第167話 王の玉声
「――むっ!! この動きは――――」
――中央庁舎を制圧するように号したばかりのリオンハルトだったが、俄かに中央庁舎から地響きが起こり、激しく土煙が上がる――――見る間に、中央庁舎は倒壊してしまった。
「――これは……君の部下たちが砲撃の火力を間違えて中央庁舎を破壊し尽くした――――というわけではなさそうだね。とすると……どうやら先を越されたか――――」
アルスリアは平生通りの貼り付いたアルカイックスマイルだったが、目論みが外れて苦い思いをしていたのはリオンハルトもアルスリアも同様であった。
「――このレーダー類の反応……そうか、あれが――――」
「――『戦艦』。幻霧大陸から来たりし始祖民族の方舟だね。あれから私とグロウと同じ気配を感じる――――」
――激しい土煙を巻き上げながら、『戦艦』……名を『フォルテ』と名付けられた巨大な
「――――!! 艦首、左前方へ回避ッ!!」
――リオンハルトが目の前の戦艦フォルテから殺気を感じると同時に回避指示を出した。操舵手も即座に応じて舵を切ったが――――
「――ぐうっ……右舷ハッチに被弾しました!! 被害は軽微ですが、姿勢制御まで少し時間がかかります!!」
――リオンハルトの指揮する戦艦が被弾した。
リオンハルトが殺気を感じたと同時に、フォルテの砲門から紫がかった光が放たれたのだ。恐らく副砲。エネルギー波を撃って牽制して来た。
「――リオンハルト。君の戦艦に傷を付けるなんて……どうやら敵はあの戦艦を動かしたばかりだと言うのに、まるで何十年も乗り続けて修羅場を潜って来たような乗組員が沢山いるみたいだね――――油断したよ。ギルド連盟の総本部を擁する国主・ゴッシュ=カヤブレー…………いつ飛び立つともわからない戦艦の動かし方をよく訓練している――――」
――アルスリアがそう冷静に分析すると同時に、今度はフォルテの機体全体から対空砲火の弾幕が張られた。簡単には兵を寄せ付けない。
「――――くっ……戦闘機部隊、地上戦車部隊!! あの戦艦へ砲撃!! 逃がすな!!」
――リオンハルトは傾いた戦艦のブリッジで体勢を崩しながらも、強い語気で機動部隊への攻撃を命じた。
リオンハルトの命令通り、火力も機動力も高い戦闘機と地上戦車が一斉に砲撃する。ミサイルと戦車砲の嵐がフォルテを襲う――――
「――――!? これは――――」
しかし、砲撃はことごとく、フォルテの機体に触れる前に何か力場のようなものに弾かれて、遠くで爆発するだけだった。
「――――バリア……の一種か。我々ガラテア軍旗艦が装備している電磁フィールドともまた違う構造のようだね…………ガラテア軍が戦艦へのバリアを張る技術を開発したのもここ数十年のはずなのに、あの古代の戦艦はそんな太古の昔から高等な技術を持っていたのか――――」
――フォルテは機体全体から、幾何学模様とも民族的な装飾とも似つかぬ独特の文様のバリアを浮き上がらせながら、海の方へ向けて急速に旋回する。
「――くそっ! ここで逃がすと――――」
「――――今は放っておけ。リオンハルト准将。アルスリア中将補佐。」
「! ――お父様。」
リオンハルトが焦りに満ちた追撃命令を出しかけたところで、2人の旗艦2機の遙か後方から……ヴォルフガングが指揮するさらなる巨大戦艦からの通信が聴こえて来た。
「――――冷静に判断せよ。ここであの戦艦を撃墜してしまうと、『養分の男』を決定的に損なうかもしれん。むしろ、『養分の男』の意志通りならば幻霧大陸へは確実に至るのだ。アルスリアのマーキングも機能している。再び泳がせ、我々も幻霧大陸へと突入した際の行動の指針とするのだ。」
「――幻霧大陸への突入……正式に決められたのか…………」
「――と、言うことは……そちらの艦にいらっしゃるのは――――」
「――左様だ。全員、その場で傾聴し、平伏せよ――――第100代ガラテア帝国・ジル=ラキスタン=ガラテア皇帝陛下の御前である――――。」
「皇帝……」
「陛下――」
――――この場で戦う兵たち……もちろん指揮官たるリオンハルトとアルスリアも皆、戦闘を中止し一様に巨大戦艦に跪いてかしずく姿勢を取り、沈黙した。
――皇帝が乗っている巨大戦艦。その威容はもはや戦艦のそれではなく、荘厳たる宮殿であった。黄金や絵付け、螺鈿細工、蒔絵細工のような華美な装飾が施され、あらゆる贅が尽くされ施設設備も有り余るほどに備え付けられている内装は、まさしく空飛ぶ宮殿そのものだ。当然、サイズも他の旗艦とは比べ物にならぬほど大きい。
オープンチャンネルで、この宙域の全兵士の端末に、皇帝の御尊顔が映し出され、喋り出す。
「――ファッファッファ……勇猛なる我がガラテアの兵たちよ。日々の戦いぶり、真に大儀である。」
――皇帝は、フォルテを逃がしたとはいえ、苛烈な戦闘が行われたばかりの要塞都市・アストラガーロの戦場に似合わぬ何とも呑気な口調で、かつ厳めしく語る。
「――余は機が熟したと思い、遂に決めたのだ…………幻霧大陸への進出。我がガラテアのさらなる繁栄と栄華を極める為の新天地へと向かうことを…………ささ。全軍、一旦戦闘をやめ、各々の艦へと帰還するのだ――――」
――皇帝の玉声。ガラテア軍は全軍、速やかに戦艦へと戻っていった。
「――――ガラテア皇帝。このガラテアの原動力にして――歪みの源か――――。」
――アルスリアは誰にも聴こえぬよう小声で、そう呟いた――――
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