Drop out
千秋静
第1話
不細工な女だと改めて思った。
この女とは長い付き合いではないが、俺は強制的にこき使われて知りたくもない女のアレコレを知るようになってしまった。クリームパンのような手や、パンパンに膨らんだ吹き出物だらけの顔を毎日見せられている俺は前世でいったいどんな悪行をしたというのだろうか。
今俺はテーブルの上から女を見上げている。帰宅すると外で着ていた服をゴミだらけの荒れた部屋に脱ぎ散らし、弛んだ体に付けられたベージュのパンツ一枚で俺の前にデンと座る。女が座ると俺と目線が同じ高さになる。こんな奴と見つめあうなんて新しい拷問のようだがこれも仕事のうちなのだから仕方がない。俺は奴隷のように従って指示されるがままに婚活に関するサイトを紹介したり、お見合いパーティーの申し込みをしなくてはならない。信じられないし信じたくもないのだが、この女の形をした下品な肉の塊は今婚活真っ最中なのであった。俺、即ちパソコンは嫌でもこいつの婚活に付き合わなければならないのだった。
女は見た目もひどいが中身は救いようがないほど醜い。仕事から帰ってきたら汗をかく季節だというのに風呂にも入らずビールを勢いよく流し込み、コンビニで買ってきた飯をがっつく。がつがつ食べている合間に俺を使って婚活サイトを開いて男とのメッセージのやり取りに一喜一憂している。
さっきから俺を見ながらニヤニヤしている顔は完全に違法レベルの汚さだと思う。豚は豚らしくさっさとブタ箱に入ってくれたらスッキリするのだが、世界は意外とこいつに寛容らしい。そんな自分の容姿は棚にあげて、サイトで紹介してもらう男には高身長や清潔感を求めている。希望に合わない相手からのメッセージには舌打ちをして相手をこき下ろすのだった。
自分には徹底的に甘く、他人には徹底的に厳しいというありきたりだが、身近にいるととても厄介な性格をしていて俺は始終イライラさせられている。まずはお前の体の脂肪とムダ毛を何とかしてからワガママを言えと言ってやりたくなる。
女が帰宅して二時間が経とうとしているが、俺の前から一向に動こうとしない。今は婚活サイトを閉じて、ネットショッピングのサイトを見ている。豚のくせに妙にフリフリとした子供服のようなデザインの服ばかりを見ている。冷やかしで見ているだけかと思っていたが、本気で購入を考えているらしい。
こいつは脳にまで脂肪が付いてしまったのだろうか。相変わらずニヤニヤしている顔を全力で殴りつけてやりたくなる衝動をグッと抑えて、仕方なくネットショッピングに付き合った。
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