第21話 指針
「――――さて、皆さん。我々にとって重要なことは2つあります」
一行のブレーンとして、テイテツが焚火を囲むエリーたちに今後の身の振り方の為の会議を進める。
「1つは、我々が帝国の准将クラスの軍人にマークされていること。目的は帝国への武力の寄進だと思われますが、主な狙いはエリーの『鬼』の力とグロウの未知なる力の数々でしょう。もしもガラテア軍が総力を挙げて我々を捕獲・鹵獲しにかかられるとひとたまりもありません」
テイテツは事実を理路整然と述べ、まずは帝国から追われる身であることを確認する。
「――だな。あのリオンハルトとかいう准将閣下は、俺たちに目を付けたみてえだった。ありゃあ冷血野郎だ。何処までも追って来そうな気がするぜ……」
ガイはリオンハルトの鉄仮面のような冷たい表情を思い出し、眉根を顰める。
「そうですね――ですが、それを意識しすぎると却って身動きが取れなくなります。ですが、これは現在の所……頭の片隅に含んでおく程度でいいでしょう。」
「……どして~? テイテツ?」
エリーは、意外にも呑気と取れそうなテイテツの認識に疑問の声を上げる。
「そもそも、ガラテア軍の准将クラスほどの高官が我々を本気でマークしていたら、我々はこうしてここでキャンプなどする間もなく捕まっているからです。言ってしまえば、エンデュラ鉱山都市から脱出できたかも怪しい――――あのリオンハルト准将が持つ兵力と装備は既にそれほどまでに強い。我々は、逃げられただけでもおかしい。」
「――つまり……私たちは泳がされている…………ということか?」
セリーナは自分なりに考え、訊く。
「――そう見るのが妥当でしょう。彼が何を思って我々を敢えて泳がせているのか、どのタイミングで捕らえるつもりなのかまでは確信に至る材料はありません。他に重要視していることでもあるのか……それとも、リオンハルトが独断で何か画策しているのか。いずれにせよ、今すぐ憂慮すべき事態ではないはず。されど、どこかで軍にマークされているという事実だけは認識しておき……極力、軍から見て目立たない振る舞いを心掛けるべき。これが1つ目です」
「ふむ……」
ガイは腕を組み、深く頷く。
「そして2つ目は――――」
「――僕の力がどの程度、どんなものなのか…………だよね…………」
――グロウが呟き、一行は驚きの声と共に彼の俯いた顔を見る。
「――その通りです。セリーナと初めて会った時に彼女の怪我を癒しただけでなく、精神面にまで何らかの影響を与え、さらにエンデュラ鉱山都市での一件で確認した『活性化』と『急成長』の力。これらは何を意味するのか。まだ秘められた能力があるのか。それらを出来るところまで確認すべきと私は考えます」
「――グロウは……! 見捨てたりしないよ! 実験動物なんかじゃあない! させない! 何があっても、絶対!!」
エリーは傍らに俯いて座るグロウに駆け寄り、ハグして他の一行を睨む。
「落ち着け、エリー。んなことはこの中の誰もやりゃあしねえ。それはグロウの権利を無視することになっからな。んな真似したらガラテアの鳥頭野郎共と同じだぜ。それにグロウの能力を未知のままほっぽってたら……一体どんな災いが起こるのかもわからねエ。ひょっとしたら、本来人の手が及ばないようほどに強力なモノなのかも――――忘れてねえよな? グロウはあのわけわかんねえ遺跡から、明らかに人間とは異なる現れ方をしたことを――――」
――セリーナ以外、あの崩落してしまった謎の遺跡の奥で発見した光の集合体から変形し、人型の少年として現れた…………そんなこの世ならざる現象から一行に加わることになったグロウの姿を思い出す。
グロウは一体、何者なのか。そもそも、人間なのか。
「……可能な限り、それも安全なアプローチで、グロウの持つ能力について調べる必要があると思います。出来れば、ガラテア軍よりも早く。そうすれば、或いはガラテア軍から身を隠しながらグロウを保護し続けることが出来るかもしれません。」
「………………」
グロウは、不安そうに俯いたままだ。
自分は一体何者なのか? どんな使命を持ってこの世に生まれたのか? 本当にこのままエリーたちと行動を共にして大丈夫なのか?
言いようのない、深い不安がグロウに纏わりついていた。
「――だーいじょうぶよ、グロウ!」
そうあっけらかんとした声のトーンでグロウをハグしているのは、勿論エリーだ。朗らかな笑みで、グロウのほっぺをつねる。
「い、いふぁふぁふぁふぁ…………」
痛みとスキンシップの悦びで、自然とグロウは涙が出る。笑顔も取り戻した。
「グロウは、あたしが守る! それは最初ッから決めてんだから! 一緒に、幸せに生きていく。それだけ!」
くしゃくしゃと、エリーは荒っぽくグロウの頭を撫でる。そこに何の含みもない。ただただ、愛情と信頼をかけるのみだ。
「……ま、最初にそう決めたからな。考えてみりゃあ……か弱い子供に付き添うのにこれほどまでに強えガードマンもいねえよな、はは!」
ガイもやや不遜に笑う。
「むー。何だよ、何だよー! いいじゃん、血が繋がってなくてもホントの弟みたいに扱ったって~! エリーお姉ちゃんはグロウを一生守りますっ!! ……あ、時々手伝ってね~、みんな~」
そうひらひらと掌を振って豪笑するエリー。つられてガイもグロウも笑う。
「……おい。話が逸れてないか? 問題は、この後具体的にどうするかだろう。テイテツ。ここまで話を進めるからには、何かアテはあるのか?」
セリーナは膝元を叩いて、テイテツに尋ねる。
「はい。これからの進路は――――ここより遙か南西の……ニルヴァ市国を目指すべきだと思います。」
――ニルヴァ市国。
この世に様々な『宗教』をもたらした都市とされ、今なおあらゆる求道者が己の生きる『道』を求める為に目指す。
「……宗教の国じゃあねえか。そこに何があるってんだ?」
「実は、ニルヴァ市国には私と懇意な関係を持った科学者がおります。彼に頼んで施設を活用させてもらい、グロウの能力を解明しましょう。それに、ニルヴァ市国には人間の持つあらゆる能力を、その人の精神性と共に発見しようとする修行場としても有名。ここで技を磨けば、ただグロウの能力を知るだけでなく我々全員の鍛錬にもなるのではないでしょうか」
「……人間の持つ未知なる能力の発見か……俺たちの冒険者としての鍛錬にも役立つってか。確かにガラテア軍に負けない為の実力を付けるのにもいいかもな」
ガイは自分たちの更なる精進と向上の精神に、少しワクワクした表情で言う。
「そうだな。ガラテア軍には負けられない。私ももっと真の強さを追求したい。単なる力だけではない、心と共に――」
セリーナも同様だ。
「ねー。でも、結構遠いよね? あたしたちのお金、もつかな?」
普段呑気なエリーが珍しく先の心配を述べる。
「それに関しては、地図をよくご確認ください。ニルヴァ市国へと至るまでに、幾つか別の街があるはずです。まずは、ここから程近い――――森林に囲まれた、セフィラの街。ここであの遺跡から採掘した鉱物資源などを売却しましょう。職人や錬金術師の類いも立ち寄る街ですし、鉱物を買う行商人も多い。それに――――」
「『紛れやすい』ってか。森の中の街だもんな。『木を隠すには森の中』とはよく言ったもんだぜ」
ガイが言う通り、地図を見るとセフィラの街や、そこに至るまでのあちこちに森がある。ガラテア軍の目を掻い潜りながら先を進めるには最適解と言えそうだった。
「その通りです。他にもニルヴァ市国に到達するまでに幾つかの都市があります。進行する都度、なるべくガラテア軍に見つかりにくいルートを取りながら行きましょう。いかがでしょうか?」
エリーたちは皆お互いの顔を見て、深く頷いた。
「……よおっし! 次の冒険は……セフィラの街! 森の中を突き進んで……行っくわよー!!」
「よっしゃ!」
「了解」
「わかった」
「う、うん……」
それぞれがそれぞれの思惑を持ちながらも、目的は一致した。
エリーたちは速やかに身支度を済ませ、再びガンバに乗って森林の街・セフィラへと旅立った――――
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