第205話 標に走る
「――――ちっ! 仕方ねえ。飽くまでほんの一時だけだからな!!」
――ガイはリオンハルトからの提案を苦々しくも受け入れた。
目の前のヴォルフガングと、創世樹内部にいるアルスリア。敵はたった2人とはいえ強大だ。反乱軍のリーダーにせよ、戦場を放棄した改造兵にせよ、戦力は少しでも多いに越したことはなかった。ガイがイロハとテイテツ、そしてセリーナを見遣ると、皆一様に苦々しくも承り、首肯した。
――特に……今現在ではガイたちには知る由も無いが、創世樹と同期し、ただでさえ強大な力を持つアルスリアが更なる、比較にならないパワーを得てしまっていることも加味すれば、戦力はこれだけいても足りないのかもしれない。
「――とうとう、おめえらと肩を並べることになっちまったなあ。メランが今ここにいたら……どう言うかな…………。」
「――喧しい!! 私たちは貴様やリオンハルトの仲間になどなったつもりはない。なってたまるか!! ――打ち倒す敵が同じなだけだ。」
――今だ死別の悲しみに浸っているライネスだが、断じて友好的な関係性とは言えない者同士。セリーナもガイ同様、毅然と馴れ合うことを突っぱねる。
「――今ここに……味方が6。敵がアルスリアを除いて目の前に1。数では圧倒しているが……あのヴォルフガング、そして奥に控えるアルスリアがどれほどの戦力を有しているか…………決して油断出来ない戦いだ。」
「――なぁーにっ!! 相手が余程の超人ならともかく、戦いは数っスよ数!! エリーさんとも合流出来るかもしれないし、負けるはずがないっス!!」
イロハは、全員を鼓舞する意を込めて楽観的な戦況を声高に述べる。
「――――ふむ。私は仮にもガラテア全軍を束ねる中将。アルスリアほどではないにせよ…………白兵戦で6人そこそこの烏合の衆に遅れを取ると思われるのは……些か心外だな――――」
そう呟くなり、ヴォルフガングは青い
「――来るぞッ!!」
――臨戦態勢に入ったヴォルフガングから放たれる殺気に、リオンハルトも全員に号した。全員が反射的に構える。
――だが――――
「――何っ!?」
――今にも襲い掛かるかと思われたヴォルフガングだが――――意外にも、創世樹の方角目掛け、再び超速でダッシュ。敵前逃亡を決め込んだ。
「――あの野郎、俺たちを迎え撃つんじゃあねえのかよ!!」
「……やはり、作戦を考えるならそうするか――――待てッ! ヴォルフガング!!」
――リオンハルトも走り、ヴォルフガングを追いかけながら同様に青い
「どういうこった、テイテツ!?」
「――ガラテア軍の理想に忠実な将官ならば、優先すべきは無駄に戦闘回数を増やすことじゃあなく、一刻も早くアルスリアとグロウを創世樹内部で融合を果たすことだ。ヴォルフガングにとっては我々など眼中に入っていない。目的は飽くまで生命の
「――――ええッ!? そうなのかよ!? 創世樹とかいうあの馬鹿でかい樹を守れって言われただけで、俺ら他には敵を殲滅することしか作戦内容知らされてねエよオ――――!!」
ついさっきまでガラテア軍のいち兵士だったはずのライネスですら、素っ頓狂な声を上げつつ追いかける。
「――目的遂行の為ならば、私たちなど歯牙にもかけないと言うことか――――舐めているのはどっちだ。あの軍人…………!!」
セリーナも逆上する心を抑えつつ、素早く
「――逃がさん。あの男を仕留めるのは私の宿願なのだ…………!!」
――リオンハルトが集中した練気から立ち現れたのは――――冷気。絶対零度の冷気で足元をその場で凍り付かせながら、まるでスピードスケートの要領で超速でヴォルフガングの後を追う。
「――おおっとォ。一番槍なら、ウチが貰うっスよ――――どおりゃああああーーーッッ!!」
――しかし、黒風・
「――――のわッ!? っとっととと――――」
――だが、ヴォルフガングは直線距離でのスピードなら負けるものの、サイボーグ化した身体と練気に加え、あらゆる格闘技を会得したその俊敏な動きで……残像も見えるかと思われる機敏な動きで躱した。派手にハンマーを空振り、体勢を崩すイロハ。
「――ぐええッ!?」
――その隙に、ヴォルフガングはすかさずサイボーグ化した片腕の末端に電気を集中し、スタンガンのようにイロハの腹に反撃の突きを加えた――――電磁圧はイロハも纏っているので致命傷ではないが、なかなかに痛い。
そのまま勢いも体勢も崩さぬまま、前方を向いて走り去ろうとするヴォルフガング。目標は創世樹。そしてアルスリアの援護。徹底している。
「――娘と揃いも揃って卑怯者め…………これでどうだ――――!!」
――怒りと蟠りに震える声のリオンハルトは、練気を広範囲に展開し、辺りを冷気で覆った。無数の氷塊の礫が生成される――――
「――喰らえッ!!」
大量の氷の礫が、避ける隙間も無くヴォルフガングを襲う――――!!
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