『嫁選び』強制イベント



 😈



「……あれ? ここは」


「気がついた? ダイスケ!」


 そういって肩を揺らすのは、紅髪ショートの美少女アステマだ。


「痛ッ。オレはいったい……」


 ……たしか、アステマとキスをしまくっていることが、またニケアにバレたんだったよな。そんでニケアに斬られたんだっけ。

 みるとオレの胸には、バッサリと斜めにおおきな傷跡。ニケアの氷剣によるものだろう。あきらかに致命傷といえるレベルの傷だけど……。そこからシュワシュワという音と煙のようなものがあがっている。


「なんだコレ? 傷がふさがっている……のか?」


「ふふん。おどろいたみたいだねダイスケ。みたか! これぞ、魔王脅威の再生能力だ!」


「『脅威の再生能力だ!』じゃねーよ!! なんだそれ? オレの身体に何をしたアステマ? ……そうだ、さっきも言ってたけど、オレが魔王ってどういうことだよ!」


「……よかったねダイスケ。魔王じゃなきゃ、しんでたよ。感謝してよね」


「いや……だから。オレが魔王って何?」


「え、知らないの? ダイスケは魔王なんだよ。キャハハ」


「……初耳なんですけど」


「あれ? そうだった? あたし、いってなかったっけ?」


「……聞いてない。だから詳しく……」


「しかたないなー。えっとね、ぜんかいニケに殺害グルグニル・アイスされたときにさ。ダイスケを蘇生してあげたじゃん」 


「おまえも、オレに『グラゾーマ・フェニックス』放っていたけどな……。ただしくは2人に殺害されたんだが……それはいい。そのときにおまえがオレに魔力をくれたんだろ? それでオレは生き返った……」


「そうなんだけどさー。そもそも魔力をあげるにはさ、悪魔同士じゃなきゃムリなんだよねー」


「……続きを」


「だからさーダイスケを魔王にしてあげた。そしたらうまくいったんだよね。あたしってマジ天才。誉めてくれていいよ。誉めてー」


 キラッキラした瞳でオレを見上げるアステマ。


「…………」


 オレは乱暴に髪をクシャクシャしてやる。


「ん……。パパがしんでからさ。あたしがいちおー魔王だったんだけどさ。そういうのあんま興味ないから……ダイスケに魔王位を譲ってあげたんだよ。……だから、新・魔王としてがんばってね」


「……そうか、異世界でオレもついに魔王に…………って、かってに魔王にすんな!!!!」


「いたいいたいいたい! あたまグリグリしないで! いたいいたい!」


「本人の同意なしかよ! ふっざけんなよアステマ!!」


 ごめん。どうやらオレは、いつの間にか人間やめてました。


「だって、あのときダイスケ死んでたんだよ! どうやって同意得るのさ?」


「……くっ、アステマのくせに正論を」


 たしかに、そのとおりすぎた。

 いきおいで抗議してしまったが、あのまま死んでいたことをかんがえると、悪くない選択肢といえた。魔王っていわれても、具体的になにをするのかしらないけど……。


「あれ!? うれしくないのダイスケ? それに、このほうがさ――」


 もじもじするアステマ。


「……なんだよ」


「面白いじゃん」


「やっぱり、それかよ!」


「それにあのときは……あたしもパニクっちゃってて……。とにかくダイスケがいなくなっちゃうの……だけは……嫌だったから」


「……アステマ」


「ごめん。嫌だった?」


「いや。…………ありがと。かな」


 悪魔の好意に、オレは素直に感謝した。


「うん。おなじ同士。これからもずっと、なかよくしようね!」


 に聞かせるといった様子で、そう強調するアステマ。

 うん? 誰か? そういえば――



 😈



「そういえば、ニケアは?」


「ずっと、あそこにいるよ」


 みると、はなれた場所にいるニケア。部屋の隅に体育座りをしている。

 この様子。すんごい既視感なんだけど……。

 うす暗い部屋の隅で、その両眼だけが碧く輝いている。

 

 そんなニケアはオレと目があうと――サッ。と視線をさげた。抱えた膝の間にはんぶん頭をうずめる。エルフ耳のシルエットがしっかりと目に入ってきた。

 その様子から、ずーんと落ち込んでいるのが、ひしひしと伝わってくる。オレを斬ってしまったという後悔+オレがアステマとキスをしまくっていたという、W落ち込み効果のたまものだろう。


 ……これはいけないな。オレの可愛い嫁に、かなしい思いをさせてしまっているようだ。でも、部屋から去らずにこの場にいるということは希望がある、フォローをして。ということなのだろう。ニケアのことだから、オレの身体の心配をしてくれているのかもしれない。

 気づくと、胸の傷はミミズ腫れを残すだけとなっていた。すごいな魔王の再生能力。……これって、かなり使える能力だよね。オレはそんなことを思いながら立ちあがる。ニケアの近くに向かう――


「ちょっと待ったダイスケ! よく考えて!」


「……なんだよアステマ」


「ニケはさ、ダイスケを斬りつけたんだよ。明確な殺意あったんだよ。迷いなかったよ」


「……そうだけどさ。こんかいのは、オレが悪いし」

 

「あのさ……ちょっとキスしたからって斬っていいの?」


「……ちょっと……じゃ、なかったしな」


「ダイスケ。そろそろさ……はっきりさせない?」


「なにをだよ……」


「あたしとニケ。どっちを選ぶつもり?」


 ――ビクッ。と肩をふるわせるニケア。


 ふふん。と、ない胸をそらせるアステマ。ほんとうに、これから育つのかその胸? ムリじゃね? ……って、胸の話はいまはいい。


「さ、ダイスケ。はっきりさせよ。あたしとニケ。どっちか選んで」


「……ここで?」


「そう、いますぐここで。ハッキリさせて。そして選ばれなかった方は潔く去る。いいねニケ」


 ――コクリとうなずいて、より深く膝の間に顔をうずめるニケア。


 ……ここでまさかの『嫁をえらべ』強制イベント発動。


 どうするオレ? どうするよ。

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