第200話 震える星
――――ヴォルフガングが形ばかりの皇帝を粛清した直後。ガラテア軍の戦艦の何隻かが、いつの間にかヴォルフガングの指揮下に入っている戦艦を囲うように陣形を組んでいる。
幻霧大陸エリア一帯…………否、世界中の電波が通じる場所全てに向け、映像と音声が発信されている。
映像の中心に映っているのは、いつの間に雲隠れしたのか、リオンハルトの勇姿だった。
マイクの前に立ち、演説する。
「――――幻霧大陸にて戦うガラテア帝国軍全軍……そして全世界の人々に告ぐ。私はリオンハルト=ヴァン=ゴエティア。ガラテア帝国軍准将……だった者だ。私はこれより、我が志を同じくする有志と共に、ガラテア軍を打倒することをここに宣言する――――。」
――状況が既に多くを物語っているが、リオンハルトはとうとうこのタイミングでクーデターを起こしたのだ。上官であり、実父であるヴォルフガングも注意深く聴く。
「――――私はガラテア軍高官として、数百年に渡り、ガラテア軍の非人道的行為と戦争犯罪の数々を目撃して来た。無論、今日と言う日の為に自らそのような非人道的行為に加担し続けて来たことも事実である。我が穢れ切った手で犯した罪は…………革命が成ったのち、この死を以て償う所存である。だが、その前にどうしても見過ごせないことがある。今現在、幻霧大陸にて起きている戦闘で多くの死者が出ていることは言わずもがな、創世樹を利用した生命の
「……リオンハルト…………。」
――革命家としてこの土壇場で決起したリオンハルト。我が息子の姿と声を見て、ヴォルフガングは何とも言い難い複雑な想いが去来していた。
「――――生命の
――遂にリオンハルトはガラテア帝国を、そして己自身も憎悪を募らせているアルスリアを否定する。ガラテア軍の兵士たちも、ゴッシュたち冒険者たちも――――そして世界中の人々が戸惑いを禁じ得ない。
「――――我々『震える星』が行なうこれもまたガラテア帝国軍と同じ旧態依然とした武力弾圧であり、多くの血が流れてしまうだろう。繰り返すがその非人道的行為という点においてはこの身を以て償う所存である――――だが! それだけの血と涙を流してでも、この世界システムを利用した悲劇は阻止せねばならない!! ――――我々は『震える星』。この星に生まれ、そして生命を弄ばれた総ての存在の怒りの震えを以て革命を行なう、反ガラテア組織也。――――以上。」
――高らかに反旗を翻したリオンハルト。ヴォルフガングはその様子を見て、しかと頷いた。
「――ヴォ、ヴォルフガング中将閣下……!!」
「――――狼狽えるな。確かに陣形ではこちらが不利だが、防御態勢を取れば時間は稼げる。後からこの幻霧大陸に上陸してくる友軍、そして創世樹に先行しているアルスリア中将補佐を待てば勝てる戦いだ。いや、反乱軍との争いなど勝たずともよい。」
「……と、申されますと?」
「――わからんのか。飽くまで我々の目標は創世樹を起動し生命の刷新進化をアルスリアの手に委ね、相応しい世界に進化することだ。要はアルスリアと『養分の男』が創世樹深部で融合を果たせば作戦終了。我々の勝利なのだ。」
「――で、では……防御態勢を取り、それから――――!?」
「――暗殺部隊を差し向け、リオンハルトを殺せ。あいつがどれほどの労苦と年月をかけて準備していたか知らんが、頭なきは烏合の衆だ。一旦耐え切れば後は造作も無い――――」
そこでヴォルフガングは、司令官の席を離れ、他の将官に指揮を譲った。
「――中将閣下……席を離れられたということは――――」
「――そうだ。アルスリアと落ち合う。あいつもガラテア軍最強の将官とは言え、冒険者やその他大勢の猛攻を受ければ作戦に差し支える。私も間近で見届けるのだ――――世界変革の時を、な――――」
――そう告げて、ヴォルフガングは主のいない宮殿型戦艦を静かに去っていった――――
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