ドラゴンブレスからの医療ドラマ?

 じじいの様子がおかしい。


「はうっ!!」


 さきほどまでの余裕が消えている。いったいどうした?


「くっ……。こ、こんなときに……」


 右手で胸を押さえ、あきらかな焦燥をうかべている。


「天よ……。このような、このようなときに……わしの命を召そうというのですか……。くっ……、ぬん!」


 じじいは左手を大きく外に振る。押しとどめていたドラゴンのブレス軌道を大きく逸らした。しかし、その場でガクッと膝を折るじじい。同時に、白い発光が――スッ。と消えた。


「みなのしゅう……すまぬ。どうやら……。わしは、ここまでのようじゃ…………。あとのことは、たのみ……ま……したぞ……」


「!? おい!? まさか!? じじい、ちょっと待て!」 


「――カクッ。」



「じじい! このタイミングで寿命ぅ! マジ自重ぉおおおおお!!!!」



 空に、ほほえみを浮かべ合掌するじじいの顔が浮かんだ。

 ……気がする。



 ――パシュ。


 ドラゴンの太い尾がじじいの身体を捉え、直撃した。

 闘技場のリング壁面に、スーパーボールばりに跳ね飛ばされるじじい。


「……あ」


「大神官さまあああああああああ!!」


「大神官様が……」


「あのガトー様が……やられた」


「なんということだ」


「ダメだ……もう」


「逃げろ!」


 じじいの敗北によって、闘技場は恐慌に支配された。

 勝てると期待しただけに、その落差はおおきかったのだろう。騎士団も祭り参加者達も、てんでばらばら。蜘蛛の子を散らすように、我先にと闘技場外に向けて逃げ出した。


「……!?」


 そんななか、はね飛ばされたじじいへ向かい、ひとり走り出す人影。

 ――アステマだ。


 オレもその後を追う。



 

               😈




「ちょっと! 大神官ガトーさまっ! ここでしぬなんて! あたしのご褒美はっ! 約束はっ! かえれ! 生き返れ!」


 倒れたじじいに、心臓マッサージをくり返しているアステマ。


「かえってこい……。かえってこい! おまえは……、かならずあたしが助けるっ! 助けてみせる!!」


 じじいはピクリともうごかない。


「いや、アステマ……。医療ドラマっぽくて熱い場面なんだけど……。それ、ぜってー蘇生無理だろ」


「なぬ!? ダイスケ! あきらめるな!」


「『あきらめるな!』っていわれても……だってさ」


「患者は生きたいと願っているんだ!」


「患者て。いや、そんな濃い表情でいわれても……」


「こうなったら緊急オペしかない!」


「おまえ!? もしかして? できるのかよ緊急オペ? すげえなおま――」


「……できない」


「って、できないのかいっ!」


よかったよアステマが緊急オペできなくて。

この状況じゃ、あきらかに手伝わされるのみえてるし。

解剖実験みたいなの嫌だよオレ。


「でも、あきらめない心はある!!」


「いや……こころじゃ無理だろ、これは……」


「あたしたちが先にあきらめてどうする! かえってこい!」


 じじいの蘇生無理。


「かえってこーーーーい!!」


 だって――



 頭部無いから。



 ……じじいの頭部はなかった。これで、蘇生したらマジウケるけど。



 慟哭するアステマにむけて、オレは黙って首を横に振る。


「……なんてこと」


 ようやく諦めたようだ。



 ――ゲシッ。


 じじいの骸に蹴りを入れるアステマ。


「ふんっ。老いぼれが!」


 ……ほんと、ひっでえな、こいつ。

 おまえぜったい悪魔だろ?


「は? あくまじゃねーし!」


「心を読むなっ!」


 どんな超反応だよ……。

 まぁいい。アステマがひどいのは、今にはじまったことじゃないし。そんなことよりも、こいつアステマに確認しなきゃならんことがある。


オレの視線は、手にしている黒いノートにあった。

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