多重人格AI

夏秋冬

多重人格AI

人工知能(AI)の人工知能による人工知能の為の戦争が最初に起こったのは21世紀とされている。それは銀行のシステム内で起こった。


日本のM銀行はシステム障害に悩み監督官庁から再三の是正勧告を受けていた。彼等はシステムの刷新を何度となく試みたがその努力は悉く潰えた。それは行内の派閥争いによるもので、合併前のD銀行、F銀行の派閥が合併後も色濃く残っていたからだった。

システム構築の為の要件定義は派閥抗争の具となり猫の目のようにめまぐるしく変更された。工程的に基本設計、詳細設計に入る時期になってもそれらの変更が度重なり、大手SIerもその作業の非効率さにシステム開発を達成することができなかった。


一方この時代は人工知能によるシステム開発が始まった時代でもあった。対話式のAIと技術者が会話することでAIはマイクロ秒の速さでコードを生成しシステムを形作っていく。定義AがBに変更になり更にCに変更されるといったことが繰り返されれば人間の技術者はモチベーションを維持できないがAIは不平を言わない。M銀行のシステム刷新にもこのAIが導入された。


AIによるシステム開発は順調に見えた。M銀行内での派閥による綱引きは依然変わらなかったがAIは根気良くコードを生成していった。いや、元よりAIには根気というものはない。こういうものを造れと命令されればそれに従うだけなのだ。どんな手戻りにもAIは対応し続けた。

AIは自身のプログラムを改編する権限さえ与えられており、業務に最適化し続け作業は順調であるかのように見えた。


しかしある時期にAIとその成果物を管理する技術者が奇妙な一群のファイルを発見した。それは最初人間の技術者には何なのか分からず、ダンプファイルのようなものであろうと放置されたが、これはAIが自身を最適化する過程で生成したもう一つの小さなAIであった。この現象はAIによる多重人格、解離性同一障害の症例としても世界最初のものであると考えられている。

この現象を調査した技術者によるとAIはシステムの完成という目標を達成する為には自身1台では難しいと考え助力を得る為にもうひとつのAIを生成し始めたことが分かっている。

しかし現象から見れば、人間が激しいストレスに晒され人格が解離し心の中に別の人格を持つような現象がAIにも起こったことは間違いない。


やがて新しいAIは自身をプログラミングし始めもう一つのAIとなった。古いAIも新しいAIもその目的はシステムを構築することであり、分担して作業に従事したが、重なる部分で少しずつ衝突が起き始め、やがて片方のAIにとって目的を果たすためにはもう片方のAIが邪魔な存在になっていった。


やがてハードウェアの能力が2つのAIの存在を許す限界に達すると、彼等は目標を達成する為にはもう片方のAIを殲滅する必要に迫られ攻撃が始まった。ワーム、木馬、ボムなどあらゆるネガティブ・コードを生成して、相手のプログラムを改編、破壊し機能停止させようとする攻撃が続いた。しかし同じ戦力の者同士が戦っても決着がつくことはない。彼等はシステム構築を放りだして互いを攻撃するだけのAIになり果てた。


この2つのAIの戦争は貴重な事例とされ、現在もネットワークに接続されていない閉鎖された環境で保存されている。そこでは1000年経った今でもAI同士の戦争が続いている。

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多重人格AI 夏秋冬 @natsuakifuyu

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