抜け出せない街。

@nitoyuyu

第1話

 街(まち)――それは一体何だ。

 普段から知っているつもりになっていたその言葉に、突如として疑問を抱いた。



 辞書を引けば、道に面した人家の群れとある。大雑把に言えばそういうことなのだろう。だが、自分の求めてる答えはそれじゃない。


 ではなんなのか――それはきっと、大きくて小さいもの。


 よく分からない? ならこう言えば分かるだろうか。

 街というものは途方もなく大きいのかも知れないが、自分の知っている街というのは随分と小さくて広い。

 徒歩1分のところにスーパーがあって、少し行くと駅がある。3年近くこの土地に住んでいてそれぐらいしか知らない。


 大抵の奴は私のことを寂しいやつだと思うだろう。大いに結構、面積という点では実際そうなのだから仕方ない。

 その上で負け惜しみに聞こえるかもしれないが、1つだけ言いたいことがある。


 この街に住みながらにして、はてが見えないほど広い街を見ている。


 空気中の水分が凍りつき、月明かりでキラキラと光り輝く針葉樹の森に囲まれた団地群。

 バイクと自転車が延々と行き交って、決して渡ることの出来ない道路。

 ヤシの木が印象的で、夕日を背に若い男女が絡み合う浜辺。


 これら全てが電車の窓より小さく、飛行機の窓より大きいモニターという窓から見ている。

 そう、自分はネットという街に住んでいるのだ。


 世界のどんなことも見ることが出来て、世界のどんな音も聞くことが出来る。素晴らしい街だ。何か注文すれば、何処からともなく商品が届く。


 少し残念なことは、匂いと風を感じないこと。あと、女の子と一緒に映画を見たり 食事ができても、決して傍にいないということ。

 これが何よりも辛い。人のぬくもりというのが一切感じ取れない。寂しさの余り、滅多なことじゃ会話しない他人に辛く当たってしまう。自分を見て欲しいから。

 ぬくもりを感じたくてモニターからぬくもりを探すが、虚しさだけが募っていく。


 改めて自分の街を振り返ると、酷く悲しい街だと再認識させられる。決していい街じゃない。人にオススメ出来なければ、今すぐにでも別の街に引っ越したい。

 ただ、その方法を自分は知らない。



 誰でもいい、教えてくれ。

 この街からの脱出方法を――。

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