おばけの国から大脱出
にゃべ♪
第1話 目が覚めたらおばけの国
気がつくとそこは知らない天井だった。少なくとも自分の部屋じゃない。そこはログハウスのような木造りの部屋だった。生まれて10年、そう言う場所に僕は全く縁がない。だから思わず独り言をつぶやいてしまっていた。
「あれ?ここは?」
「良かった、気が付いて」
声がしてその方向に顔を向けると心配そうに僕の顔を覗く黒猫がいた。
「うわっ!ネコが喋ったァァァ!」
「まずは落ち着いて、余り時間がないんだ」
驚く僕に黒猫はそう言って前足を前に出して落ち着くように促した。僕は全く意味が分からなくて思わずその猫に質問する。
「え?どう言う事?」
「君は今おばけにされようとしている、早く逃げないといけない」
猫の話によると僕は今ヤバイ状況らしい。今のこの状況がすでにヤバイんですけど。話が全く読めなかったので僕はもう一度聞き返した。
「えっと、ごめん、何?」
「そうだね、まず順を追って話そうか、僕の名前はハロー、ハロとでも呼んでよ」
「ハロ、変な名前」
この喋る謎の黒猫の名前はハローって言うらしい。英語の挨拶が名前だなんて変なの。ハロって呼んでいいらしいからそう呼ぼうかな。
で、そのハロは僕が言った自分の名前の感想を耳にしてちょっと気を悪くしていた。
「仕方ないだろ、そう言う名前をつけられたんだから」
「ねぇハロ、ここはどこなの?」
聞きたい事はたくさんあったけど、やっぱり最初は場所の確認だ。ハロはまた真面目な顔になって質問に答えてくれた。
「ここはおばけの国。この国にずっといるとみんなおばけになっちゃうんだ」
「は?」
「そこから窓の外を見てご覧よ」
その言葉が信じられなかった僕はハロに促されて窓の外を見る。僕の目に飛び込んで来たのは空に浮かぶ沢山のおばけの姿だった。
おばけと言ってもそんな怖いものじゃなくて、ハロウィンの仮装でよく見るような頭からシーツをかぶったみたいな、見ようによってはちょっと可愛い系のおばけだ。
窓の外の光景を確認して振り返った僕はハロに質問する。
「君もおばけなの?」
この僕の質問にハロは首を横に振った。
「僕は違うよ、僕は特別なんだ」
「特別かー、いいなー、ずるいなー」
特別って言葉を聞いた僕は何故だか羨ましくなってついちょっとふざけてしまった。今まで僕は特別扱いなんてされた事がなかったから。
「ちょっと落ち着いてよ。話をさせて」
「そうだ、僕も特別にならないかな」
ちょっとふざけた事ばかり言っていると、ハロは僕がここに連れて来られた理由をポロッと漏らす。
「無理だよ、だって君は……君はおばけにさせられるためにここに連れて来られたんだもの」
おばけにさせるために連れて来られただって?この突然のカミングアウトに僕は反射的に質問を返していた。
「えっ?誰に?」
「魔女だよ。ここは魔女が作った国なんだ」
「嘘だ!魔女なんて会った事ないし!」
僕は話が飲み込めなくて混乱していた。そんな会った事もない魔女に連れて来られただなんて。嘘だって普通はもっと信じられそうな嘘をつくものだよ。
そんな話を全く話を信じていない様子を見て、ハロは僕がここに連れて来られた経緯の説明を始める。
「君はお菓子を貰ったよね?」
「え?うん」
「それを配っていたのが魔女だよ」
ハロの説明はシンプルだった。僕がここで目覚める前、確かにハロウィンの仮装でお菓子を貰った。それは個包装の飴だったんだけど、口寂しかった僕は貰ってすぐにその飴を口の中の放り込んだ。
確かあの飴をくれたのは魔女のコスプレをした綺麗なおねーさんだった。まさか――。
「嘘、あのおねーさんが?」
「そう、この時期はみんな仮装しているからね。こっそり混じっていても誰にも気付かれない」
ハロの話によると、そのおねーさんがじつは本物の魔女だったらしい。僕はすぐにあの飴を舐めた事を後悔した。
「飴を舐めたから僕は今ここにいるって事?」
「そう、あの飴にはそう言う魔法が込められていたんだ」
これで僕がおばけの国に来てしまった理由は分かった。それでも僕の疑問は尽きる事はなかった。
「どうして魔女は僕をここに?」
「このおばけの国の国民を増やしたいんだ。他の魔女に自慢する為にね」
「たったそれだけ?」
「そ!自分の能力自慢は魔女達のいつも繰り広げている定番の話題なんだ」
魔女がおばけの数を増やしたい理由をハロから聞いた僕は呆れてしまった。そんな下らない理由で僕は――思わず不満が爆発する。
「そんな理由でおばけになるなんて嫌だよ!帰してよ!」
「だから、さっきから帰してあげるって言ってるんだ」
これでようやく話は繋がった。ハロは僕をここから逃がそうとしてくれているんだ。でもどうして?
「何でハロは僕を逃してくれるの?」
「君がまだ間に合うからだよ。僕もね、今回の魔女のやり方は好きじゃないんだ」
間に合う――そう言えば最初の頃にハロがこの国にずっといるとおばけになるって言ってたんだっけ。僕はすぐに自分の体を確認する。見て、触ってしっかり確認する。良かった、まだ僕は人間だ。
そうか、今から急いで戻れば僕はおばけにならずに済むんだ!心強い味方を得て僕はすぐに彼に次に何をすればいいのか質問する。
「どうしたらいいの?」
「ハロウィンの当日って知ってる?」
僕の質問に対して、ハロはいきなりハロウィンの日時を聞いて来た。僕はその意図も分からないまま質問に答える。
「確か10月31日、今日の夜でしょ……本で読んだよ」
「その時、境界の門が開くんだ」
「教会ってあの祈りを捧げたりする……」
「そっちの教会じゃないよ!境目って事!」
境界の門が開く――って事はその門から現実の世界に戻れるって事なのかな?つまりハロの計画って僕をその門まで案内してくれるって事なんだろう。
「その門はここから近いの?」
「ちょっと遠いけど、走って行けば大丈夫」
やっぱりそうだ。ハロは僕をそこに連れて行こうとしてくれている。念の為に一応確認はしておこう。
「そこに行けば戻れるんだよね?」
「そう言う事、急ごう!」
ここでようやく話はまとまって、僕はハロの案内で境界の門へと急ぐ事になった。ログハウスっぽいこの部屋のドアを開けて外に出る。
外にはおばけがたくさんいたけど、誰も僕らに関心を持つおばけはいなかった。みんな好き勝手に空にふわふわと浮かんでいる。僕らの逃亡を邪魔するおばけはいない。
走りながら僕はハロに質問をした。
「ねぇ」
「何?」
「ハロはどうしてここにいるの? 魔女とも何か関係が?」
「僕は……魔女の使い魔なんだ」
ハロは少し言い辛そうに自分の正体を教えてくれた。使い魔って確か魔女に付き従うメイドって言うか執事みたいなそんな存在だったっけ?
ここでやっと僕はハロが自分を特別だって言っていた意味が分かった。
「あ、そうか!だから特別なんだ。でも使い魔が主人を裏切っていいの?」
「このおばけの国の国民は今までみんな霊界から募集をかけて集めてたんだ。だから僕も喜んで協力してた」
ハロが言うには、ここのおばけは元々霊界から呼んで来たおばけらしい。この話を聞いた僕は当然のように疑問が浮かぶ。
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