第202話 不退転の意志

「――マジっスか…………次から次と一体何なんスか、この戦場…………混沌カオスっつっても程があるっスよ……」





 ――本来は非戦闘員であったはずの科学者ルハイグの猛襲。創世樹からの高エネルギー反応。リオンハルトの反逆。次いでクリムゾンローズ盗賊団の横槍。






 混沌そのものと化している戦場において、健啖家であるイロハですら不安定極まりない状況に眩暈を催しそうだった。





「――おし……大丈夫だ! セリーナは助かる!! だが……機械化された部分までは元の肉体へは治せねえ…………戦いに復帰すんのはやっぱ無理かもな……」





「――うっ……うう…………」





 ――ガイの回復法術ヒーリングを受け、辛うじてセリーナは復活した。だがガイの言う通り、戦線に復帰出来るかはかなり難しそうだった。





「――わ……たしは…………今まで一体――――そうか……洗脳され、私はまた槍をエリーに…………」





 意識を取り戻し、意外にもハッキリとした声の調子でセリーナは反応を示す。





「――くそっ!! エリーに何て詫びれば…………いや、この際こんな戦場でそんな後悔はしている場合じゃあない――――私も戦うぞ。戦って、少しでも恩に報いる。」






 セリーナは意識を取り戻したばかりでも意気軒昂だが…………。






「――無理をしてはいけない、セリーナ! さっきまで限界を遙かに超えるような戦いをしていたんだ。ましてや機械化された部分は破損している。特に左腕は…………。」






「――テイテツ……いつの間にか別人のようだな。」






 ――もう感情を取り戻してしまったテイテツは、実に沈痛な想いでセリーナを憐れむ。






「――おめえを洗脳した……あのルハイグって科学者の糞野郎が最後にやりやがったんだ。テイテツの脳は補助的な電子脳だか何だかを埋め込まれて暗示催眠をかけられた程度で、脳から感情そのものを取り去ってはいなかったんだとよ。そして、今その感情が戻った…………こんな感情的で慌てふためくテイテツは俺も初めて見るぜ……」






 ――そうして一行は、少し後ろで横たわるルハイグの遺体…………は、跡形も無く残ってはいなかったが、自爆直後の小さなクレーターを見遣る。もう少し離れた場所ではライネス、改子、バルザックがメランの亡骸を見下ろし、呆然としている。





 ――――テイテツ。在りし日のヒッズ=アルムンドにとってルハイグ以上にもっとも天敵だった、己の激情傾向。ルハイグは呪いとばかりに『この戦場でその激情に満たされ、苦悩したまま死ね』と蘇らせてしまった。






 果たしてこの後の戦い、テイテツはまともに戦い抜けるのだろうか…………。






「――私はそれでも行くぞ。」






 ――――セリーナは自らの屈辱感からなる激情を今は抑え、落としていた大槍を右腕で掴み、ゆっくり立ち上がった。





「セリーナ…………!!」




「セリーナ、無茶すんじゃあねえ。身体の一部削られて疲れたまんまじゃあ、すぐ死んじまうぞ……」





 ――だがセリーナは毅然と、空中走行盤エアリフボードを踏み直した。身体が浮き上がり、ややふらつくも飛ぶ。






「――――ここまで来れば死なばもろともだ。どうせフォルテまで戻って手当てをしても、その間に創世樹が完全に生命の刷新進化アップデートを終えてしまっては、それこそ元も子もなくなる。左腕が使えないならば、右腕で槍を突く。空中走行盤も乗れるし、練気チャクラだってまだ枯渇していない。エリーに与えてしまった苦痛と苦悩を思えば、安いものだ。最後まで戦うぞ。」






 ――身体の一部を失ってでも戦い抜くと決めたセリーナ。もはやこの最終局面で、退くという選択肢はあり得なかった。






「セリーナ、だが!!」




「――そうかい、セリーナ。なら必死でついて来な。最後まで戦おうぜ。エリーの為に……グロウの為によ!!」




「ガイまで……」




「――うるせえぞ、熱くなったテイテツ。もう後には退けねえ。前進するしか道はねえんだ。おめえのその頭脳もまだ機能しているうちは手伝ってもらうぜ。今更仲間から抜けるなんて、ねえだろ?」





 ――――創世樹が完全に発動してしまえば、全人類、生死の保証は全くない。ガイとセリーナ、そして傍らで黒風・あらためのエンジンを温め直しながら不遜に笑うイロハも覚悟は決まっている。






「――――そうか。わかった…………我々の抵抗を見せてやろう!!」






「――よっしゃ。そうと決まったら行くぜ。ガンバに乗り直せ!」





 ガイが号し、一行は再びエリー、そしてグロウを救う為に創世樹へ向かって走り出した――――





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 ――一方。元はガラテア軍旗艦の1つだが、『震える星』の御旗のもとに反旗を翻したリオンハルトもまた、艦隊の指揮を出しながら防御態勢を取るガラテア全軍を牽制していた。





「――くそっ。やはり防御態勢を取るか…………時間が経過するのはまずい。決死隊を差し向け、白兵戦で敵の指揮官を討ち取れば――――」






「――リオンハルト御大将ッ!!」






「――何だ!?」





 ――部下に呼び掛けられ、振り向いたリオンハルトだったが――――






「――がっ……ば、か…………な――――」





 ――部下は、ヴォルフガングが差し向けた暗殺部隊だった。一手遅れたのか。リオンハルトは凶弾に倒れる――――

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