第10話 幾分甜の土鳳梨酥
タイトルでもお分かりのとおり、また台湾のお土産の登場だ。
幾分甜は、先日も一口サイズの鳳梨酥を紹介した、鳳梨酥好きの気持ちをよくわかっているお店だ。
今回は、普通サイズの鳳梨酥――いや、土鳳梨酥だ。
土鳳梨酥というと、なんだか土そのものを思い浮かべるが、土鳳梨酥とは、現地台湾産のパイナップルのことだそうだ。
幾分甜のこの土鳳梨酥は、パイナップル餡の存在感が強い。
一口サイズの時も思ったのだが、大きさに対してのパイナップル餡のザクザク果肉感がすごいのだ。
普通サイズも、濃いオレンジ色の餡は、餡と呼ぶのを躊躇してしまう程、果肉感がある。ザクザクとした食感と、パイナップル独特の酸味。生地はしっとりではなく、サクサクと軽い食感だ。
幾分甜の鳳梨酥は、このパイナップルの果肉感が素晴らしい。
鳳梨酥は、色々なサイトでランキングなどが作られているが、ひとつひとつ、お店ごとの特色がある。ランキングで格付けするには、正直勿体ないと思う程、工夫が凝らされている。
パイナップル餡を、クッキー生地で包み込んで焼く、というとてもシンプルなお菓子なのに、だ。そして、シンプルゆえに、そのお店の拘りが現れる。そのひとつひとつを味わい、台湾の温かな街に、そして優しい人に想いを馳せたいものだ。
台湾のお菓子が続いたけれど、残念ながらいただいたお土産は、今回の鳳梨酥で最後だ。本当に残念だ。
しばらく台湾のお菓子とはお別れ。せっかくなので、台湾に行った時の思い出を少しここに記したいと思う。
海外旅行での不安といえば、やはり言葉ではないかと思う。
ツアーなどで行くのはまた違うのかもしれないが、私はこれまで全て個人旅行だった。旅行通の親友がアレコレ手配してくれ、私は「〇〇が食べたい」「〇〇に行きたい」と言うだけだった。脱線するが、例えばそれは「ベルギーのブルージュに行きたい」と、そう言うだけでフランス旅行の日程に一日、ブルージュ観光をねじ込み、特急列車の往復切符まで手配してくれるやり手なのだ。そのため、私はツアー旅行の経験がない。
個人旅行で行くと、当然飛行機でもお店でも移動でも、自分たちの語学力でなんとかしなければならない。
うまくは話せない。でも、そんなことは言っていられない。今はスマホの翻訳機能も相当なものだそうだが、せっかくの旅だ。現地での直接交流も捨てがたい。
台湾では幸い、あらゆる場面で日本語を話すかたがいらっしゃった。だが、問屋街として有名な迪化街に行った時は、違った。
ここは地元のかたも多く利用する商店街ということもあり、気取ったところがなく、少しレトロな店構えが続く。歩いているだけで、漢方の香りがして、まさに異国情緒を感じる場所だった。
迪化街に行きたいと行ったのは親友で、私にはなんの知識もなかった。だが、祖父母に漢方茶を買おうと思っていたので、どうせならここで買おうと張り切って店をまわった。だが、困ったことに日本語を話せる人と出会うことがなかったのだ。それでも身振り手振りで、勧められるお菓子を試食してみたり、お茶を見せてもらったりした。だが、決め手に欠けるのだ。そこで私はふとあることに気が付いた。
「ここは、漢字の国だ。筆談はどうだろう?」
そこで私は、店の奥に漢方薬が入った壺をズラリと並べ、しかめっ面のおじいさんがいるお店で試してみることにした。
『老人 飲 元気』
今となっては、なんじゃそら、なメモではあるが、その時はこれしかないと思った。現に、おじいさんは店の前に並んでいたパッケージからひとつを選び、勧めてくれたのだ。私はそれを手にとり、『老人 元気』を〇でかこみ、強調した。うんうん、と頷くおじいさん。私は確かな手ごたえを感じた。
勿論、そのお茶を買って帰って来た。だが、とても残念なことに、祖父が失くしてしまったのだ。どこに仕舞い込んだかわからないと言う。
せっかくの漢方も、ボケには勝てなかったらしい。
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