第2話
床から天井まで全てを青一色に染め上げられた通路を、同じく青色のタイトフィットなドライスーツに身を包み、脇にヘルメットを抱えた
普段ならば、ボディライン丸出しなこの格好を見られたくないがために小走りで駆け抜けるアスカだったが、今日は第五層の司令棟と
「まあ、私なんか見たがる人はいないんだろうけど……」
お世辞にも豊かとは言えない胸を見下ろしながら、自嘲気味にアスカは呟いた。
直後、その俯きかけた背中に声が掛けられた。
「告天寺明日香」
「わひゃあぁっ!?」
思わず飛び上がりながら振り返ると、同じく青のドライスーツを着たユウが立っていた。
「ちょ、な、わ、わざわざ足音消さないでください! びっくりしました!」
だが、ユウは不思議そうに少し首を傾けるだけだった。
「そういうものか?」
「そういうものです!」
するとユウは片手を顎に当てて考え込む素振りを見せた。
「……検討しておく」
遊ばれているんだろうかと疑い始めた瞬間、不器用な足音が鳴り始め、思わず眉をひそめてしまうアスカだった。
ユウは顎に手を当てたまま、足と耳に意識を集中させて色々な歩き方を試していた。その横を歩くアスカはヘルメットを胸に抱え、試行錯誤しながら歩くユウを不思議そうに見ていた。
そんなことをしている間に通路は終わり、天井の高い開けた空間が現れた。横に長いその部屋は、二人が入ってきた側よりも反対側の床が低くなっており、二つの領域を隔てる一メートル弱の段差には人型の物が腰掛けていた。
宇宙服を思わせるような厚手の布地と背面の四角い装置。
その布地を隙間なく覆うのは甲冑や甲殻類を思わせる多数の装甲板。
そして背部の装置から手足へと伸びる棒状の外骨格。
それこそが人類が大地奪還のために作り上げた対アプサラス用パワードスーツ、通称『ブラックメイル』だった。
「よし、ではヘルメット着用」
ユウが号令を掛け、二人揃ってヘルメットを被る。顎下でストラップを締め、防水ジッパーでドライスーツと接続。これで空気の通り道はヘルメットに取り付けられたフィルターを介するのみとなる。
それから互いに首のジッパーの点検をし、二人はそれぞれのブラックメイルに乗り込む。その時ふと横を見たアスカは、思わず尋ねていた。
「あの、それって何か特別なやつなんですか?」
それ、というのはユウの使うブラックメイルのことだった。
通常のブラックメイルはその名の通り、ベースとなる布の部分からその上の装甲やパワーアシスタントに至るまで、全てが黒一色で塗り上げられるのが普通だ。当然、アスカの使うブラックメイルもこの例に漏れない。
だが、ユウのそれは様子が違っていた。複合繊維生地やセラミックス装甲は同じく黒いのだが、背面の装置やそこから腕や脚に伸びる人工外骨格には輝く金の塗装がなされていたのだ。
そのアスカの指摘に、ユウは見向きもせずに答える。
「特注品だ。戦果を上げ続ければそのうち話が来るかもな」
「そう、ですか」
その場に他の誰かがいれば、それは至極普通の、それまでと変わらないやりとりに聞こえたかもしれない。
けれど、二枚の強化ポリカーボネート越しにどこかを見つめる彼の横顔は、何か大きなものを秘めているように、アスカには見えた。
「行くぞ、準備はいいな」
短くユウは言い、隣に視線を向ける。どうやら、新卒とはいえ問題なく装着は出来ているようだった。
「は、はい」
これまで見た限りでもこれと言って問題は見られないし、わざわざ
まあ上の考えは俺には分からないか、とそこでユウは考えるのを止める。
そう、彼女が使えるか使えないかはユウには関係の無いことだ。何故なら、ユウは今まで通り一人で与えられた任務をこなすだけなのだから。
「アクティベート」
装着者のボイスコマンドに従って、待機状態だったブラックメイルが動き出す。背部、着脱のための開口部が閉じていき、ガシュンと音を立てて密閉、換気用のファンは回転し始め、同時にブラックメイルがヘルメットと接続、複数のインジケーターが視界の隅に映し出された。
そして最後に正常にアクティブモードに移行したことを示すメッセージが視界下部に出現。
『準備完了、です』
ヘッドホン内部のスピーカーを通じてアスカの声が届く。それに答えてユウは言う。
「よし、出撃だ」
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