第8話

「水咲ちゃーん。入るよー」

コンコンとノックがしてドアが開くと、大地が中に入ってきた。

「どっすか先輩。可愛いっしょ」

後から入ってきたヒロトが自慢気に言う。

大地は返事をしなかった。大きく目を見開き、固まったように見える。

「先輩?」

「あ、ああ……いいんじゃないか。可愛いよ」

「ダメっすよちゃんと褒めなきゃ。ねえ、水咲ちゃん」

「は、はあ……」

なぜ大地は驚いたのだろう。水咲は首を傾げた。

「あの、大地さん?」

はっと大地は我にかえったようだった。

「うん。可愛い」

大地は笑った。改めて褒められ水咲は顔が真っ赤になった。

「これなら高校生に見えないでしょ。水咲ちゃん大人っぽいからあんまりいじらなくてすんだし」

「おまえにしちゃ上出来なんじゃないのか」

「一言余計っすよ」

ヒロトがむくれる。

「あ、そだ。水咲ちゃん、はいこれ」

と言って渡されたのは……

「眼鏡、ですか?」

「だて眼鏡だから度は入ってないよ。ほら、かけてかけて」

急かされて水咲は眼鏡をかける。確かに度は入ってない。別に視力は悪くないので今までこういうのに縁がなかったためになんだか変な感じだ。

「お、さっすがー。よく似合ってる」

「なんで眼鏡なんだ?」

大地が聞く。

「だって水咲ちゃん未成年なんだから細工しないと先輩が捕まるっすよ。援交で――いででででで」

余計なことを言うヒロトの頬をつねり、大地は水咲に言った。

「じゃあ、行こうか」

「あの……どこへ……」

「言ったろ。デートだって」

と、ここでヒロトが口を出す。

「まだダメっすよ。先輩も着替えなきゃ」

大地があからさまに嫌な顔になる。

「なんでだよ。これでいーだろ」

「ダメ。せっかく水咲ちゃんを可愛くしたのに先輩がそれじゃ俺のセンスが許さないっす」

「あ、あの、私、待ってますから……」

「ほら。水咲ちゃんもあー言ってるんだし。待たせちゃ悪いでしょ。服はあっちに用意してあるから」

なんだかやり取りがお母さんと子供みたいだ、と水咲は思った。

折れた大地は仕方なく部屋を出ていった。

「ごめんね水咲ちゃん。もーちょっと待っててくれる?」

「はい。大丈夫です」

「ちょっと先輩の仕上げしてくるから、そのへんテキトーに座ってて」

そう言ってヒロトも出ていった。

ポツリ残された水咲はちょっとだけ笑っている自分に気付き、ちょっとだけ楽しいと思えた。

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