月読み

山咲ゆう

月読み

 昭和二十年


 天才医師、山来秋雄やまらい あきおにとってまさに時代が彼を後押ししていたと言っても過言ではなかった。彼は軍医として活動し、そこで何の研究に従事していたのかは不明、本来なら帰すはずのない配属らしいが国による彼の扱いは明らかに特別であった。

 ケガを理由に帰還を果たし、小さいながら設備の整った診療所を開設。そのスピードに国が後押ししているのではないかと疑う者がいたくらいだ。

 空襲が行われるたびに彼の診療所には身寄りをなくした人々が足を運ぶ。どこの誰がやってきたかなど誰も詮索はしない。誰が消えようが時代は何も言わず、彼にとって戦争は都合の良いものでしかなかった。


 彼はそれを後世に残そうとした。何故それを残そうとしたのか? それを知る術はもうない。しかし、彼の息子、山来春やまらい はるは何かを感じ取っていたのかもしれない。その力が後にどうなっていくのか、何のために残されたのか、それが彼に化せられた使命であるのなら。


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