わたしにとっての「街」 富谷

@nag03362

第1話

そういえば「街」について考えた記憶がない。「村」についてなら考えた。山や海についても考えたことはある。「街」、「町」、どちらもなんだか自分にとって、中途半端でよそよそしい気がする。

 今年の10月10日に、わたしの住む富谷町は富谷市になった。記念のイベントがいくつか開催されたようだが、興味がなかった。富谷市の誕生を祝ってスーパーが安売りバーゲンを行い、それには行った。

ここ富谷市は宮城を南北に分けて、ほぼ中間に位置している。東西に分けても真ん中に近いが、天気予報での区分では西部になるから少し西寄りかも知れない。いずれにしてもここ富谷の一角に造成された団地に、およそ30年近く住んでいることになる。

人生のおよそ半分くらいをここで過ごしているわけだから、これはこの土地にお世話になってきたと考えてもいいことかも知れない。あるいは、自分にとって最終の地になるかも知れないではないか。ちょっと感謝の気持ちを持ちながら、この地について自分のためにだけでも考えておきたい気になってきた。

 自分の元々の生まれは富谷から北上することおよそ50キロ。宮城、岩手、山形の3県にまたがる栗駒山のふもと、栗原市栗駒である。やはり南北の田舎町の中間にある山間の小さな集落に生まれた。朝晩に、秀峰栗駒山を視界に入れ、小中高と過ごした。

大学で上京。そして東京は奥多摩のふもと、青梅市の会社に就職。1年で静岡県浜松市に単身赴任。その地で結婚。数年して今度は大阪に転勤。神戸、京都にまたがり営業及び直営の専門店店長をこなした。この間に子どもが2人生まれ、おんぶにだっこの妻の姿に退社を決意。家族そろって宮城の実家に戻った。

1年を職探しに費やしたがうまくいかず、2年目に通信教育を受けながら教員採用試験に合格。急いで、最初の赴任地に近い、当時黒川郡富谷町のこの地に親子4人で引っ越してきた。

2年ほど貸家住まい。3年目に、造成中の団地にできた分譲住宅一棟を購入。決め手は、団地から国道に降りていく坂の途中に見えた景色だ。国道を挟んで向こう側にある団地を眼下に見下ろし、奥深くに仙台近郊の住民に親しまれる泉ヶ岳の雄姿、さらに奥隣に船形山がそびえている。ついでに言えば、隣町の黒川郡大和町には泉ヶ岳を斜めに下りて小さな山が七つ重なり連なって、昔話や絵本でも親しまれている「七ツ森」がある。

さて、春秋の行楽シーズンには、いま述べた船形山、泉ヶ岳、七ツ森、七ツ森の奥に造られたダムの湖畔公園などに大勢の人々が押しかけ、賑わいを見せる。だが、転じて、ここ旧富谷町、現在の富谷市には、言うに足るほどの著名な行楽地、公園、建造物など何もない。強いて言えば、旧富谷の町中は昔宿場町だったところで、古い酒蔵と、それをぐるりと取り囲んだ塀の白壁が目に止まるくらいである。周辺には、のんびりと歩けばかつての宿場町の名残が散見できるらしいとのことだが、車のすれ違いが容易ではない狭い道ばかりで、進んで訪れる気はしない。住んでいる場所は、富谷でも近接の仙台市近くにあり、休日にはいつも家族そろって仙台方面に向かうことが常であった。

それやこれやで富谷の住人でありながら、実は富谷のことについては知らないできた。 仙台近郊という立地から、その後も団地の造成が続き入居者が増え、道路沿いには店舗、スーパー、ガソリンスタンドなどが立ち並ぶようになった。古い町中は寂れて見え、富谷の中でも仙台市に近い土地だけが瞬く間に賑わいを見せるようになった。富谷について肌身に感じ、知っていると言えば、残念だがそれくらいのところだ。それ以外に、進んでこの地の歴史、地理、政治、文化、産業、どれ一つ探索したことはない。そうして30年あまりが経過した。

近場に転勤の多い仕事の根拠地として、朝に富谷を離れ、夕に富谷に帰ってくる生活が続いた。結局は、富谷は自分にとってはベッドタウンということになるし、近隣の団地を見てもほとんどがそのような目的で入居しているようだ。

団地内での隣近所との付き合いも薄い。人間関係の重要な部分はほぼ職場内が中心で、家はただ家族のものとして団地内では孤立している。団地はだから孤立した家族が集合しているに過ぎないように見える。

自分の住まいに関してあらためて考えてみると、近隣とのいざこざがないように、互いに干渉し合わない、無交渉の関係こそ大切な要件だったかも知れない。なぜなら、振り返ってみればそのことによって仕事、家庭に精一杯打ち込んでこれたとも思えるからだ。

 富谷はわたしにはそういう街だ。何の思い入れも感じさせないが、30年、煩わしさから守ってくれた。ありがたいことだ。

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