『アステマ容疑者』とのプレイとは?

「アステマ確保ォオ!!」


「へ!? えっ……え? プレイ再開!?」


 オレは再びアステマに飛びつき、すばやく後ろ手に縛り上げる。


「プレイとか、ごまかすなアステマ! ロークとブッケ。および子ネコのガバナー殺しの容疑者としてキサマを拘束する!」


「は……え?」


「オマエが殺ったんだろう? 正直にいえ!」


「ちょ……ちょっとまって! いまガバナーが殺されたって? ガバナーの身になにかあったの? なんのことか説明して!」


「!? あれ? なんだそのリアクション……」


 オレに詰め寄るアステマ。その真剣な表情に気圧されて、縄をしばる手を緩めた。



 😈



 オレはアステマに、状況をかいつまんで説明をした。二人がしんでいたこと。同時に子ネコのガバナーまでがしんでいたということ。

 アステマはガバナーのくだりを聞くと顔色を変え、プルプルと震えだしていた。


 そんなとき、オレの耳元に口をあてるようにニケアが囁く。


「あの、ダイスケさん……」


「どしたの?」


「……アステマさん。犯人じゃないかも」


「……だな。オレもそう思っていた」


「あと、もうひとつ……ずっと気になっていたんですが。聞いてもいいですか?」


「ん? あらたまってどうしたの? いいよ」


「『ぷれい』って……なんのことですか?」


「……………………」


 無垢な表情をうかべるエルフ少女に問われて、とまどうオレ。


「アステマさんがいっていた『ぷれい』って、なんのことなんですか?」


 ……どう答えるんだよ、これ……。これならまだ『こどもはどこから来るんですか?』とか、聞かれたほうが答えようがあるレベル。


「どうしたんですか? ダイスケさん、おしえてくださいっ」


「(わかった……おしえてあげよう。たっぷりと、きみの身体に)」


 ……ダメだダメ。却下。……どう考えても、この回答は最悪……。

 いまはまだ、その時ではない。待つのだオレ。


「なにしてるのダイスケ! ガバナーはどこ? 案内してはやく!!」


「……お、おう! そうだったな。わかった!」


 アステマのひとことに救われた。オレはここぞと大きなリアクションで立ちあがる。


「みんな、こっちだ急げ!」


「……あ、ダイスケさん、ちょっとまってください!」


「なにをしているのニケ? さ、いくよ!」


「……あの、まだ答えを聞いていな――」


「と、とにかく急ぐんだ! いまはその話しをしている時間はない!」とキメ顔でオレ。


 なにが――とにかく。なのかは、解らないが。ニケアを急かす。

 そんで部屋を駆けだした。


「『ぷれい』って、なんだろう……?」


 首をかしげるエルフの様子が視界の端にはいってきた。



 😈



 食堂に戻った。テーブルの上には毛布に包まれて子ネコの遺骸がのる。

 それを囲むようにオレとニケア。そして、ポロッポロと涙を流しているアステマ。


「まさか……ガバナー。こんなことになるなんて……嗚呼ガバナー。ごめんねガバナー。あたしが冷たくしたばっかりに……ガバナー……。仲直りしたかった……」


「アステマさん……」


 嗚咽をもらすアステマの肩に手をおくニケア。もらい泣きといった様子で、その目には涙がにじんでいる。


「いちおうそこに、ロークとブッケも……」


「寿命でしょ」


 真顔でアステマ。

 ……ふたりの扱い酷えな。


「誰があたしのガバナーにこんなことを! 許せない!!」


 オレとニケアは顔を見合わせた。オレ達を騙すような演技ができるほど、アステマは器用なやつじゃない。みずからガバナーを殺めておいて、こんなに悲しむことはできないだろう……。どうやらアステマは犯人ではない。シロだ。


「オレはてっきりアステマだと」「ニケもてっきりアステマさんだと」


「……あんた達。あとでゆっくり話あおうか……」


「だとしたら、誰がいったい……」「屋敷に侵入された形跡はないですし……」


「いや……もう一人いるでしょ。この場にいない唯一の屋敷の住人。根暗なヤツが……皇帝陛下サマが、ジェラートが!」


「「あ!」」


「いま、きがついたのかよ! フツーそっちでしょ!」


「あまりにも……。あまりにも大きな『アステマ容疑者』という可能性の影に隠れて、オレは気がつかなかった……」


「……木を隠すには森の中とは、よくいったものです。みごとな捜査の攪乱です」


「盲点だった……」「盲点でしたね……」


「あんた達さ……じつは、バカでしょ?」

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