えーとかいわない。これがオレの切り札『ダイスケ砲』だ

「ダイスケさん! 大丈夫ですか」「ダイスケ大丈夫?」「ダイスケどの無事か!」


「……くっ、なんとかな……ッ。けっこう痛い……けど」


 身体から激痛がはしるけど、同時にシュワシュワと傷口が塞がる感覚がする。何回か体験しているけど、これはあんまり気分のいいものじゃない。……だって、やっぱ痛いし。なにこの地味な能力。っうか、傷つく前になんとかしてくれる系の能力の方がうれしいんですけど! せめて痛みをなくしてほしいんですけど!

 

 でも、これでいい。オレには考えがあった。

 先に手を出してもらえれば……。力で勝てないのなら、違う方法で……ここからが勝負だ。


「いまのは警告です。命まではと、手加減はしましたけど、再生能力とは……やはり普通の人間ではなかったようですね。ですが、わたしの本気が、これでわかりましたね?」


「母さま! それはあんまりです! これいじょうは許しません!」氷の盾を展開するニケア。


「ダイスケに手を出したいじょう、許さない」「真の躯なくとも、遅れはとらぬぞ!」


 ニケアの母に抗議し、いまにも反撃を加えようと構える3人。


「やるのですか? これで解ったでしょう。いくら娘のご友人達といえども、わたしは容赦はしませんよ。ニケは連れて帰ります」


「ち、ちょっと待った……」


「なんですか? 貴方もまだやる気ですか? 圧倒的な力の差を目の前にしても立ち向かう。その勇気だけは褒め――」


「オレは正式に抗議する」


「は、抗議?」


「それが、君たちエルフという種族のやり方なのか?」


「質問の意図を図りかねますが……」


「オレの知るエルフは、自然を愛し誇り高く美しい種族だ」


「当然です」誇りを刺激されていい気分なのだろう。かたちのよい鼻をツンとあげるイケ。


「しかし、オレは幻滅した! 失望した! 降伏の意志を表明した無抵抗の者を斬るなんて、なんという蛮行なんだ!」強い口調で非難するオレ。


「なっ、なにを言って……」あきらかに動揺するイケ。おもわぬ角度からの反撃に狼狽えている。効果アリ。

 おもったとおりだ。娘達を庇って逃がしたり、敵対するオレ達にもなんども警告をしたり、なんといってもニケアの母だという善人なこのエルフ相手なら、いける!


「……オレのいた世界では、無抵抗の者、しかも降伏の意思を表明した者を手にかけるようなことは決してない。それが文明をもつ者として当然のおこないだ。たとえ敵対するもの同士でも、最低限のルールがある」


「うっ……」


「しかもイケ。きくと貴女はエルフの国の女王だという」


「……あらたまってなんですか? それがなにか?」


「女王たるもの、他のエルフの規範とならねばならぬ立場ではないか! その貴女がなんだこのザマは! エルフの国の程度が知れるというもの!」


「カチッ💢――なっ、なにを偉そうに! あなたこそ、それでも勇者ですか! 愛する者が連れ出されようとしているのに、刃も交えず、なにが降伏ですか! たとえ勝てない相手だとしても、なんとかしてやろうという意地というものがないのですか! そんなひとに娘はやれませんから!」


 ぐっ、痛いところを……。でも相手の言い分を聞いたら口論は負けだ。相手の言葉はオールスルーして、こっちの意見だけを声高に述べる。自分を騙しても、とにかく勢いを維持する。それがコツ。


「降伏した相手を、無防備なあいてを一方的に斬りつけなんて、なんたる非道! なんたる卑劣! それでは魔王……いや、ゴブリンやオークと変わらぬでは無いか! それが君たちエルフのやり方か!」


「いいましたね! よりにもよって、醜いオークなどと一緒にされては黙っておれませんよ!」ギラリと光る眼光と氷の刃。


「ほら! みてくれみんな! 恫喝的高圧的態度ですよ! また暴力ですよ! またですよ!! 暴力はんたーい!」オレは手にした剣を、これみよがしにポイとすて両手をあげる。


「……うっ」


「そんなに戦いたいのなら他所でやれ! 話し合うことのできぬ 野蛮エルフ! 文明の明かりすら届かぬ暗き森に帰れ!」


「あなたこそ元の世界に帰りなさい! あなたみたいな役立たずはこちらの世界でも役立たずですから! どうせむこうの世界でも役立たずだったんでしょう? このダメ人間!」


「ぐっ、ぬぬ」エルフの分際で的確な反撃を……。


「ふ、図星だったようですね。その腐った目。手にとるように解りますよ。きっと友人もロクにいないのでしょう? いつも家に引き籠もっている。口だけ達者で不平不満ばかり。影では人の悪口ばかりいっているけど、直接会ったらなんにも言えない、むしろ目を合わせることすらできない。そんなクズ」


 ぐはっ。オレの精神に追加ダメージ。観てきたかのようにいいやがって! しかも事実だしくやしい!


「ダイスケさん……」「ダイスケ!」「ダイスケどの」


 しっかりするんだオレ。いまのオレには仲間がいる。じゃっかん……いや、かなり問題のある面々だが、とびきりかわいい仲間達だ。オレの異世界はここからはじまるんだ。ここで負ける訳にはいかない……。仲間……そうだ。


「戦いに飢えた 血に飢えた悪鬼羅刹の所業! いますぐエルフをやめろ! エルフの恥さらし! 全力でいいふらしてやる! むしろ、アステマの魔法配信つかっていいふらしてやる! な? アステマ!」


「う、うん、そうだね……あたしもう忘れてたよ、その設定」ドン引きのアステマ。なんで引いてるんだよ、オマエ!


「オレはいいことを思いついたぞ。ポシャった『ドラゴン追い祭り』配信の代わりに、あんたと人間勇者との過去を暴露して配信してやる!! タイトルはこうだ。『熱愛発覚? エルフの女王。氷を溶かす大恋愛。森の中へ勇者と分け入った空白の3時間』どおだ! きっちりイメージイラストもつけてやるからな!」


「ど、どういう攻撃ですかっ!」


「なんなら、オレみずから出演した再現映像撮って配信してやる! もちろんエルフの女王役はおまえの娘ニケアだ。本人の娘が登場。話題性抜群だかんな、ふはは! な? ニケア手伝うよな!」


「ええっ!? あ、はい。ニケは、ダイスケさんに従います……けど」

 愛いやつよ。さすがはオレの嫁。


「娘を巻き込むなんて、きたないですよ! しかも、プライベートな話を持ち出すなんて! そんなの過去のはなしじゃないですか、大人なんだから恋愛ぐらいします! 自由じゃないですか!」


「そうさ、自由に恋愛すればいいさ! でもな、オレらが配信するのも自由だかんな! 『異種族熱愛。人間勇者とふたりきり。宿屋で朝までお泊まりデート!?』のほうがいいかな……ククク」


「な、なぜそのことを……ニケ! あなた!」


「ええっ!? ニケは何もいってません!」


「ふっふふ。どうやら事実だったようだな。オレの読み通りだな。これは異世界スクープだぜ」


「ぜ、ぜんぶ、あなたの想像じゃないですか!」


「想像か事実かは、観た人間が判断すればいい。配信を観た大衆はどうおもうかな。これぞオレの超必『ダイスケ砲』よ。くふふ」


「『ダイスケ砲』……。うっわぁ……」「なんてゲスな必殺技なのじゃろう……」「悪魔のあたしでも引くんだけど……」「……じゃな」ドン引きの闇メン2人。


「なんというゲス汚い! 汚いですよ! こんな汚い戦い方は聞いたことがありません!」


「戦い方に、汚いも綺麗もあるかい! ふはははは!」


「ニケ! あなたもなんとかいいなさい! 母のピンチですよ!」


「えっと……あの、ダイスケさん? もう、そこらへんで……」


「ダメだね! オレの目を見ろイケ・アムステルダム! 略してイケア!! そのながい耳でよくきけ!」


「!? イケア……。わたしをその名でよびますか」


「オレ達の降伏を認めろ! だかな、条件は以下の通り! オレ達の身柄の安全と………………ニケアとの結婚だ! イケア……いえ、お母さん! オレ達の結婚を認めてください!!」


 そういって、ビシッと頭をさげるオレ。想いをおもいっきり込めて。


「ぷっ……なんですか、貴方。酷い人……なんてひどい、ふ、うふふ」

 」顔をほころばせ笑いだしたイケア。目尻をおさえて子どものように笑いだす「ニケ。貴方の勇者様は、ほんとうに酷いひとです。わたしの勇者様もひどかったけど……それ以上」



 😈



「こころの底から笑ったのは何百年ぶりでしょうか。イケアと、その名でよばれたことも……。ダイスケさん。貴方とおなじ人間の勇者だった、あの人との冒険を思いだします。愉しかった……。もうこの世にも、別の世にもいないでしょうが。でも、あの人もピンチの度に毎度毎度必死でした。思いだしました。ほんとに必死で……ぶざまで、でも真剣だった」


 戦闘モードではない。温和な表情をみせたエルフの女王。ふだんのニケアを彷彿とさせる、人なつこい表情が混じる。近しい人には見せている顔なんだろう。


「勢いばかりで。無茶苦茶で。ほんとに……あの人もそうでした……ふふっ」なにかを思いだしているのだろう。それはきっとイケアの青春。と、よべる代物なのだろう。誰にでもある心のなかの宝物。



 😈



 そうしているうちに、ミケやラケが他のエルフたちを連れて闘技場に戻ってきた。続いて、大勢の人間の騎士や兵士達。こちらはバレンヌシア帝国軍だ。全員がいまにも戦わんといったギラギラとした雰囲気をまとっていたが、それをイケアが制した。エルフ達は女王を前にひざまづき、その様子をみた帝国軍も、オレ達を囲むだけで様子をみている。


「降伏をみとめます。イケ・アムステルダムの名において、人道に配慮した捕虜としての身分を保障します。あなたの世界の条約……なんでしたっけ? ポーツマス条約でしたか」


 おもいっきり条約違いますが……イケアさん。そのボケ高度すぎます。あなたほんとうに異世界のエルフですか?


「そのような条約にのっとった。文明国としてふるまいましょう。これいじょう、野蛮なエルフと、いわれたくはないですからね」


 パチンとおおきくウインクをしてみせたイケアさん。うっわ……かわええ。惚れてまうやん。


 よかった、どうやらなんとかなりそうだ。


 そして、落ち着くと目に入ってくるのは、爆発的におおきな胸。ぱっつんぱっつんやん。至近距離でみる谷間いいなぁ……。オレの目がずっと眺めていたいと――いたっ。オレの両頬からまたしても激痛。アステマとフェスだ。君たち。ないもののひがみは、やめたまえ。


「ふん、いやらしい目」「じゃな」


「おまえら! いいかげんに――」


 そう、いいかけたとき。


 ――ガッ。というにぶい音とともに、


 頭部から鮮血を吹き出して、アステマが前に転がった。


 振り返ると、アステマがいた場所には金属棍棒メイスをフルスイングする騎士の姿。オレ達の背後から男の声がする。


「すこしは加減をしないか。死んでしまっては面白くない」

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