第43話 ひとまずの帰還
――ごおおおおおおおおんんんんん…………。
巨大な重金属と思われるハンマーでエリーの頭を殴打し、鐘のような音が鳴り響く――――
「――ううっ!!」
エリーは吹っ飛ばされ、地に片膝をつき、頭を抱える。
「――ムムッ!? 今の脳天への一発で気を失わないどころか、怪我すらしてないっス! こりゃあ、まともに鎮めるのは無理っスね――――そこの子! どうにかならないんスか!?」
イロハはハンマーを構えながら、背後のグロウに尋ねる。
「――はあっ……はあっ……だ、誰…………君は…………!?」
息を弾ませながら、グロウは聞き返す。
「んなのは後っス、後、後!! 半裸の美少年くん、どうすれば、あの姉さん止められるっスか!?」
自分の素性よりも、まずはこの場を収めること。改めてイロハは訊く。
「……ぼ、僕が力を使って、落ち着かせれば、何とか――――」
「わかったっス!! ここまで連れてくりゃ良いっスね!!」
グロウの疑念混じりの回答を聴き終わるか終わらないか、すぐに飛び出し、エリーの前で――――再び振りかぶった!!
「一発で鎮まらないなら――――何発も脳天狙うだけっス!! おりゃっ!! どりゃっ!! うりゃあーッ!!」
――何という短絡的かつ豪快な思考だろう。
イロハはハンマーを背に振りかぶり、幾度もエリーの脳天をぶん殴った!!
ごおんっ、ごおんっ、ごおんっ…………と、打つ度に豪快な音が鳴る。
「――う…………」
さすがのエリーも、ライネスとの戦いで疲弊し切っていた上に負担がかかっていた頭部へ何度も巨大なハンマーでぶん殴られては……少なくとも数十秒は気を失った。そのままうつ伏せに倒れる。
「――よっしゃ! 今のうちに治すっス!!」
イロハは一旦ハンマーを背負いなおした後、エリーを引き摺って、迅速にグロウのもとへ運んできた。
土煙を上げ、ずるずる……と何とも情けない風情だ。
「――さあ! 次また襲ってくるかわかんないっス!! 君の力とやらでこの姉ちゃんを鎮めるっス!!」
「へ……う、うん――――」
グロウは、目の前の少女のハチャメチャさに呆気に取られかけたが、放念している場合でもないことを思い出し、すぐにエリーの頭に手を当て、強く念じる。
(――おさまれ…………『鬼』の力よ、おさまれ…………いつものエリーお姉ちゃんに戻って――――!!)
「――う……ううん……」
グロウの力からなる光で、ようやくエリーは赤黒い
「――や……やった…………今度、こそ…………何とか、助けられ、た――――」
グロウは安堵したのに加え、過酷な戦いの疲労。そして力を使い果たしたのか……そのまま倒れ、気を失った。
「――お、おいっ!! どしたっスか!? しっかりするっス!!」
イロハがグロウを抱きかかえ、揺さぶってみるが、グロウは起きない。完全に気絶している。
遠くから、親父が駆け寄ってくる。
「――気ぃ、失ったか。ここに来る途中にも何人か倒れてたぞ。街の連中の話だと、ガラテア軍人を除きゃあ、5人組……あと3人か。仕方ねえ。あと3人捜して、担いで街へ戻っぞ!!」
「了解っス!!」
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その後、イロハと親父は森で倒れているガイ、セリーナ、テイテツを見つけ、持てる薬などで手当てをしつつ、街へと担いで帰った。実にバイタル、メンタル共にタフな2人組である。
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――一方。
「――さっ、さっむううううッ!! ここ何処よ!! 雪山か何かア!?」
改子が喚く。明らかにセフィラの街の近くの森林地帯ではない、一面銀世界。豪雪地帯の山の中だ。
「むうん……俺の端末はぶっ壊しちまったからなあ……ライネス。おめえのを貸してくれ。現在地を確認する」
「――え? お、おお…………」
ライネスは未だ要領を得ない。殺気が完全に収まっている。
「――? どうしたんだ、ライネス? いつもなら獲物を逃がしちまった時は暴れるほど昂るか、ガッカリするかの2パターンだろい。なーんか、さっきから様子が変だよな」
バルザックが、訝る。
「――べ、別に何でもねーってよ! さっきから色んなこと起きたから……気が動転してるだけだィ……壮大なファンタジー映画でも観た直後みてえな、アレだよ。放心状態ってやつ! ――ホレ! 俺の端末! 今度は壊すなよ隊長!!」
「……おめえはいつも映画観てると退屈で寝ちまうタイプだろうが……さて、現在地は――――」
バルザックは不自然さを感じながらも、取り敢えずライネスから端末を受け取り、太い指で操作しながら何やら確認をする。
「――さささ、寒い! 寒すぎだっつーの!! 凍える前にブチ切れそう…………メラン! あんたも寒いでしょ!? くっついてあっためよーよ!!」
「あンっ……」
寒さのあまり人肌のぬくもりを求め、メランに抱きつく改子。
「――あーっ! あんた、やっぱあったかいなー!! 火に当たるより効くわー!! 好き好き好きぃ~っ❤」
先ほどまでの戦闘で高揚していることもあるせいか、悦びのあまりメランに頬ずりする改子。
「…………改子。」
メランは、一瞬呆気に取られたが、優しく改子を抱き返す。
「――みんな、無事で良かった…………本当に……誰も死ななくて、良かった――――」
「――あん?」
メランは、憂いを浮かべた面持ちで、改子を強く抱きしめる。改子は、いつもと違う反応のメランに怪訝そうに声を上げる。
「メラン……あんた何言ってんの? あたしら死ぬのなんか恐くないっしょ? むしろ喜んで死ににいってるようなもんじゃん。強い奴と闘ってぶっ殺したりぶっ殺されたり……」
「それは……そうなんだけどン…………あ、あら…………私、本当にどうしちゃったのかしらん?」
メランは、先ほどの戦闘で、いつもなら躊躇いなく突き立てたはずの刃――――グロウを殺せなかった自分を思い返し、自分自身の変化に戸惑うばかりだ。
「……メランよお……もしかして、おめえもか…………? なーんか妙に気が緩んじまって、いつもなら殺し合いでテンション上がりっぱのはずなのによお……」
ライネスもメランの異変に気付き、寒さも忘れてメラン同様戸惑っている様子だ。
「――!! そういえば…………私、あの子……グロウ、とかいう男の子に何か精神干渉みたいなのされたわン。こう、頭に手を当てられて、光が…………」
メランは、森の中でグロウを捕縛しようとした時のことを思い出した。
「頭に手を当てて、光が――――お、俺もそうだぜ! あいつに何かされて、そのまんまここに…………」
メランは、改子に頬ずりされつつも、顎に手を当て考えてみる。
「――まさか……私とライネス、戦士として不能にされちゃったのかしらン…………あの子の精神干渉で…………」
「……何だと!?」
――改造手術や薬物投与の影響で、常人を遙かに逸脱して昂り続けるはずの闘争心。
2人の脳から、そんな戦闘狂としてのアイデンティティー、核とも言えるものが、根こそぎ奪われてしまったのだろうか。
「――ん、んなことされたら……俺ら、何を楽しみに生きていけばいいんだあ!? お、俺ら、闘いだけが――――」
「……落ち着いてン、ライネス…………確かに、そうだとしたら致命的だけどン……だからって、人間の闘争本能そのものを根こそぎ奪うなんてこと……本当に出来るのかしらん。生物が根源的に持っているといっていい筈のものなのに――――」
「――異状を確認するのは、どーやら後回しになりそうだぞおん、メラン、ライネス」
「隊長……」
「なあに?」
2人が同時に聞き返す。
「本国からの帰還命令だ。俺たちの謹慎処分を速やかに解除するんだと。どうやら本国に部隊を集めて、何やら大規模な作戦が近いうちに敢行されるらしい。どんなルートでもいいから本国へ戻って来いとよ……」
バルザックは、端末の画面に映し出されているメールファイルを3人に見せる。
「――ちなみに、ここは現在地北緯55度22分以北の何処か。北極圏だ…………さて、どうやって10000㎞以上離れてる本国へ帰るかねエ……取り敢えず白熊でも狩りまくるか? まずはサバイバルからだな……はあ~あ…………」
「ほっきょくけんんんんんんーーーっ!? そりゃ寒いに決まってるわあああああああ!! ――あっ! ちょうどあそこに熊が……た、耐えらんない、狩ってくる!!」
イロハが投げた転移玉とやらは、ライネスたちの思っていた以上に遠くに放遂する力があったようだ。改子は遠くに見える熊らしき影を追い、バルザックはまたも鬱状態のスイッチが入ったのかぶつぶつと暗い独り言。
「……こりゃ、俺らの精神干渉がどうとか言ってる場合じゃあねえな。まずは本国まで帰らにゃ…………俺、あーそこは堅苦しくって嫌なんだがなあ~……はあ~っ……」
「……そうねン。本国の研究機関に頼めば、また闘争心やら何やら復活させてもらえるかもしれないし…………あまり深刻に考えずに、まずは帰る為の努力をしましょお。この件の報告はそれからよン」
「――おりゃああああ!! 熊アアアアアアッ!! 大人しくあたしらの糧となって死ねエエエエエエエーーッ!!」
氷雪が舞う中、熊を狩る改子の雄叫びが木霊していた―――――
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