短編ミステリ集・僕の咄

幻典 尋貴

1.彼の咄

1.

 彼は、突然怒った。

 事は、学校からの帰り道、Mの字の書いてある、ファストフード店の前、そのファストフード店の看板の前で、起こった。

 いつも通りの会話をしていただけだった。あぁ。もちろん、会話の内容は違うはずだけれど。

 僕には、彼が何故怒ったのか分からない。

 あ。一つあるとしたら、僕は彼の名前を知らない。覚えてないのではなく、知らないのだ。名前と、あと苗字も。

 でも、それはもう何年も続いているわけで、もしそれが原因なら、「今更なんだ」と言う話である。

 彼は、突然怒った。

 何故怒ったのかは、僕には分からない。

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