ブラッシュアップ

 私は魔王の姿を見たという町の娘に話を聞くことにした。娘は震えながら語った。


「ああ! 思い出したくもない禍々しい姿でした! 不気味な蝙蝠のような黒い翼……獰猛な獣のような鋭い牙……そして見たものを射殺すかのような真紅の瞳……ああ、旅人さん! 本当は恐ろしくて口にだすのも嫌なのです……」


「娘よ。嘘はよくないぞ」


「本当です! 本当に魔王を見たのです!」


「いや、それを疑ってはいない」


 首をかしげる娘に私は言った。


「描写があまりにも細かく洗練されすぎている。娘、さてはもう十回は他人に話して聞かせたな?」

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