『スタ☆ディレ』
祭 仁
第1話 監督は今日も大変です。
「監と…⋯一之星監督、起きて下さいッ!」
「んあっ。すまない、寝てしまっていた。」
また、仕事の机で寝てしまったらしい。ヨダレは垂れてない、絵コンテは無事そうだ。
「寝るんだったら、ちゃんと家で寝てください。机の上の掃除も、たまにはしてください。」
そう言いながら、僕にコーヒーを出すのは、秘書の
────ズズッ。熱ッ!!
「はいはい。澤村さん、今日は何かあったかな?」
彼女は手帳を取り出し、淡々と今日のスケジュールを読んだ。
「これからすぐ、冬季にやるアニメ『俺はシスコンでマザコンですが何か?』の著者、青柳 弘先生との挨拶。昼13時からアシスタント社員募集の面接に角田社長と一緒に出ていただきます。⋯⋯以上です。」
「君は恥ずかしいタイトルでも淡々と言うね。」
「はい?」
彼女の鋭い目つき。これ以上、言えば仕事に差し支えそうだ。
「分かったよ。それじゃ今日も頑張りますか。」
僕は、コーヒーを飲み干し、大きく背伸びをした。
まずは、青柳先生からだッ!
「えぇ、一之星監督なの~聞いてないよ。
────いきなり、嫌味かよ!?
「
僕は右手を差し出した。青柳先生は、その手を無視して、言った。
「一之星監督で、大丈夫?最近、全然2期作品とか決まってないし、アンチも増えて来てるそうじゃない。」
意外と痛いところをつく。そう。僕は、最近スランプ。⋯⋯元々才能が無かったのか、最近の作品は全部、世間で言えば駄作に終わっている。
青柳先生が最上監督がいいと言うのも分かる。彼の手がけた作品は全てヒット。ヒット!ホームラン!!二期決定!!!
そんな作品ばかりだ。どうせ作ってくれるなら売れた方がいいと思うのは、当然だ。
「頑張りますッ。」
僕は深々とお辞儀をして挨拶は終えた。
しかし、これからアシスタント社員の面接か面倒くさい。
「どうして、この雅アニメプロダクションに?」
「アニメが大好きで⋯⋯」
「どうして、この雅アニメプロダクションに?」
「一之星監督の『愛には哀を。』で⋯⋯」
「それは、最上監督の作品です⋯⋯。」
────意外と疲れる。何人も何人も同じ質問を繰り返すのが、こんなに辛い作業だとは。これで最後か。
「次の方、どうぞ。」
「
うわっ。黒縁メガネ、ポニーテール、如何にもオタク真面目女子でアニメに出てきそうだ。
履歴書もドンピシャ。⋯⋯名門KW大学文学部卒業24歳ピチピチだな。
「では、月姫さん。どうして、この雅アニメプロダクションに?」
「はい。昔からアニメが大好きで、いつかはアニメにかかわれる仕事につけたらなぁ。と思い志願しました。」
まあ、無難だな。しかし、最後の面接者だしからかってやろう。
「すみません。一之星 光です。僕は監督をしていますが、僕の作品を見たことありますか?」
「はい。大好きです。『それでも結婚してください。』、『スペース・ソルジャー』は特に好きです!」
僕のまあまあのヒット作だ。ちゃんと勉強してきたみたいだな。
「では、僕の嫌いな作品または、嫌いなシーンはありますか?」
「一之星君!!」
黙っていた角田社長も彼女も顔をしかめた。
彼女は考えこんで言った。
「どの作品も好きですよ。────だけど、『それでも結婚してください。』の第4話で原作だと、一緒にお祭りに行った帰りに主人公が彼女の優しさに触れて最後『何でもねーよ!バーカ。』って言って頬を赤らめるんですが、アニメだと『知るかよ⋯⋯』で顔をすぐそらしたんです。それはそれでいいんですけど、初めて彼女に気を許した瞬間なのに、なんか寂しいなぁと残念に思いました。」
────ぷっ。
こいつ、よく見てやがる。
「それと⋯⋯」
「ああ、もう結構。」
「そうですか。」
少し、寂しい顔をしている。こいつ、本当にアニメ好きなんだな⋯⋯。
「角田社長、いいですか?」
角田社長も、もう察したようで頷いている。
「月姫 かぐやさん、明日からアシスタント社員として、働いてもらえますか?」
彼女は、驚いた顔をした。
「もっ⋯⋯もっちろんです!あっ⋯⋯ありがとうございます!!頑張ります。」
僕は右手を差し出した。
────どうやら、彼女は握ってくれる人らしい。
『スタ☆ディレ』 祭 仁 @project0805
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