第151話 湯あたりします!!・中編

 ――開放的な気分の中、露天風呂ではしゃぐエリーとイロハ。セリーナが苦々しく見ていると、従業員の女性が風呂の中の仕切りを外した。




「――はーい。仕切り外しますよー。今から混浴でーす。男湯にも行きたい方はどうぞー。」





「――ニャッ!? 遂に!? 遂に混浴なのね!? やったあああーっ!! ガイ~っ♡」





 エリーはそう叫ぶと、湯の底に沈んでいって、そのまま女湯から消えた。湯の中を潜っているようだ……。





「――にっひっひっひ~っ。いよいよ混浴温泉でのくんずほぐれつが拝めるんスかねえ――――って、ああーッ!?」




 イロハが突然、ひと際大声で叫ぶ。突然の大音量に、知覚鋭敏化を使わなくても驚き竦み上がってしまうセリーナ。




「――何だ、いきなり。大体お前ら騒ぎ過ぎだぞ。湯に浸かってリラックスするくらい、もう少し落ち着いてだな――」




 ――イロハは、なおヒヒ爺のような創面でセリーナににじり寄っていく。




「――いつもの冒険だと胸当てや着痩せで気付きにくかったっスけど……セリーナさん。エリーさんよりさらにめっちゃご立派なお胸をお持ちじゃあないっスかああ~っ……げっへっへっへ。是非ぜひ触らせて――――」





「――――それ以上近寄るな。私の肌に一瞬でも触れれば、その瞬間、私は、お前を、コロス――――」





「――――ひいッ!? さ、サーセンしたッス……」





 ――女性同性愛者レズビアンとはいえ、女性なら誰にでも自らの肢体に触れさせるわけでは当然ない。いやらしく近寄るイロハに対し、湯の中とはいえ拳法の構えを取り、練気チャクラを集中し始めた――――これは本気だ。思わぬ鋭い殺気に、さすがのイロハも身を引く。






「――しっかし……」




「――何だ?」





 セリーナの牽制で少し落ち着いたイロハは、劣情ではない目で、セリーナの引き締まった肢体を眺める。どこか沈痛な面持ちで。





「――闘技場で合流した時から違和感あったっスけど……やっぱり、身体弄くってるっスよね……? セリーナさん。ガラテア軍に改造でもされたんスか――――?」





「――むっ……」





 イロハは、セリーナの身体の異変に気付いていた。





 セリーナが構えを解くと……うっすらとカモフラージュされていたセリーナの左半身が見えて来た――――所々、機械化されている。サイボーグだ――――





「――やはり、バレていたか……奴らにこの身体を蹂躙されたなど、出来れば誰にも悟られたくなかったのだがな…………」




「……光学的な技術で隠してるっスけど……やっぱ所々身体の動きがぎこちないし、たまにモーター音っぽい音も聞こえてたっス。それ……大丈夫なんスか…………?」





 ――セリーナは機械化された半身を自らの指でなぞりながら、話し出す。





「――――あの軍人……アルスリアと言ったか。奴に転移玉テレポボールを投げつけられた後、私は運の無いことに、ガラテア軍が駐留するすぐ近くに飛ばされてしまった。リオンハルトとかいう軍人と、アルスリアに見付かり……私を戦力に加えようと改造手術を受けてしまったんだ――――」





「――セリーナさん。」





 ――思わぬ辱めを、離れ離れになっている間に受けていたセリーナ。しかしセリーナは冷静に続ける。





「――だが安心しろ。奴らが私の頭を弄くって洗脳する前に、私は逃げ出してやった。それも、この機械化された箇所だけでなく、練気までより強化された状態でな――――ガラテアの鳥頭共め。みすみす敵を強くして逃がすなど、ざまは無い。」





「……でも、そんな身体、ミラさんが見たら――――」





「わかっている。ミラのことだ。酷く悲しませてしまうだろう…………だから普段は光学迷彩で隠しているし、ミラのもとへ帰るまでには何とか見れる身体を取り戻して見せるさ。」





「………………」





 ――純粋な己の肉体の何割かを失い、機械化されてしまったというのに…………セリーナは意外と落ち着いていた。やはり、身体が変わってしまったとはいえ強力な力を得たから納得しているのか…………あるいは肉体が異形と化してしまうことは心さえ人のままなら問題ないという認識なのか。






「――きっと再生医療や生体科学の分野で元の人間らしい姿に戻れるはずっス。その時はテイテツさんと……ウチも協力するっスからね。」




「――ああ。そうだな。その時が来れば、頼む。」




 イロハの気遣いに、セリーナは再び光学迷彩で機械部分を隠しつつ、どこか恭しい態度と心持ちで応えた。




「――さあーって!! あっちの湯はどうなってるッスかねえ!? ぬふ♪ ぬふふふふ…………」





「――おい。いくら混浴だからって、いたずらしに行くなよ!」





「だ―いじょうぶっス!! ウチ、推しカプの傍に自分は要らないタイプの人間なんで!! 少し遠くから眺めるだけっスよ~……ぐへへへへへ……」





「……おしかぷ……?」





 ――聴き慣れないオタク言葉に、セリーナは頭を傾げるだけだった。

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