ダイスケの死Ⅱ(通算三回)
アステマの寝室の前にきた。
「……ダイスケさんはニケの後ろにいてください。アステマさんが抵抗するかもしれません」
ニケアの瞳が碧く輝く。その身体からはゆらゆらとブルーの闘気、そしてひやっとした冷気が満ちる。
『エルフの魔装剣士』ニケアの、戦闘モード発動だ。氷をだして両手に纏った。右手に剣を、左手にシールド状に展開を済ます。
こうみえてもニケア。みためは幼さをのこす可憐なエルフ少女だが、その近接戦闘力はハンパない。バリッバリの前衛型だ。
対するアステマは、炎魔法を得意とする魔法使い型。なので後衛型といえるだろう。だから室内での戦闘では圧倒的にニケアに分があるといえた。しかもいまのアステマは、オレに魔力を渡してしまったので魔力がない。ニケアもそのことが解っているのだろう。その表情からは、勝利の自信がよみとれた。
そういうオレは、前衛とか後衛とか無関係。戦場にはでない指揮官型といえる。そう、将たるものは、みだりに戦闘に身をやつすようなことはしない。軽々しく命のやりとりをするなど、そんなの野蛮。そんなの匹夫の勇。
……け、けっしてオレがよわっちいわけじゃ、ないんだからね! りっぱな役割分担なんだからね!
……ううっ、オレも力がほしい……。強く……なりたい。
「いいなぁニケア……」
「な……なんですかダイスケさん。そんなにジロジロみないでくださいっ」
怜悧な表情のまま、頬を染めるニケアのかわいさはチート。反則級。
「ありがとニケア。でも大丈夫。アステマはオレ達には危害を加えない。だって、襲うつもりなら、とっくに襲われているはず」
「それは……そうですが……」
「どうせアステマのことだ『あいつらはムシャクシャしてやった。キャハハ』とかいうにちがいない。このロープで、速攻縛り上げるからさ。大丈夫だよ」
オレは手に持ったロープを掲げる。
「……わかりました。ニケは援護しますから、気をつけてくださいね」
そうして、オレとニケアはしずかに部屋に入った。
😈
アステマが紅い眼を輝かせて「……よくきたな」と、待ち構えていた。
――なんてことはなく。
フツーにベッド上にアステマのすがた。いつものようにネコみたく丸まって、スヤスヤと寝ている。こいつも、かわいいんだけどな……見た目は抜群に。
ニケアに黙って目線をやり、互いにうなずく。
「アステマ! 確保ォオ!!」
オレは叫び、ガバッとアステマに飛びかかった。
「へ? !? う、……うっわ! え! ダイスケ?」
「観念しろアステマ!」
「夜這い! ついにきた!? あたしがいくら魅力的だからって! むしろ遅すぎたぐらい!?」
両手をぶんぶんするアステマ。
「おとこの力でねじふせないで! む、無力だけど! いまのあたしは無力。いたいけで可愛いだけの美少女だけど! たしかにチャンスだけど。チャンスすぎるんですけど! チャンスですよお~!! キャー」
両手をぶんぶんするだけのアステマ。
「いや、あの……アステマ?」
キャーて……。本気で抵抗する気ないよねオマエ。むしろ、すんごくうれしそうだよね。しぜんと馬乗りになる体勢なんだけど……
「……………………やさしく、して」
瞳を潤ませてそっぽを向くアステマ。
手のひらはぎゅうっと、シーツを握りしめている。
「…………あれ!?」
なんだこのリアクション。ちょっとヘンな気持ちになるんですけど……。
……これって両者の合意の上だよね。
そういう意味で無問題だよね。ついにこの日が……。これが、年貢の納め時というやつか……。どうやらオレは、りっぱな魔法使いにはなれそうもない。はは…………お先。
「…………なにしてんですか。ダイスケさん」
――ギン。と、すんごい冷たい視線を、オレにむけるニケア。
まさか!? ニケアにオレの思考が読まれていた……だと。……魔装化は人の心を読む能力まで得られるというのか。なんという恐ろしい能力なんだ。
いかんいかん……。オレは表情を真顔に換装する。ひつよう以上に高圧的な声をだすスタイル。
「オラァ! 大人しくするんだ、アステマぁ!」オレは手に持つロープでアステマを後ろ手に縛る。
「え? え? なにしてんのダイスケ……あたしを縛ってどうするつもり!」
「アステマさん。大人しくしてくださいっ!」
「は? なんでニケまで」
「抵抗するなよアステマ!」
「…………そうか……わかったよ。ついにこの時がきたんだね……」
神妙な顔つきをするアステマ。この状況では逃れられないと観念したのだろう。
「とうとう……ふたりだけじゃ飽き足らなくなったんだね。あたしを縛り付けて、ふたりのこういを見せつける的なプレイなんだね。なんて鬼畜なのダイスケ。悪魔のあたしですら引くぐらいの鬼畜。であったときから見どころのある鬼畜っぷりだとはおもっていたけど……。ニケも、そんなダイスケに身も心もすっかり染められて……」
「プレイちゃうわ!!」「ち、ちがいます!!」うろたえるオレとニケア。
「それでこそ。新しい魔王に相応しい――」
「は? 魔王?」いまアステマが、さらっと気になることを言った「アステマ、それ詳しく」
「あんだけキスしたのに……キスだけじゃ物足りないんだねダイスケ……そうだよね」
「は? キス?」とニケア「アステマさん……それ詳しく」
「? 安心してニケ。あたしはキスしかしてないから。ダイスケはね。傷心のあたしの心の隙につけいるように。なんどもなんどもしつこくねちっこく熱っぽく……ずっとキスを……」
「あ゛あ゛っ」
クワッ――とオレを睨むニケア。
うあ、怖ッ!
「ち……ちょ、ちょっとタイム! ……ええと、それはさ、あれだよ、アステマが落ち込んでいたから、それのフォロー的な……。そう! 心のケア! カウンセリング的な行為でさーはは」
「いつもより……ずっとずっとたくさんしたよ」
「いつもより、ね。ふうん。いつも心のケアを? ふうん。……そうですか」
ニケアの瞳がおおきく見開かれている。オレを刺すような視線。
「だまれ
「……でも、とってもうれしかった……。たまには、あたしから――」
そういって、オレの口をふさいだアステマ。
「はいダイスケさん現行犯。アウトー」
「ぷは。ニケア。こうなったら斬れっ! 悪魔を斬れっ! 斬りすてい!!」
「わかりました……。覚悟してください」
「そうだ! 覚悟しろよアステマ!」
――ズバッ。
「ですよねー」
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