瞬間メディアジャック
青依ヒイナ
01.無彩色ロジック-side K
終業を告げる鐘の音が鳴り終わってから、
机に向かい、日誌を書いているもう一人の日直の姿を視界の端に入れつつ、右手の親指で文庫本の左端を持ち上げページを
まだ中盤だった話もいつの間にか終盤に差し掛かりそうなのは、これが二度目の読書のせいか目の前の彼女のせいか。
「日誌を書くだけで何をそんなに悩む必要があるの」
それ程時間も掛からない、と踏んで机を背もたれに読書を始めたのが間違いだった。
そろそろ背筋が悲鳴を上げそうな程ダルい。
「急かされると余計焦るから黙ってて」
俺は天井に深くゆっくりと息を吐き、本に視線を戻す。日直の相手が彼女だったのが運の尽きと諦めよう。
再度流れる静寂。
時折聞こえてくるのは定期的に紙をめくる音とノートが何かでこすれる強い音。
ドダダダダダ、ガラッ。
「
騒々しい靴音の持ち主に向かって眉を潜めるが、そいつの視線は俺を
少しだけ深く呼吸をしているのみで、肩で息をしていないところはさすがサッカー部、というべきなのだろう。
「紺野も一緒か」
西崎は望月に向けていた視線を鋭くさせ、俺に向けた。
まただ。
彼がいつも俺に向ける視線は何か含んでいる。原因は一つしかないが。
攻撃的に向けられる覚えは俺にはない。
パタンと本を閉じると俺は望月の机まで向かった。
「望月、後やっとくから行っていいよ」
彼女の手の中の日誌をつまみ上げ、自分の手元へ置くとパラパラと眺めた。
「いいよ、最後までやる」
「ちょうど本読み終わったし。急ぐんでしょ」
と、教室の入り口へ視線を投げる。
「じゃあ、お願いする。でも読みやすい字で書いてよね」
望月は少しだけ俺をじっと見据えてから、言い捨てた。そして必要なものだけを鞄に放り込み、教室を出て行った。
――君よりかはいくらか綺麗な字だと思うけどね。
日誌に目を通しながら、そう心の中で返す。
ふと、背中に気配を感じて振り返るとこちらに視線を向けたままの西崎がいる。
俺と目が合うと彼はそのまま望月を追いかけて走っていった。
日直の仕事を終え、鞄を手に持ち職員室へ向かう。日誌を担任へ渡せばやっと日直の仕事が終わる。
階段へ差し掛かったところで、言い争う声が聞こえてきた。
いつもなら別の道を選ぶところだが、職員室への道はここが一番近い。面倒なことに巻き込まれる前にさっさと通り過ぎればいいだけ。
足早に階段を一歩ずつ降りていく。と、人影が見えた。ひとり、ふたり。
女子生徒を抱きかかえたまま座り込んだ男子生徒。その内の一人と目が合った。
見覚えのある、意志の強い目。西崎だ。
俺を見て西崎が声を洩らした。それに反応して彼の腕の中の女子生徒も振り返る。望月だった。
ボーっとした顔の望月が少し気になったが、何も声を掛けずにそのまま俺は踊り場を通り過ぎ、その場を後にした。
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