第96話 3ヶ月の修行の成果

「――――よよよっ、こうしてこの溶液を組み合わせて…………っと。よっしゃ!! まーた業物が出来ちまったっスーっ!! ぬはははははは!!」





 ――ニルヴァ市国に修行に来てとうとう3ヶ月が過ぎた。





 またひとつ、炉から取り出した『業物』とやらを掲げ、豪快に笑うイロハ。






 彼女もまた練気チャクラの修行こそそれほどやらなかったまでも、この国に来てあらゆる職人や商人と商談を進め、図書館からは書物を読み漁り、鍛冶錬金に必要なあらゆる道具や素材を揃えた。






 大いに得るものはあり、彼女なりの修行に打ち込めて満悦の様子だった。






「――さて……と。おっ? もうこの国に来て3ヶ月にもなるっスか…………一生懸命やってると、時間が過ぎるのもあっという間っスねえ。今日は皆さんどんな様子っスかねえ――」







 携帯端末の日時を見遣ると、時が経つ早さに感慨深く思いながらも、イロハはエリーたちの修行場へと足を向けた。







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「――おお~っ!! やってるやってる! たった3ヶ月の修行で、人って成長出来るモンなんスねえ~…………」







「――せいッ! はあッ!」





「――ふんっ! おりゃあっ!!」






 ――一方では、エリーとガイが組手をしていた。






 3ヶ月もの練気の修行を続けたエリーは当然のこと、ガイもイロハの目から見てもハッキリと練気のエネルギーが力強く立ち昇るのが解った。







 ガイは、二刀流とは言え剣術がメインの戦い方では接近戦に偏りがちだったが、練気を込めて刀の斬圧を、より鋭く、より遠くへ飛ばせるようになり、ある程度遠距離からの攻撃手段を拡充させていた。






「――ふっ! 隙ありッ!!」






 ――だが、もはやガイやセリーナにとっては相手にならぬほどの練気による武芸者へと成長してしまったエリー。必要最低限の練気の出力だけで軽々と斬圧を躱し、一瞬で間合いを詰めて、ガイのこめかみに豪拳を振るう――――






「――守護の壁よ!! せいっ!!」






 ――だが、二刀を交差させたままガイは練気を瞬時に集中し、エネルギーの壁でエリーの拳を弾いた――――カシム直伝の練気の技だ。






「――へっへー! やるじゃん、やるじゃん、ガイ~っ!! あたし、出力抑えめっつっても以前から見ると90%は力出してるよー!? 見違えたわあ。惚れ直しちゃう~♡」






「――っはっ! 御託はいいぜ、もっと攻めて来やがれ、エリー!!」






「はいよォ!! ギアをひとつ上げっからね――!!」






 エリーは、さらに練気の開放度を上げた。赤く強靭な練気のエネルギーは熱を持って立ち昇り、全身からバチバチッと電気がスパークしたような小爆発の光を帯びている。






「――せりゃッ!!」

「――うおっ……!!」







 ――――常人の目にはもはや映りさえしないほどの速さでガイとの距離をゼロに……そのまま鋭い手刀を肩に浴びせた!







「――あっ……ありゃ…………ちょっとやり過ぎちった……ごめーん……」






 手刀の当たり所が悪かったようだ。ガイは肩関節をやられたのか、左肩をだらりと下げ、刀も落ちる――――






「――いっててて…………舐めんなよ。我は癒し手…………瞬速の慈悲の光を持って我がかいなを癒さん――――」






 痛みに顔を歪めるガイだったが、瞬時にまたも練気を集中し、以前とは比べ物にならぬ速さと効能で回復法術ヒーリングを念じ、肩の怪我を癒した。落ちた刀もすぐに拾う。






「――へへーっ! そう来なくっちゃ!!」






 そのまま、2人は組手を続ける。







 イロハがまた一方を見遣ると、こちらではグロウとセリーナが組手をしていた。こちらは武器を持たず、格闘術の一派『躰道たいどう』に似た体捌きの練習だった。






「――いいか、グロウ。基本は何度でも言うぞ。お前は筋力はそこまで無いが身が軽い。運動センスもある。自分の身体の動きを徹底的にイメージして動くんだ。型にはまらないこの格闘術は身体の捌き方さえ会得すれば、体格差があっても対等以上に戦える。身体の転身、捻り、骨盤や関節の流動的な使い方、バネの弾ませ方……全て反復練習とイメージで覚えるんだ。」





「――はいっ!!」






 グロウもまた膨大な練気のコントロールなどは申し分ない。セリーナもガイ同様、練気をかなり使えるようになった辺りで、お互いに不足している技を教え合うようにしていた。






 セリーナの格闘を手本にし、自在に身体を弾ませ、転じ、柔軟に、アクロバティックに動けるようになってきていた。道場拳法に留まらない、三次元的なキレのある動きだ。







「――よし! 大体身体が覚えるようになってきたな。やはりグロウ。お前は素晴らしい逸材だ…………道場時代の私よりも軽やかに動けるようになってきている。基礎体力ももう少しだな。自分の身体の動きは、携帯端末のカメラ機能を通じて撮っているから、客観的によく確認しておけよ。」







「――休憩にする?」






「いや。今度は私が練気を練るのを見ててくれ。エネルギーの流れが乱れたら、例によって額に練気の当身を突いてリセットを頼む。」







「わかった!」







 セリーナは、スポーツドリンクを二口ほど飲んで額の汗を拭うと、自然体で立って瞼を閉じ、練気の集中を始めた。







「――セリーナ。ちょっと練気の出力が急激過ぎるよ。もうちょっとゆっくり、繊細にね。」






「む。そうか……気を付ける。」






 ――練気のコントロールにおいてはセリーナを上回るグロウ。今度は逆にセリーナの気の流れをサポートする。







 徐々に練気の出力を高め、セリーナは手元にエネルギーを集中させた。練気の塊で創り出そうとする『それ』は――――






「――ふうううう…………はっ!!」







 一瞬、手元が光った。






 現れたのは――――

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