第7話 三角ちまきと、笹だんご

 先日、新潟から叔母夫婦が来ていた。

 そう頻繁に来れるわけではないので、来た時は近くに住む親せきも集まり、わが家はなかなか賑やかになる。

 いつもならもっと暖かい時期に来るため、リアル・サマーウォーズと言っているのだが、今回はオータム・ウォーズとなった。

 そんな状況なものだから、叔母夫婦も、やって来る時の手土産の量が尋常ではない。わが家に来たらもれなく他の親戚も居るのだから、結果そうなってしまうのだろうが、今回も後部座席いっぱいにお土産を乗せて車でやって来た。

 梨、葡萄などのフルーツも、そして新潟名物のお菓子も、すべて箱で持ってきた。一時的にではあるが、ダイニングキッチンが段ボールだらけになったほどだった。

 その中に、今回の『三角ちまき』と『笹だんご』があった。

 笹だんごは、毎年送られてくる(箱で送られ、わが家で各親戚に配る)ので、結構食べ慣れているのだが、三角ちまきは2回目だろうか。日持ちなどの理由か、地方発送していないのか、いつも本人が持って来る。だが、その記念すべき1回目、正しい食べ方がわからず、大失敗をしてしまった。苦い思い出である。

 ちまきというと、これまた台湾の話になるのだが、台湾は確か台中がちまきで有名だったと記憶している。私はといえば、台中に行ったことも、台湾でちまきを食べたこともない。それなのに、なぜ台湾のちまきを話題にするかと言うと、姉の結婚で親戚関係となった、義兄の実家のおばさんが、ちまきが得意だからだ。

 私にとって一見遠そうなこの親戚関係ではあるが、私の以前の職場とこちらのご自宅が隣同士というご縁があり、意外と近い関係を築いていた。しかも、食べるのが大好きな私の存在が、人に食べさせることが大好きな料理上手のおばさんのスイッチを押してしまったらしい。仕事の日に、あれやこれやと差し入れを頂くことがあったのだ。それはカレーだったり、ピザだったり、サンドウィッチだったり、角煮だったり、ポテトサラダだったりと、多岐にわたる。人に振る舞うのが大好きなおばさんは、同僚のみんなも食べられるよう、これまた尋常ではない量が届けられるのだ。

 カレーや角煮は、バケツのような深型の大鍋に入っていたし、サンドウィッチは食パン1本(1斤ではない。1本、つまり3斤だ)を使ったのではないかという量が、ぴっちりと箱に詰め込まれて届くのである。それは同僚にもとても好評だった。

 そんな中でも、特に皆が大好きだったのが、手作りちまきだった。

 このちまき、後から分かったのだが、台湾ちまきだったのだ。

 台湾ちまきとは、もち米で作ったモッチモチのおこわに、豚の角煮が詰め込まれ蒸しあげられたものだ。角煮を寸胴で一気に10キロ作るおばさんが、角煮を入れないわけがない。むしろ、角煮とその汁をもち米に吸わせて、角煮のいいところを余すとこなく味わってもらいたいという気持ちから、おばさんがアレンジしたちまきとも言える。粗くほぐされたちまきが中心に入れられ、じゅんわりと汁を吸い蒸されたちまきは、差し入れに届くと我先にと奪い合いになる程だった。

 つまり、私にとってはそれがちまきだったのだ。

 単に台湾ちまきと、新潟の三角ちまきの違いを知らなかっただけなのだが、なにせちまきは笹に巻かれているので、中が確認できない。てっきりおこわが出てくると思い、巻かれた笹を解いた私の手は止まった。


「しろい……」


 戸惑った。これは一体なんだろうと思った。まっしろツヤツヤでホコホコに温まったもち米がそこにあった。

 いや、中にきっと角煮が……お箸でほぐした。


「入って、ない……」


 中にはなにも入っていなかった。

 食べてみた。


「味がしない……」


 衝撃的だった。

 わたしは、砂糖入りきなこをつけて食べるという、新潟の三角ちまきの食べ方を知らなかったのだ。

 食べ方を知ったのは、味がしないと思いながらそれでも全てを食べ終わった後だった。

 だから、ちまき体験は2回目ではあるものの、本来の食べ方では初めてなのだ。

 一口大にほぐして、皿に入れた砂糖入りきなこをつける。口に入れると、ほのかな甘みと、ちまき特有のもっちゃもちゃした食感が広がった。

 美味しい。控えめな甘さが素朴で、お餅とは違った少し水分を感じるもっちゃもちゃした食感も良い。味がない時点で食べ方が違うと気づかなかった過去の私を叱りつけたくなった。

 こうして、数年かかったが、私の三角ちまきへの印象が大きく変わったのだった。


 笹だんごは、わが家ではちまきよりもメジャーな新潟名物なのだが、世間的にはどうなんだろう?

 昨日も書いたけれど、あれも好きこれも好きと、一見甘いものならなんでも好きと思われている私でも、苦手なものもある。

 実は、あんこが苦手なのだ。特に、こしあん、白あん、うぐいすあんが苦手だ。

 食べれないわけではないけれど、お茶や珈琲でつい流し込んでしまう悪いクセがある。なにに入っているかにもよるが、例えばそれがどら焼きなどは好きだ。多分、あんと生地との組み合わせや割合なのだろうな、と思う。あんがメインすぎると、この私が手が止まってしまうのだ。

 だが、難しいもので、つぶあんは大好きなのだ。夏はあずきバーを食べたくなるほどにつぶあんが大好きだ。

 笹だんごの話に戻るが、笹だんごもこしあんとつぶあんがあったと記憶している。

 私がつぶあん好きなものだから、あんこが濾してあろうが粒が残っていようが好き嫌いは変わらないうちの家族が、私に合わせてくれるようになってから、わが家の笹だんごはつぶあんになってしまった。叔母もそこは心得ていて、今回も勿論つぶあんだった。

 このふたつ――特に三角ちまきがおやつではないと言われそうだけれど、私にとっては甘いものは全ておやつである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る