確認すると、メールの受信であった。

 後で確認しようと思い、スマホの画面を切った。一応担任が話しているのだ、あまりスマホをいじっているのを見とがめられたくはない。


 終礼を済ませると、今日はさっさと帰ろうと思い、席を立つ。

 誰に声を掛けるでもなく、誰かに声を掛けられるでもなく。俺は学校を後にし、家路を歩く。正直あまり帰りたいとは思わない家だが、今日は疲れた。


 だが、そういう時に限って、思わぬ所から声を掛けられる。


「中世古くん」


 背後から声がし、俺は思わず振り返った。閑静な住宅街だ。振り返ればすぐに誰が声の主かが分かる。


 声の主は、中年の男性だった。だが、長身で長めの髪にサングラスをかけたその姿はどこかの芸能人を彷彿ほうふつとさせるような雰囲気であった。しかし一方で、その顔にはどこか疲れを感じさせるような、そんな一種のみすぼらしさすら漂っている。


 少なくとも俺の知り合いに、こんな男性はいない。


「あなたは――?」


 俺が一瞬気圧けおされたように言葉に詰まると、その間に男は俺の目の前までやってきて言った。


「……そうだな。『アスタリスク』の知り合いとでも言っておこうか。Mission2、クリアおめでとう。中世古くん」


 そして俺は一気に言葉を失うのであった。

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