スカート丈は膝上○cm。

まんごーぷりん(旧:まご)

第1話 膝上3cm、香り付透明リップの憂鬱①




 スクールカースト・中の上。それが私の勝ち方。




 女の子の世界って単純だ。大人はスクールカーストをすぐに問題視するけれど、実際はこのシステムが、面倒な人間関係を簡単にしていると私は思う。だって、カーストは目に見えるんだもん。――大きな目印となるのは、スカート丈。


 そもそもスクールカーストって何、と言う人も居るだろう。ググればすぐに出てくるよ。ヒンドゥー教における身分制度の事。バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラ。……じゃなくて、それに例えた、学校内での地位の事だ。


 クラスでの発言力が大きくて、いつも教室の真ん中で笑っている。好きな話はファッションとかメイクとか。ここは女子校だから、あまり男性の話は出ない。そういう人たちはカーストの一番上、つまりはバラモン。大体、スカートが短い。だから先生たちにも注意を受けることは多いけれど、高校生にとって先生からの評価って割とどうでも良かったりする。


 教室の隅で遠慮がちにこぢんまりと居て、クラスでの発言力が無い。というか、そもそもあまり何も発言しない。そういう人たちはカーストの一番下、つまりはシュードラ。不可触民。アンタッチャブル(――あれ、なんかカッコいいぞ)。それに属する人たちは大体、っていうか絶対に、スカート丈が長い。校則では「膝くらいの長さ」って決まっているんだけど、不必要に膝下5cm以上を守り続けていたりするの。



 どうしてこう、両極端に振りきっちゃうのかな。彼女たちを見ているといつもそう思う。そう言う私のチェックのスカート丈は、膝上3cm。メイクというメイクはしていないけれど、身だしなみは整えてるよ。髪の毛は染めていない、艶々のセミロング。バラモンさんたちがラズベリーピンクのグロスを塗っているとしたら、私はラズベリーののする、透明のリップを愛用している。


 そんな私の立ち位置は、まさに「中の上」、言うならば「クシャトリア」だろうか。それなりに友だちもいて、毎日がまあ、楽しい。決して派手な交遊関係が有るわけではないけれど、別にバラモンさん達にへーこらしながら生活している訳でもないし、それで満足している。バラモンじゃなくたって何一つ不自由はない。


美緒みおのことを嫌いな人って居るのかな」


 何度か友人にそういわれた事がある。――そう、これが私の生き残り方、勝ち方。アンタッチャブルさん達みたいに落ちぶれてしまえば、いつイジメの標的にされてしまうか分からないし、そもそもプライドが許さない。


 だけどバラモンになったらなったで、嫌われたりすることも多いのだ。あれー、先学期までクラスのリーダーだったのに、どうして今学期はこんなに大人しくなっちゃったんだろ。そういうバラモンさんも、居ないことはない。


 バラモンさん達、どいつもこいつも我が強いから、意外とぶつかり合っちゃうのよね。そんでもって戦いに敗北すれば、身なりは派手なアンタッチャブルの完成。ひゃー、怖い。どんだけ極端なの。私はそんなリスク背負いたくない。


 そういう意味で、「クシャトリア」はかなり居心地の良い場所なのだ。




 最近、ちょっと気になる人が居る。――同じクラスの篠田しのだ 透子とうこさん・アンタッチャブル。いや、ギリギリヴァイシャかな。とにかく、私なんかより立場はずっと下だと思う。似合わない黒縁眼鏡をかけ、スカートは膝よりずっと下、持ち物だってそんなに可愛いものはない。髪の毛は長めだけど、伸ばしているとかそういうのじゃなくて、「切り忘れている」という方が正しいかも。


 私がアンタッチャブルさんに興味を持つことなんて、今まで無かった。気になるっていうのは、別に好きとかそういう意味ではない。単純に「興味の対象」「不思議に思うところがある」、そういったところだ。


 うちのクラスの the most 美人さんと言えば間違いなく増田ますだ 沙羅さらちゃん・バラモンなんだけど、どういうわけかこの沙羅ちゃんがやたらと透子さんを好いているのですよ。――いや、好いているどころか、あれは「愛でている」。


 どこに「愛で要素」があるのか。だから私は、透子さんを「観察」することにしたのだ。

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