ぼくとともに、俺とともに / 僕がいき、俺がいき

夕涼みに麦茶

Age07-7 おじさんとのであい

 しょうがくせいになって、はじめてのなつやすみ。ぼくは、いえのちかくのじんじゃにいった。ぼくのいえは、やまのちかくにあったので、ちかくにあるじんじゃも、ぼくのいえよりも、ちょっとたかいところにあった。いえをでて、すぐみぎに、とてもながいかいだんが、やまにむかってつづいている。

 ぼくは、そのかいだんをいきおいよくかけあがって、かいだんのてっぺんにある、じんじゃにいった。


 せっかくのなつやすみなのに、ぼくはとてもひまだった。ともだちの、ゆうくんも、みくちゃんも、げんたくんも、えみちゃんも…みんなかぞくで、とおくにでかけちゃった。ぼくのうちは、べつのひにいくことになっているけど、おんなじひに、まわりのなかよしが、ひとりもいなくなるのは、ほんとうにつまらなかった。だからぼくは、じんじゃで、せみやかぶとむしをつかまえてあそぶことにした。ようちえんのときから、おとうさんや、ゆうくんから、むしのつかまえかたをおそわっていたので、ぼくには、らくしょうだった。むしかごと、あみをもって、かいだんをのぼるのは、たいへんだったけど、あせがいっぱいでたけど、ぼくは、なんとか、じんじゃについた。ミンミンと、せみがうるさいこえでないている。こえのかずは、かぞえきれないほどだったけど、ぼくは、ぜんぶつかまえてやろうと、きあいをいれた。あせをてでふいて、あみのぼうをつよくにぎって、せみのこえがするきにむかって、はしろうとした。そしたら、じんじゃのたてもののおくから、おおきくて、あかくて、ひげボーボーなおじさんが、ノシノシと、でてきた。あたまに、おおきな、とんがったつのがある。ようちえんのときによんだ、ももたろうにでてくる、おにみたいだった。おじさんは、ずっとみていたぼくにきがついて、こまったかおで、ぼくにちかよってきた。ぼくは、ちょっぴりこわくなったが、あみをおじさんにむけて、せいいっぱい、おじさんにまけないような、こわいかおをつくった。おじさんは、ぼくのめのまえまでくると、あたまをかきながら、しゃがんで、ぼくのかおをみてきた。

「そう、けいかいするな、ぼうず。だれも、ぼうずを、とってくおうなどとは、おもってねえから、こわいかおするな。」

 おじさんは、おおきな、ごつごつしたてを、ぼくのあたまにのせて、ぼくのあたまをなでてくれた。ぼくは、ちょっとだけ、ビクッてなったけど、おじさんのニコニコしたかおをみていたら、このおじさんは、ももたろうのおにのように、わるいおにじゃないとおもって、ぼくは、おじさんに、えがおをかえした。おじさんは、あんしんしたかおで、ぼくにせなかをむけると、あるいて、じんじゃのたてもののまえにある、ちいさな、いしのかいだんにすわった。そのまま、ぼくをよぶように、おいでおいでと、てをうごかしたので、ぼくもそこまであるいて、おじさんのよこにすわった。おじさんは、ずぼんのぽけっとから、ぼくのだいすきな、めろんあじのあめをだして、ぼくにくれた。しらないひとから、ものをもらってはだめだと、おかあさんからいわれていたけど、ぼくは、どうしても、あめがなめたかったので、おじさんから、あめをうけとった。くちにいれると、とってもあまくて、とってもおいしかった。すーぱーでうっている、ぼくのだいすきなあめと、おなじつつみがみのあめだったので、ぼくは、とてもしあわせなきもちになった。

「おいしい!」

 ぼくが、おじさんに、おいしかったことをおしえると、おじさんは、また、ぼくのあたまを、なでてくれた。

「それはよかったな。ところで、ぼうず。」

おじさんは、ぼくのあたまから、てをはなすと、さいしょみたいに、こまったかおになった。どうしたのだろう?

「あめのおれいに、ってことで、ここで、おれにあったことは、ないしょにしてくれないか?だれにも、いわないでほしいんだ。」

「どうして?」

「きづいているとおもうが、おれは、おにだ。ぼうずだって、さいしょに、おれをみて、こわかっただろう?ぼうずが、こわいとかんじるなら、ほかのにんげんたちも、おれのことを、こわがるだろう?」

 おじさんのいうとおりかもしれない。ぼくは、さいしょ、おじさんにたべられちゃうとおもった。それに、おもいだしたけど、さいきんのわるいひとは、やさしいかおをして、ぼくたちにちかづいて、どこかにつれていったり、ひどいことをしたり、こわいんだって、おかあさんがいってた。でも、おじさんは、やさしそうなかおで、ちかづいてきたけど、ひみつにしてほしいっていうだけで、ぼくにひどいことをするようすは、ぜんぜんなかった。ぼくにだまっていてほしいなら、いまごろ、ぼくをたべちゃっているはずだよね。おじさんは、いいおになんだと、もういちどおもいなおしたぼくは、おじさんのおねがいを、きいてあげることにした。あめだまのおれいも、あるし、ね。

「いいよ!ぼく、おじさんのこと、だまっててあげる。おじさんも、ひとにあうたびに、いやなかおされたら、いやだもんね。それに、あめだまのおかねも、たいへんでしょ?」

「はは、そうだな!ぼうずにあげたみたいに、いちいちあめだまをあげてたら、おれ…おじさんのおこづかいが、なくなっちまうよ!ぼうず、よろしくたのむな!」

「うん!それじゃあ、やくそく!」

ぼくが、こゆびをだすと、おじさんもこゆびをだして、ひっかけあった。

「ゆ~びき~りげんまん~」

「うそついたら、はりせんぼん、の~ます」


              「ゆ~びきった!パッチン!」


 ゆびきりで、やくそくしてから、ぼくとおじさんは、ニコニコしながら、いっしょにわらった。それから、ぼくは、たちあがると、あみをもって、むしとりに、もどることにした。でも、やっぱり、ひとりじゃつまらない。そうだ!

「ねえ、おじさん。これからひま?」

「ん?まあ、ひまっちゃあ、ひまだが?」

「それなら、ぼくと、むしとりしようよ!おじさん、おおきいから、きのうえのほうとか、てがとどくでしょ?」

「え?うーん…。」

おじさんは、また、こまったかおをして、かんがえごとをしていた。それから、ハァッといきをはいて、ぼくからあみをとりあげた。

「きょうだけだぞ?ぼうずも、おじさんのことは、きょうかぎりでわすれるように。いいな?」

「うん!ありがとう!」


 それからぼくたちは、じんじゃのまわりのはやしを、あちこち、あるきまわりながら、むしとりをしていった。かぶとむしはいなかったけど、くわがたむしや、せみ、ちょうちょを、なんびきかつかまえた。とちゅうで、せみに、おしっこをひっかけられたりもしたけど、おじさんとのむしとりは、とってもたのしかった。

 ゆうがたになって、ぼくたちのあそびは、おしまいになった。おじさんと、じんじゃのみずを、ゴクゴクのんでから、ぼくは、ながいかいだんのほうに、あるいていった。

「おじさん、きょうはありがとう!とってもたのしかったよ!またね!」

 おじさんが、ぼくの、さよならのへんじに、てをふってくれたので、ぼくは、むしがはいったむしかごを、おおきくゆらしながら、いえにかえった。


 これが、ぼくとおじさんの、さいしょのであいである。


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