第203話 到達
――――また一方その頃。エリーは再び単騎で赤黒い
…………その途上で、エリーの行く手に立っていたガラテア軍は、言わずもがな。見るも無惨な末路を遂げている。
――――赤と、黒。
エリーが練気と共に昂る肉体と精神の気で、辛うじて認じられるのはそれぐらいだった。
歩兵程度の敵はエリーに触れることすら出来ずに焼殺され、跡形も残らない。重戦車や戦闘機などの類いも、一瞬にして原形も留めぬほどに爆裂して四散した。
今のエリーは、最も強力な宮殿型戦艦の主砲すら跳ね返すほどの闘神が如く。途方もない熱と圧を放ちながら猛スピードで突き進む彼女を認識して止められる者などまずいなかった。原型も留めぬほどの肉塊と化して死ぬか、跡形も残らず消滅するか…………もはやどちらが幸福な最期なのか、解ったものでは無い。
――昂り、猛り、激突、また激突。それを繰り返し進むエリーには、もはや脳内に微かに浮かぶ像……『赤と黒』程度にしか認識していなかった。
確実に、エリー自身も大勢の人間を殺していることは解っていたが、仁義なき戦場ではもはやエリーと激突した敵が不幸と言う他なかったのだ――――
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「――むう。まずいねえ。君のエリーお姉さん……この上なく恐ろしい姑は、猛烈な勢いでここに向かってる……この分だとすぐだね。急がねば――――」
「――お、お姉ちゃん…………。」
――戦鬼そのものと化して迫るエリーに、アルスリアは焦りを覚え、グロウもまた戦慄した。俄かに歩調を速めて創世樹の内部に侵入するアルスリア。
「――ここが……創世樹の、中――――?」
――花婿と花嫁。グロウとアルスリアが踏み入った先は、一見広く巨大な樹木の内部のようだったが――――単なる巨大な植物とは、何か違う。あちこちに光と共に浮かび上がる紋様や、幾何学模様のような形状の謎の物体――――どちらかと言うと、途轍もなく巨大な人工物のような印象を受けた。
「――――あった…………ははははは! 本当にあったぞ――――!!」
「――い、痛っ……!」
――アルスリアが何か奥に見つけ、興奮して歩調をさらに速めた。思わずグロウと繋ぐ手に力が籠り、悲鳴を上げる。
「――おっと。済まない、ごめんね。花婿様…………ここの中心部へと至る為のに必要な物が見えたので、ね……」
――アルスリアは取り繕いながらも、グロウを引っ張って奥へ進み――――何やら台座のようなオブジェクトを見付けた。
「――――こんなところに……機械――――?」
「――待っていてくれ。今、認証するから…………」
――台座の上の奇妙な物体は、少し蔦や葉などを取り除くと…………まるで何かの制御装置のように思えた。アルスリアは懐から手帳を取り出し、何やら参照しながら操作していった。
すると…………みるみるうちに辺りに様々な、青や緑、赤などの色彩の光が灯り、創世樹は起動していく――
「――ここで……私が、掌を翳せば――――!!」
幾ばくかの工程を経て、アルスリアは右手の手袋を外し、制御装置から出る光に右手を翳した――――
「――――ふっ……ははははははは…………!! やった、やったぞ!! 遂に創世樹は我が手中に!! 凄い……創世樹に溜め込まれた膨大なエネルギーと……生命のデータが流れ込んでくる――――!!」
「――あ、アルスリア――――!?」
――アルスリアの全身に漲る、碧色のエネルギー。彼女は狂喜と悦楽に浸りながら、自らの力をこれまでと比べ物にならぬほど高めていった――――
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「――――あれは…………!! アルスリア、遂に到達したのか…………!!」
――創世樹へ超速で向かいながら、ヴォルフガングは創世樹からさらに途轍もない高エネルギー反応を見て、アルスリアが創世樹を手中に収めたのだと悟った。
「――こちら、ヴォルフガング。アルスリア、応答せよ。アルスリア、応答せよ。」
走りながらも、ヴォルフガングは通信機でアルスリアと連絡を試みる。
しかし――――
「――? 何故出ない…………アルスリア中将補佐! 状況を説明せよ! アルスリア!!」
――何度呼びかけても、アルスリアは応答しない。訝るヴォルフガング。
(――何故応答しない? 通信機の故障か……それとも、アルスリアの精神や身体に何かあったのか。どちらも考えられる――――)
「――ならばこの目で確かめるしかないな――――むっ!?」
――――その刹那。ヴォルフガングは殺気を感じ、自らの顔の横へ咄嗟に左手でガードした――――スナイパーライフルの銃弾が機械化した左手にめり込む。
「――やはり、このルートを通るつもりだったか。父上――――いや。ヴォルフガング。」
――100mほど離れた地点から狙撃して来たのは――――『震える星』旗艦にて暗殺されたはずのリオンハルトだった。
「――おめえは……リオンハルト!?」
その場にちょうど、ガイたちも居合わせた――――
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