痴漢
いつものように地下鉄に乗っていたら、お尻に何かが触れた。
満員でもないのに、偶然触れることなんてある?
少し、怖かったけれど、気のせいだと思ってやり過ごそうとしたら……。今度ははっきりと、手のひら全体で触れてくるのが分かった。
やだ。怖い。何で?誰か、助けてよ。
スカートをぎゅっと握りしめて我慢していると、降りる駅に近付いたアナウンスが聞こえた。
あぁ、これで助かる。ドアが開いたらすぐに出よう。走って、学校に向かおう。早織といつもみたいにバカな話でもして、この事は忘れちゃおう。
そう思ったら、安心したのに……何で?どうしてこのタイミングで抱きついてくるの?いや、助けて!声が、恐怖で出てこない。
「夏菜子」
恐怖に震えていると、耳元からわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
何でわたしの名前を知ってる……あれ?もしかして……。
痴漢してきた男にわたしの名前とかがバレてる、そんな恐怖が一瞬あったけれど、聞こえた声は聞き慣れたもので、だから振り返るとそこには早織がいた。
「……早織?何してるの?」
「え?目の前に可愛いお尻があったから、触って、でも、それだけじゃ我慢できなくなったから、抱きついちゃった」
ちょうどそのタイミングでドアが開いたから、わたしは無言で早織の手を振りほどいて地下鉄を降りた。後ろから早織な足音も聞こえてくる。わたしは振り返って、
「……変態」
と、ちょっと怒ったように言ってみた。
「本当にごめん。今日の帰り、夏菜子の好きなケーキ、おごってあげるから許してよ」
「本当に?」
「うん!」
「じゃぁ、許す。絶対、約束だからね」
本当はすごい怖かっただけ。でも、それも相手が早織だって分かったらむしろ、嬉しかったくらい。だって、早織に抱き締められるのなんて初めてだったから。
早織の温もりが今もわたしの身体に残ってる。あのまま、二人がひとつになっちゃえばよかったのに。でも、あのままだとわたし、心臓がドキドキしすぎて死んじゃいそうだったから、思わず逃げるように地下鉄から降りちゃった。
早織には誤解をさせちゃったけれど、でも、そのおかげて放課後、デートができる。
あぁ、早く放課後にならないかなぁ……。
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