第23話 領域を侵すものに、死を

 ――――得体の知れない『圧』を感じ、皆が振り返るとそこには――――




「で――――でえたああぁああああああーーーーッッ!!」




 エリーが派手に叫ぶが早いか、ガンバを取り囲むように、怪物が現れた!




 けたたましい鳴き声と共に、一行を威嚇している。




「――ンだあ、この化け物共は!?」




「やはり、危険が潜んでいたか!!」




 巨大な怪物からの敵意を感じ、ガイは二本の刀を抜き放ち、セリーナは大槍を構え、テイテツも光線銃ブラスターガンを向ける。





 怪物たちは3体。2体は赤い肌にぎょろりとした目玉を生やし、全身が皺だらけで大きな口を開け、片手に棍棒のような物を手にしている。



 もう1体は、ライオンのような頭――――だけではなく、虎や大蛇、大サソリや馬などがごちゃ混ぜに組み合わさったような混沌としたひと際大きな容貌の獣だ。





「――そちらの赤い見た目の2体は不明ですが、こちらの獣は判明しました。ドルムキマイラ……太古の昔より現れし合成獣です。」





 獰猛な獣特有の殺気を向けるドルムキマイラと赤い怪物。





「……このまま睨みながら全員をガンバに乗せて逃げるってえのは……無理だよなあ……誰か1人は乗せたままにしとくんだったぜ……」




「いずれにせよ、あのドルムキマイラの強力な筋肉からなる脚で追いかけまわされれば、道を進むどころじゃあなさそうだぞ――――エリー! しっかりしろッ!! 貴女が頼りなんだ!!」





 後ろで怯えて蹲ったままのエリーをセリーナは一喝する。




 しかし、エリーの震えはなかなか収まらない。





「うううう……お化け……お化けなんでしょ…………あたしら、食べられちゃう…………?」





 子供のように恐がるだけのエリーを、ガイは苛立ちも含めて諭そうとする。





「エリー、いい加減に立ちやがれ! お化けなんてモンはこの世に存在しねえ! こんなの、荒野で出会うモンスター共と同じだろうがよ!! 出会ったのが荒野でなく森だっただけだ! いつものように先陣切って戦いやがれ!!」




「ほ、ほんとおぉ……?」





「――ゴアアアアアアッッ!!」





 ガイの大声に反応したのか、ドルムキマイラが大きく踏み込んだ!




「ちいっ、来るぞッ!!」





 全身をバネに強烈な力で飛び掛かってくる!! 飛び退いてガイとセリーナは何とか躱す。




「――ハッ……うわあああッ!!」





 逃げ遅れたエリーが驚き――――咄嗟に、『鬼火』を込めた右の拳で殴り返した!!




「ゴヒャアアアッッ!! グウウウウッ…………!」





 強力なエリーの拳。まともにライオンのような部分の頭部に受けたドルムキマイラは反動で飛び退き、頭部を痛そうに振るわせ、火傷痕から悪臭を漂わせる。





 だが、一撃を受けても怪物たちは一向に戦意を失わない。




「――エリー! 今何%で殴った!?」




「ううううう、65%…………ホントにモンスターなのね? お化けじゃあないのね?」





「――マジかよ……エリーが65%で殴ってこの程度のダメージなのかよ……」




 何とか戦意を振り絞ろうとするエリー。しかし、ガイはその事実に逆に青ざめた。




「ガイ! エリーが65%って、どの程度の力だ!?」




「――ガラテア軍の戦車を軽々ぶん投げるパワーの2.6倍だよ……なのに骨一つ折れてる気配がねえ。洒落になんねえ――」




「そんな――――!?」





 ――エリーが咄嗟に開放した『鬼』の力による殴打でも、然したるダメージを与えられない。





「――例えエリーが70%の力で連打を浴びせ、我々との即席に近い連携攻撃を合わせたとしても――――あのドルムキマイラを倒し切ることは不可能と察します。勝率7.2%――――」




 テイテツもまた、冷徹に事実と現実的な数字を述べる――――




「何故、出し惜しみをする!? なら、100%の力を開放すれば――――」





「駄目なんだよ……確かに、100%出せば勝ち目はあるかもしれねえ。だが、リミッターがもたねえ上に……エリーが正気を失っちまう。俺たちの命も危ねえし、この森ごと焼き払っちまうだろうぜ。己を制御したまま戦うのは、70%が限界だ…………」





「――くっ……そういうことか――――」





 突然の急襲。突然の強敵を前に、エリーたちは窮地に陥った。一行に冷たい汗が額と背筋に伝う。





「――なら……あっちの棍棒持ったトロルみてえな奴から――――斬るッ!!」





 ガイは駆け出し、トロルのような見た目の怪物から先に二刀で斬りかかった!!





 だが――――





「――――うおッ!?」





 突然、怪物が棍棒の先に精神を念じると――――トリモチのような粘度の高いエネルギー体が放たれ、ガイの両腕を絡めとってしまった。




「――ちっきしょう……離しっ……やがれッ…………!」




 ガイは必死に振りほどこうとするが、強力に絡め取られ、全く腕が動かない。




「――オラアッ!!」




 苦し紛れにガイは右脚から蹴りを繰り出したが――――今度は棍棒を持たないもう片方の手で掴まえられてしまった。




「――ぐ……はな――――ぐああああ…………ッ!!」





 ――掴む力は途方も無い。メキメキ……と、ガイの右脚の筋と骨が悲鳴を上げる――――このままでは骨が折れるどころか、脚が千切れ飛んでしまいそうである。




「ガイ、何をしてる! ――はああああッ、せいっ!!」




 ガイに向けてもう一体が襲い来る。セリーナは駆け出し、もう一体に大槍を向けて牽制する。




 でっぷりとした腹の赤い怪物は、意外にも俊敏な動きでセリーナの槍の連撃を躱す。





「――うあッ!?」





 と、セリーナが槍を振るった僅かな隙を突かれ、もう一体の赤い怪物は棍棒から念じ……バヂィッと今度は雷撃を繰り出してきた! まともに雷撃を受けたセリーナは大きく吹っ飛ぶ。





「――ぐ……く……そ…………身体が……しび……れ…………」




 うつ伏せに倒れるセリーナ。必死に身体を動かそうとするが、雷撃で神経系が麻痺して身体を震わせる程度しか動けない……。





「出力上昇、発射。」





 後方で構えていたテイテツが、光線銃を撃つ! 光線はガイを捕らえている棍棒を焼き切って、驚いた怪物は飛び退いた。ガイは手足が自由になりながらも蹲る。




「ガイ。戦えますか。」





「……ッ……駄目だ……右脚を折られた…………刀も2本とも盗られちまった――――」




 棍棒自体は半分ほど焼き切ったが、赤い怪物は器用にもトリモチのようなエネルギー体を手に残った棍棒の切れ端で引き揚げ、そのまま絡めとった刀を2本とも持っている。





「――ううっ……でやあああああああッッ!!」




 一方、エリーは勇気を振り絞り、ドルムキマイラに突進し拳と蹴りの激しいラッシュを浴びせる!! 全て『鬼火』を伴った、普通の獣ならば跡形も無く焼け焦げる熱の攻撃だ。





「――――ウッソ……でしょ…………」





 エリーの強力なラッシュを受けたドルムキマイラだが、数メートル後方へのけぞった程度で、まるで手応えが無かった。所々焼け焦げてはいるが、かすり傷程度のダメージしか与えられていないようだ…………。





「こんな森にこんな――――うわッ!!」




 エリーがあっけに取られる間もなく、ドルムキマイラはその巨体と強力な筋肉でかぎ爪を振るい、頭の上から途方も無い力で腕を振るった!!




「――ぐううっ…………ああああああアアッ!?」





 両手で受け止めたエリー。地面に亀裂が入ってめり込み、どんどん体制を崩されていく。エリーの怪力を以てしても、この合成獣は止められなかった――――数秒と持たずかぎ爪で抉られつつ、エリーは弾き飛ばされ、後ろの木に激突する!!




「――がぁはっ……ッ」





 エリーはとてつもないダメージと衝撃に血を吐く。両腕はズタズタに折れて裂け、爪は胴を深々と抉り取って夥しい出血。




 ――――と、突如として、赤い怪物のうちの1体が口角を上げて不気味に微笑んだ。




「――森を侵す不敬なる人間共め。己の蛮勇を思い知ったか。」




 なんと、人間の言葉で喋り始めた。地の底を這うような悍ましい重低音が響く。




 もう片方の赤い怪物も同様に喋り出す。




「この星に蔓延る非力なサル共の延長に過ぎぬ者どもよ。『創世樹』が貴様らを星の支配者に選ぶなど、断じて認めぬ。大人しく我らの糧となるがよい…………」





「――ぐっ……一体、何なんだ……こいつらは…………」




「勝率0%。やむを得ません。何とかエリーを超再生と貴方の回復法術で回復してこの場を逃げましょう。しかし、逃走出来る可能性も非常に低い。逃走成功率2.2%」





 ガイが脚に重傷を負い、エリーも満身創痍。セリーナは身体が完全に麻痺し、戦力はほぼ失われた。全員が距離を離され、それぞれの間に怪物たちがいる位置取りでは、全員逃げられる可能性は0に近い。





 万事休す――――



























「――やめろーーーーッ!!」








 ――――突然。






 この窮地に、グロウが叫んだ。





 グロウの全身から眩い閃光が走り、強力な旋風が発生した!

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