第152話 湯あたりします!!・後編

「……? ――おわっ!?」





 ガイは、女湯方面から気配を感じた刹那、水柱を上げて自分の隣に飛び出してくるエリーに組み付かれ、悲鳴を上げた。




「――へへ~ん♪ つっかまぁえた~……♡」





「――お、おいエリー、コラ…………いくら混浴だからって、そんな絡み付いて来るんじゃあねえよ……! 周り……周り見てんじゃあねえか…………!!」





「――ぬっふっふっふ~。見せ付けてやればあ、いいのよぉ~ん♡ だってガイはあたしの物だもぉ~ん♪ へへへー♪」





 ――いつもはボサボサのごわついたピンク色の髪のエリーだが、後ろ髪を解いて湯に濡れていると……引き締まった肢体も相まって、何とも言えない色香が出ているのだった。ここぞとばかりに撫でつけて甘える。






「――や、やめろって……相手なら後……部屋に戻ってからするから――――」





「ぶー。やだもぉーん。だってさだってさあー……普段旅してる時さー……あたしが『化粧したい』『綺麗になりたい』っつってもさ。ぜんっぜん無関心なんだもん。ガイ。いつもいつもさー。ロマンティックな言葉ひとつ言ってんくんないもん。20歳の女のあたし相手に? 許されると思うー? 許せないよね~!!」





「――わ、悪かったよ。わかったから、向こうの女湯へもど――――」





「――ふっふっふ~っ……どれ、今晩の『これ』はお元気かな~っと――――」





「――うおいッ!! エリー、てめえマジでやめろ! やめろオ!! この色ボケ女がアアアア…………」





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「――うおおおおおオオオオオォォォォォ…………エリーさん……ガイさんとそんなあられもない御姿まで見せてくださるとは――――御馳走様っス。超御馳走様っス…………」





「……何をやってるんだ、あいつは…………男所帯で女にずけずけ煽ってくる奴は昔いたが、エリーはまるで逆だなぁ……下手な助平男より酷いぞ…………」





「――あっ。イロハ。何見てんの?」





「――のわっ!? ぐ、グロウくんも来たッスか……さすがにあのエリーさんとガイさんをグロウくんに見せるのは…………」






 ――それこそ助平根性で見入っていたイロハだったが、純真無垢なグロウが近付いてきて多少は配慮を巡らせた。こっそりエリーとガイのあられもない姿が見えぬように角度を付ける。





「グロウ、お前も女湯へ越境して来たのか……まあ、お前はまだ子供だし、いやらしい目で見たりしないからいいか……」





 好奇心に駆られてか男湯から越境してきたグロウだが、ただの少年以上に、女性以上に見目麗しい容姿の彼。女湯へ来ても周囲の客はまるで拒絶反応を示さなかった。




「――ふぅ~む…………むぅ~んんんん~…………。」





 イロハは顎に手を当てて、グロウの湯に濡れた肢体をじろじろと眺める。





「……な、何? 僕、何かおかしい?」





「――――娯楽都市・シャンバリアの街で踊り子やってもらった時もひしひしと感じたっスけど…………やっぱりいっちばん美しくて艶っぽくて綺麗なの、グロウくんっスよ。エリーさんでもセリーナさんでもなくって。断トツでエロいっス――――」





 ――イロハが鑑みる通り、艶やかな白い肌や髪。湯で紅潮した顔。すべすべの美しい肢体に纏わりつく湯の粒。潤んだグリーンの瞳…………グロウはその辺りの美女や美少女よりも、よほど美しかった。遠巻きに眺める男も女も、その目と心を奪われ、ただただ見つめているようだ…………。





「――――これは……何としても貞操を守り抜かなきゃなんないっスね――――野郎共女郎共の皆々様ぁ!! この宝石に手を付けるんじゃあないっスよ!?」




 ――イロハの怒号に、見惚れていた者たちが我に返り慌てて目を逸らしていった。





「?????」





「――この子は……この宝石くんは、自分が誰よりも美しくエロいと気付いていない、最も危険な美少年っスね――――いや、自覚している方がドス黒く危険な魔性の美少年っスねえ…………よく今まで貞操が無事だったもんっス……シャンバリアの街でも、それより前に通ったって聞いたエンデュラ鉱山都市でも――――」





 ――――イロハは改めて、よくぞこの目の前の宝石のような少年が傷物にされなかったものだ、と心からしみじみと安堵した。ある意味エリー以上に、この美少年を守ってあげたい気持ちすら湧いてきていたのだった。





「――――ふむ。そうですか。これらの植物を煎じて固め、入浴剤に出来る、と……大変勉強になりました。後で土産物店で大元の入浴剤も買わせていただきますね……」





 ――一方、テイテツは少し近くで大変なことになっているエリーとガイにも、越境して周囲の客を魅了してしまっているグロウにも目はくれず、ひたすら従業員にこの温泉を再現する為の成分と調合法を確認しているのだった――――





「――――何だこりゃ。ふっ……まあ…………これはこれで楽しい仲間だな――――合流出来て本当に良かった――――」





 ――阿鼻叫喚の中、セリーナは静かに微笑んだ――――

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