空から見たあれは・・・

つかさ すぐる

1話完結

 この階段は、一体何段あるのだろうか?

登りながら私は、さっき

かご」をかついだ小父おじさん達の誘いを

断った事を後悔していた。

 下にあった土産みやげ物屋に

つえ」が置いてあったのを、


「帰り道に記念に買っておこうか?」


と考えたのが大きな間違いだった事に

気づかされたのは、3百段を超えた頃だった。


「あゝそうか、杖は土産ではなく、

登る為の実用品だったんだ。」


そう気づいた頃にはもう

ひざが笑っていた。

ネパールに居る頃はまだ、

登山用の杖を携帯していたが、

タイで


「もう必要ないだろう。」


と思って、

屋台の小父さんの

「ラートナー」って言うあんかけ麺と

交換した。

一時いっときの小銭をケチって空腹をしのいだ

のを後悔したのは、

今回だけでは無い。

学習能力のない自分に、

又、閉口へいこうしてしまった。



 香港からの飛行機が

高松空港に着く直前に、

私はを見てしまった。

今回ここに来たのは、

瀬戸内海の島々で開催される

瀬戸内国際芸術祭せとうちこくさいげいじゅつさい」を

見るのが目的だった。

インドで会った日本人から聴いた風景に

あこがれて、インターネットで

その場所を調べているうちに、

三年に一度のそれが開催されるのが、

丁度ちょうど今年である事を知った。

それから、タイから中国へ飛ぶ予定を

急遽きゅうきょ変更して、

日本へやって来たのだった。

なのに、私はそんな事はそっちのけで

を探している。


 「このあたりで一番高い場所に行って!」


空港からのタクシーに乗るやいなや、

私は運転手にそう言った。

日本人にこんなに英語が通じない

とは思っていなかったが、

タブレットに入れていた翻訳ほんやくソフトに

打ち込んで見せると、

運転手は困った様子で、


「ここらで一番高い言うてものぉ言ってもねぇ・・・。

とりあえず、

高松駅の隣のビルでどうですか?」


私は、そう言われても

良く分からなかったが、

高松駅には、「瀬戸内国際芸術祭」の

インフォメーションセンターが在ると

ネットに出ていたのを思い出して、


「じゃ、そこ、お願いします。」


こたえた。

うわさには聞いていたが、

他の東洋の国々と違って、

骨の折れる交渉も無く

タクシーから降りられた事には驚いた。

言葉には不自由だったが、

運転手がことほか親切で、

身振り手振りで

インフォメーションセンターの場所を

教えてくれたのも、

日本人は無口だと思っていた私には、

意外だった。


 インフォーメーションセンターで、

調べて来た概要がいようを確認して、

「作品鑑賞パスポート」を買った後、

島へ渡るのは明日以降の事にして、

「高松シンボルタワー」と言う

このあたりで一番高いビルの、

30階にある無料展望スペースに

急いで登った。

そこからは遠くの島まで見渡せて、

おまけに

丁度ちょうど夕日が紫色に海を染めている頃で、

香港の夜景とは違う

穏やかな美しさが印象的だった。

 しかし、

私はそんな絶景もそこそこにした上に、

無理をしてレストランにまで入って、

を探したのだが、

陸地の方は流石さすがに街で、

源平合戦げんぺいがっせんで有名な

屋島やしま」をはじめとした

周辺の小山や、

高松城址じょうしの辺りに

土の色が見えるだけで、

ほとんどが現代的な建物と

アスファルトの路面だった。


 仕方なく海沿いを

観光がてら歩いていると、

倉庫を改造した様な

ショップが集まる場所に辿たどり着いたので、

その中の喫茶店に入って

コーヒーを飲む事にした。すると、


フェヤー・アー・ユー・フロムどこからきたの?」


つたない英語で、

隣に座っていたご婦人方が話し掛けてきた。

私は、例によってタブレットを見せながら、

今までの旅の話を少しした。

それから、

「この辺りに他に高い場所は無いか?」、

ついでに

「うどんのうまい店は無いか?」

くと、


ほんならそれであれば、こんぴらさん行ったらわ行ってみれば

あの辺りはおうどんも美味しいし、

参拝する人の泊まるホテルもあるしの。

今の時間からなら丁度ええんでない良いのではないかな?」


と教えられた。

結果が、この階段である。


 7百段を超えて8百段が近くなった頃、

本殿に到着した。

讃岐富士さぬきふじ」と呼ばれる

飯野山いいのやま」より西方面まで

見渡せたが、

やはりは見当たらなかった。

まだ上の、「奥の院」までは

1368段あるという事だから、

倍近くの段数を

登らなければならなかったが、

幸いな事にここで、

親切なおばあさんが「杖」をくれた。

なんでも、この地方には

88のお寺を周る巡礼じゅんれいがあって、

それをできない人が、

気持ちを旅人にたく

「お接待せったい」と言う風習があるからと、

微笑わらって渡された。

 この親切のおかげで上まで登れたものの、

一番上から眺めても結局、

は見つからなかった。


「もうあきらめて、昼からは島に渡ろうかな?」


そう思いながら階段を降りると、

もうお昼を過ぎていた。

朝、ホテルのモーニングを食べてから

何も口にしていなかったので、

琴平ことひらの駅近くまで戻って

うどん屋に入った。


 「琴平から、丸亀の辺りには、

なんぼでも幾らでもおいしいうどん屋が

あるけんのありますからね。」


と昨日のご婦人達が言っていた通り、

そこのうどんも

はずれなく美味おいしかった。

滝の様に汗を出している私を、

見るに見かねて手拭てぬぐいを

濡らして持って来てくれた店員に私は、

思い切っての事を

く決心をした。


「飛行機から見えたのですが、

何処どこから見ても無いんです。」


「何がですか?」


です、

お金の形をした砂の絵が見えたんです。」


私は、もし間違っていたら、

「日本人の事を『エコノミックアニマル』と

馬鹿にしているのか!」と、

怒られはしないかと思って、

なかなか言い出せなかった。


「あゝ、『寛永通宝かんえいつうほう』ね。

とても有名な、場所ですよ。」


すご恐縮きょうしゅくしている私を笑いながら、

店員はそうこたえた。


 どこだったか?

 貴方あなたも、

膝が笑うあの階段を登って来たら、

教えてあげますよw

                                   了



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空から見たあれは・・・ つかさ すぐる @sugurutukasa

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