第187話 血戦の舞台へ

 ――――戦艦フォルテが全速前進で創世樹へと向かい、ガラテア全軍もまた早急に創世樹へと向かい、陣形を整えようとする。





 そしてついに――――





「――――見えた……ついに見えたぞ。創世樹が…………我が悲願の成就する時が――――ッ!!」





 ――これまで滅多に感情を顕にすることは無かったヴォルフガングだったが、とうとう最終目標へと辿り着き、陣形の最後尾の巨大戦艦である皇帝の宮殿から、なれど押し殺したように叫んだ。





 ――アルスリアの『苗床』での祈りで霧の中から姿を現した創世樹。それはまさしく世界を支える世界樹と言うに相応しい威容だった。





 一体どういう仕組みでその姿を隠していたのか、未だに皆目見当もつかないのだが……大樹は巨大で鋭い根を平野の端々まで長く深く張り敷き、その幹は直径にしても100kmは優に超えているように見える。木枝も葉も天上高く伸び、雲の上まで達している。そして、普通の巨大な樹木とは似ても似つかない不思議な質感と光を帯びていた。





「――レーダー類を働かせろ。暫定的な試算で構わん。創世樹の内部のエネルギー値は幾らか?」






「はっ!! お待ちを…………試算値、電力換算にしておよそ6390万kw!!」






「――なんだ、そんなものか……ふむ…………どうやらまだあの大樹はエネルギーをフル稼働の状態には程遠いようだな。限界値まで引き出せば……我がガラテアの発電所に相応しいだけのエネルギーを得られるはずだ……」






 ――現代の現実世界の日本の1年間の総発電量が凡そ640億kw。今の創世樹の状態では超大国ガラテアのエネルギーを平らげるには程遠い…………が、それも創世樹の状態が休眠状態レストモードの話。いざ生命の刷新進化アップデートほどの世界規模の活動が起きたら、一体どれほどのエネルギーが生まれるのであろうか。





「――おおお、ぉぉぉぉお……何と巨大な樹じゃ……何と肥沃な大地じゃ…………やはり、この地は我が崇高なるガラテアの第2帝国を築き上げるのに相応しいッ!! ……ふうーっ……ふうーっ……」






 ――玉座に座する皇帝は創世樹の威容を見ただけで激昂し、立ち上がって大声を上げるが……すぐに血圧系統に無理が来てふらりと玉座に座り直し、息を弾ませる。





「――陛下。気をお鎮めくださりませ。まだ見付けたばかりでございます。これから。これから我が軍の調査によって、真に肥沃な新天地とするか決めるのです。気長に優雅にお待ちくださいませ。」







「――ふうーっ……う、うむ……」






 ――ヴォルフガングは、『やれやれ、耄碌老人が真上にいると鬱陶しくて仕方がない』と言った風情で眉間に手を当て、苛立ちを抑えた。






「――――さて……予想通り……来たようだな――――元要塞都市・アストラガーロ国主にして、現・古代戦艦艦長・ゴッシュ=カヤブレー。そして冒険者エリー一行よ――――」






 ――ヴォルフガングが言うが早いか、創世樹を眼前に見据えた決戦の地に、フォルテも到着した。






 ガラテア軍にすれば後はアルスリアとグロウを創世樹の内部へ向かわせて全てが完遂するのだが、当然エリー一行は抗う。それを見越していたヴォルフガングも全軍に指令を出す。





「――――全軍、創世樹を防衛する為に出撃せよ!! 敵はただの冒険者風情やアストラガーロの残党などではない……我が崇高なるガラテアの忌むべき負債である『鬼』遺伝子混合ユニットが相手なのだ。全軍、一切の油断を捨てて彼の者たちを撃滅せよッ!!」






 ――俄かに、ガラテア軍の全戦艦から、夥しい数の戦闘機が飛び出して来た。地上からも巨大な戦車、そして無数のガラテア兵士が雄叫びを上げて戦艦フォルテへと向かってくる――――






「――ここまで来たのだ。皆……もう覚悟は決まっているな? 圧倒的に分の悪い戦いだが――――いつもかつての要塞都市・アストラガーロで積み重ねて来た我々の闘争における意識が今こそ身を結ぶと信じ――――生命を懸けて戦うのだ!! このゴッシュ=カヤブレーもこの地に屍を埋める。血路を開き、ガラテアを……種子の女を止めろッ!!」






 ――――ゴッシュが号し、本来はガラテア軍との禍根など関係のない者も多かったが……戦艦フォルテに乗り合わせた乗組員と、冒険者たちは皆、ガラテア全軍と鉄火を交える覚悟を決めた。敵軍同様、皆雄叫びを上げて飛び出していく。






「――あたしたちも行くよ、ガイ。奴らの好きには絶対させない。」




「――おうよ。行くぜおめえら――」





「――もし……本ッ当~にヤバくなったら――――ガイ。あたしら、いっちばん最初に冒険出た時決めたわよね? 『あれ』で行く。」





「――!! ……エリー。おめえ――――」





 ――自らの両の拳を胸元で突き合わせて、練気チャクラを集中するエリー。その双眸には一切の迷いがない。






 その迷いなき瞳を感じ取れないほど、ガイもまた情に溺れてはいなかった。






「……恐らく、俺たちが行なう最もヤベえ戦いだ…………それもやむなしだな――――糞がっ。俺ぁやっぱり、こんな残酷な運命を用意する神や仏が死ぬほど大ッ嫌いだぜ――――」






 ――ガイが舌打ちをしながらも、フォルテのハッチから先陣を切って飛び出して行く。テイテツも、セリーナも、イロハも同様に――――そして無論エリーも。






 穏やかだった幻霧大陸の平野は鉄風雷火てっぷうらいかの飛び交う死地と化した――――最終闘争が幕を開けた。

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