第41話 転換
「――ムウウッ!? 何だァ、この馬鹿でかい
今にも、その体躯から繰り出す豪拳でガイにとどめを刺そうとしていたバルザックは、突如、森全体に響き渡る強風と爆音、そして練気特有の強烈な『圧』を感じ取り、空を睨んだ。
やや離れた空に、凄まじい光熱と爆音を放ちながら衝突し合うエリーとライネスの姿が見えた。
「お、オオオ……なんて力のぶつかり合いだあ…………やはり、あっちの姉ちゃんが『当たり』だったかアア!!」
そのままバルザックは瀕死のガイが掴む手を振り払い…………再び森の木々を粉砕しながらエリーとライネスのもとへと爆走し、去っていった――――
――窮地に遭ったガイだが、エリーへの強い執着心と愛の意志の力で、無意識のうちに
「――え、リー……エリー……どこ、だ…………いま、行く…………行く、から…………死ぬ……な…………死ぬな…………っ」
或いは生存本能のなせる業なのか。ガイの回復法術は、ライネスたちの練気による治癒に勝るとも劣らぬ速さと強さで、ダメージを回復させていく…………。
臓器、骨、筋肉。
意識が定まらぬ中、臨界まで高めた治癒効果で、ついにガイは死の淵から立ち直った。
――だが、それでもなお、身体は動かない。動いてくれない。しっかりとエリーを救うために身体を動かすには、まだ定まっていない意識では、エリーのもとへ駆けつけることはおろか、バルザックを追うことも叶わなかった。
「……ちく…………ちく、しょう――――」
何とか生還したとはいえ、ついに精魂尽きたガイは、そのまま意識を失った――――
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一方、敗れたセリーナにメスを入刀しようとしていたメランは――――
「――あらン。こ……これは…………!!」
少し離れた空で、やはり強風と爆音を巻き起こす鉄火場を見遣り、静かに、しかし殺気を高めて呟く。
「――ふっ……ウフフフフ❤ もっと凄いの、見つけちゃったわン…………❤ 悪いけど、貴女を肉彫刻するのは後のお楽しみねん。じゃあね~♪」
バルザック同様、メランも、より自分の闘争心を満たせそうな獲物を見つけ、メスもその場に捨てて飛び去ってしまった。
――命拾いをしたセリーナ。だが、光の衝撃によるショック症状は残ったまま…………わけもわからず、その場で混濁した意識のまま倒れ伏すだけだった。
「――え、リー……み、んな――――ミラ…………っ」
痙攣し、静かにのたうち回りながら、朧気に仲間と恋人の身を案じるのみ――――
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「――さあああっ!! もう少しで、そのすべすべの素肌をズタズタに――――えああッ!?」
そのまた一方。グロウの抵抗で右目を失い、血を滴らせながらもグロウを犯そうとする改子も、やはり森全体を覆う巨大な争気に驚き、空を見上げる。
「――はっ…………ははははははッ!! あっちの方が全っ然凄いじゃん……ッ!! ガキ、あんたを殺すのは後回しにしたげるわ!! 大人しくここで倒れてなァ!!」
「……お、お姉ちゃん――――なんてことを…………ッ!!」
グロウも凄まじい練気のぶつかり合いに、エリーの身を案じる。
「――あらン❤ 改子。お楽しみだったあ?」
と、そこへ……エリーとライネスのもとへ向かう途中のメランと出会う。
「ああ、メラン。いいトコに来たわね! ちょっとこのガキふんじばっててよぉ。あたしは先に行く!!」
「あっ、ちょっとおン!!」
改子は、闘いの直前の時も見せた猪武者さながらに逸り、メランとグロウを置いて先に行ってしまった。
「――んもう。いつだって先走っちゃうんだからン……でも…………君もなかなかカワイイわねん❤ やあ~ん❤ 服、ほとんど剥かれちゃってるじゃあないのおン❤」
「く…………」
グロウは、貞操は辛うじて保ちながらも、無残にひん剥かれた服と肢体を舐るように見られ、恥辱を感じる。
「そうねえ……あっ、この蔦でもロープ代わりに使いましょ――――大人しくしててねン♪ 今死ぬか、後で犯されて死ぬかの違いだけど…………❤」
メランはちょうど、先ほどの改子との戦いで急成長、活性化した蔦を手に取り、グロウに近付き、そのまま跨る――――
「――くうッ――――!!」
突然、蔦を持つ両手が塞がったメランの油断を突き、グロウは両手でメランの頭を掴んだ!!
「――な、何よこれ……何を――――」
「ふうううう…………っ!!」
俄かに、グロウの全身と、相貌から碧色の美しい光が放たれる――――!!
両手に意識を集中させる――――。
(――――お前たちは……生命を弄ばれて、他の生命を数珠繋ぎみたいに弄ぶ、愚かで醜い――――憐れな生命だ!! その歪み切った魂を癒してやる――――!!)
グロウの手を伝って、脳に直接精神干渉を受ける!!
「――な、何なのこれは…………一体何をされて……私は何を見ているの――――!?」
脳に力を使われ、数多の
――気が付くと、グロウは気を失い、そのまま仰向けに倒れ伏していた。
「――はっ。い、今のは、一体…………」
我に返ったメラン。一体何が起こったのか、気になって仕方ない。
(身体……は、どこも異状ないわねン。精神的にも……今のところ何にも…………ハッキリした意識のまま……)
メランはグロウに跨りつつも、己の全身を見遣り、手も触れてみる。顔や頭も触れて、特に何ともないことを確認する。
(……何だったのかしらん。ただのハッタリ? 鼬の最後っ屁のつもりだったのかしらん?)
不思議に思いつつも、メランはグロウを蔦で捕縛し、抱えて改子の後を追った――――
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エリーたちが死闘を繰り広げる中。
セフィラの街方面から、森の中を走りに走り、この騒ぎに近付こうとする影が、2つあった。
2人ともかなり重い荷物を担いでいるが、その重量を物ともせず、森の木から木へ飛び移りながら、バルザック、改子、メランに続いて駆けつけようとする。
「――親父! あの異常な圧と、この森中に響く音やら突風やら……どうやら、セフィラの街で聞きつけた通り、果し合いがおっぱじまってるみたいッスね!! しかも、とびっきり強いのが!!」
「――おう、イロハ!! マジで目測が当たったようだぜ! 冒険者とガラテア軍人のどでかい喧嘩だ!! こりゃあ、思った以上にヤバいな!!」
イロハ、と呼ばれた少女の影と、親父と呼ばれた男の影は、重装備にも関わらず、エリー一行やライネスたちにも負けない活気とスピードで森の中を駆けている。
「だがぁ、こりゃあ喧嘩なんて次元をとうに超えてる! 下手すりゃセフィラの街まで焼き尽くしちまわあッ!! あんの、放火野郎ども!! 戦う場所、もうちょい選びやがれってんだ!!」
「全くッスよ!! 大事な旅の拠点が無くなっちまうッス!! 何としても退場させないと!!」
「その通りだぜ…………だがイロハ! こりゃ状況によってはターゲットを変える必要があるな! 街を出る時も言ったが…………どっちに付く!?」
イロハと呼ばれた少女は、森の闇の中、生気に満ちた笑みを浮かべる。
「――んなの、決まってるじゃあないっスかあ!! ――――より、『商売』になりそうな方っスよ――――!!」
――やがて、エリーたちとライネスたちの命運を分けることになる――――闖入者2人は不敵に、かつ快活に笑った――――
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