第127話 呵呵大笑
――――ニルヴァ市国にて強制離散の憂き目に遭い、一時絶望感に囚われてすらいたエリー一行だが、遂に研究所に囚われの身であったエリーとグロウを救出することに成功した。今は可能な限りガラテア軍から離れる為、ガンバに乗り全速力で荒野を駆けている。
「――テイテツ! 本当にこのルートで逃げれば、追手を掻い潜れんのか!?」
運転席から急ハンドル、アクセルを繰り返しながら興奮してガイはテイテツに尋ねる。
「――大丈夫です。事前に陽動によって将官クラスを含め、兵力の大半をあの研究所から遠ざけていたのが効いた。予定よりもかなり速く実行出来た電撃作戦によるフットワークの軽さも功を奏しています。そこのナビに転送したルートで逃げれば充分に撒けます。」
「――――やった…………はは、やったぜ!! 畜生ッ!! 夢じゃあねえんだな…………本当にエリー、おめえと、グロウを俺たちは助け出せたんだよな――――!!」
「――――ホントホント!! また会えたのね…………夢なんかじゃあないわ!! ヤーハハハハハッ!!」
――離れていて、共に絶望していたガイとエリー。仲間の協力もあって大切な恋人と弟分を救い出せたことに沸き立つ心を抑えきれない。喜び、興奮し、ガイは手元をバンバン、とはたき、エリーはガイに抱きつく。運転がさらに荒れてガンバが揺れ、全員あちこちぶつけたが、それでも皆救出作戦の成功を経て笑顔だった。
「――いたたたた……ちょーっと、ちょっと! エリーさんにガイさん!! 喜ぶのは解るっスけど、運転はしっかりしてくださいッス!! にははは! 頭、たん瘤出来たァ!!」
グロウは内心はやはりアルスリアから伝えられた世界の真実に依然として揺れていたのだが…………喜び勇む一行の空気を悪くしまいと気を遣い、せめて安全地帯に留まるまでは心の裡に秘めているのだった。
「――へへへへ…………もう絶対離さねえぜ、エリー。おめえが遠くへ行っちまって…………俺は自分の脆さに打ちのめされたよ……」
「――ガイ~…………そりゃあこっちの台詞だってば…………奴らの研究所の、ゴッツい独房に入れられてさ。食事はもちろん、トイレも碌に行かせてもらえなかったのよ~!? 信じられる~!? あたし、未だに信じらんない!! あはははは!!」
「――ぬへへへへっへっへえ~。この調子だと、安全地帯に着いたら当分2人でイチャコラしてるに違いないっスね~。あれまあれまあ、命からがら逃げてきたのに、当分熱く激しい夜が続きそうで。にっひっひっひっひ。」
「――ばっ……余計な事言うんじゃあねえよ、イロハ!!」
「えへへへへえ~……いいじゃん、いいじゃん!! 無礼講~。会うの、ニルヴァ市国以来なんだもん……どんだけ離れてた? 1ヶ月以上!? 20代のカップルにあるまじき期間よそれえ!! あたしはいつでもMAXスタンバイ状態よん。その気になったらいつでも来てね、ガイ~…………♡」
「うむむむむむぅ…………!」
「あはははははは!!」
「へへへへへへ……」
「にはははははは!!」
――――敵から逃げる最中とは言え、喜びのあまり羽目を外したエリー、ガイ、イロハはそうして一頻りじゃれつき、青空の下を豪笑しながらガンバで走り続けるのだった――――
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――やがて、ガラテア軍の追手を完全に撒き、一時安全地帯までエリーたちは至った。砂埃の吹きすさぶ荒野の真ん中だが、木が囲んであるオアシスで休むことになった。
車の中で目いっぱいはしゃいだエリーたち。少しは落ち着いたようだ。
「――あー……おっかし~……痛快ってこういうこと言うのかしらね~…………未だに夢の中にいるみたいよ…………」
「――夢じゃあねエ…………だろ?」
――小さな湖を望みながら、若き恋人同士は改めてハグし合い、お互いの再会を喜び口付けを交わした。
「――えへへ……」
「――ははは……」
――――これまで数多の災難や修羅場を潜りぬけてきた2人だったが、今回ばかりは堪えただろう。10年前の悲劇以来、あらゆる艱難辛苦を経ても2人が離れ離れになったことなど1度も無かったのだ。
こうして時と距離を経て再会したこと。そして離れ離れになってしまったことで、重ね重ねエリーとガイはお互いに離れていては生きられないソウルメイトであると痛感した。
「――――にっひっひっひっひ~。やっぱ若いカップル同士の逢瀬って素敵っスねえ~……しかも荒野の中にこんな湖の絶景ポイントと来たッス。最高のロケーションじゃあないっスかあ……」
――やや意地が悪い態度ながら、再会したエリーとガイを改めて祝福するイロハ。
「――い、イロハ…………その……奴らからなんか情報は掴めたのか……?」
「バッチリっスよお~!! 連中の資料室に忍び込んで、紙の書類はもちろん、軍事機密も含んだデータまで盗み取ってやったっス!! これからひとまずテイテツさんと今後について相談、進めとくっス!!」
イロハは、懐から軍事機密の書類の束と、外部記憶装置などをしこたま取り出して見せた。この様子ならガラテア軍の動向はかなり解りそうである。
「――イロハちゃ~ん……そのぉ……わ、悪いんだけどお……」
「――わーかってるッス!! もうお腹いっぱいになるくらいにね! ってか、エリーさんもう声が悦んでるじゃあないっスか!! ふひひ。はいこれ。一先ず今晩の夕食と寝床は別ってことで! 気の済むまでイチャイチャしてきてっス~!!」
イロハは、2人が再会した時の為にわざわざインスタント・ポータブル・コテージを用意していた。食料と共にガイに渡す。そして、渡すなりイロハは少し離れた木の下のテントの前へ去っていった。気が利くと言えばいいのか、下世話と言えばいいのか……。
「――ふーっ……さて……目いっぱい働いたら腹が減ったっスねえ……こりゃあ、今後の相談の前に飯っスね! よっしゃ! 今夜はお祝いのステーキっス……あれ、グロウくん?」
「――あっ、うん…………お祝い、だよね。ステーキかあ……」
グロウは、折り畳み式椅子に腰掛け、俯いていた。
「――その様子だと、『けっ、自分だって攫われたのにエリーお姉ちゃんとガイだけ何さ!!』…………って訳じゃあないみたいっスね…………何があったんス? やっぱ、連中に何かされたんスか…………?」
さっきまで興奮してばかりのイロハだったが、目の前のグロウの心中を察して、どうも喜んでばかりではいられないようだ、と心配そうに尋ねる。
「……うん…………ステーキ……ステーキ食べたら、話すよ…………。」
――エリーとガイを外しての食事と今後の展望。今はセリーナが不在のままだが、かつてのエンデュラ鉱山都市から逃げてきた時を思い出す情景。ひとまずグロウとイロハ、テイテツは食事の準備を始めた。少なくとも、今は若き恋人の再会を祝し、心ゆくまで睦み合ってもらう魂の休息を与える3人だった――――
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