第24話 使者の到着

 夕方になってひとっぷろ浴びたあと、こざっぱりとした格好で夜の7時過ぎに玄関を出ようとしたとき、来客を知らせるインターフォンの呼び出し音が鳴りました。

 私は「ちっ!」と軽く舌打ちして、こんな時間に誰が訪ねてきたのかと思いながら、紐靴の紐を解いて脱ぐのが面倒くさかったので、そのまま正門の扉を開けて、来客者を直に出迎えてやろうと思い、庭に出て正門へ向かいました。石畳を歩きながら、もしも来客者が長谷川なら、一緒にキャバクラに連れて行き、おごってもらうついでに、モテ期を迎えた男の凄まじさをまざまざと見せつけてやろうと思い、目の前に迫った正門の扉に向かって、

「どちらさまですか?」と言って、鍵を開けて扉を開いた瞬間、

「うわっ!」と大声で叫んだあと、『誰か、誰か助けて~!』とまで、思わず叫んでしまいたくなるほど驚きました。

 一瞬、目の前に巨大な熊が立ち上がっているのかと思いましたが、薄闇の中、目を凝らしてよく見ると、その巨大なシルエットは、グリーンをベースにとても複雑な色合いをしたロング丈のワンピースを身に纏った、巨大で肥大な女性であることが分かりました。

 年齢は不詳で、おそらく40代と思われます。身長は私と同じく180センチ弱、体重は明らかに倍以上の140キロはあろうかという巨漢で、右手に旅行用の大きなキャリーバッグの取っ手を握り締め、左手には紫の風呂敷で包まれた、出前箱ほどの荷物を持ち、長い髪を後ろでまとめて、今風に複雑な形でちょい盛りしておりました。少し落ち着きを取り戻して女性(?)の顔をよく見ると、

「!」

 間違いなく瑞歩が言っていた、アキちゃんが失踪する前に連泊していたという、おネェキャラの超~デブなミツコだということが分かりました。

 相手が人間で安心し、しかもテレビでお馴染みの人物だということで少し興奮した私は、とりあえず何か話しかけてみることにして、勤めて明るい笑顔で、

「こんにちは!」と、元気よく挨拶しました。

 するとミツコは、どこか挑戦的な視線を私に向けながら、

「こんばんは」と、おっさん丸出しの野太い声で、TPOに応じた正確な挨拶を私に返したあと、「あなたが涼介ね?」と、いきなり名前を呼び捨てにされました。

 なぜ私の名前を知っているのだろう?と疑問に思う前に、私は名前を呼び捨てにされても仕方がない、と思うほどの威圧感と圧迫感を覚えました。

「はい、そうですけど」

「私はアキの友達で、ミツコっていうの」

(やっぱりミツコで、アキちゃん絡みや)と思いながら、

「あのう、僕に何か御用ですか?」と訊ねました。

「あなたに大切な用があって訪ねてきたのよ」

「?・・・・」

 ミツコが言う大切な用というのが、どのようなことなのかさっぱり理解できませんでしたが、とにかく今日は朝起きた瞬間から瑞歩にキスされて驚き、先ほどもミツコと熊を間違えて、腰が抜けるほど驚きましたので、もしかすると、みんなで寄ってたかって私に罠を仕掛けているのではないかと思いながら、

「あのぅ・・・ 大切な用って、どんなことですか?」と、ミツコに訊ねてみました。

 ミツコは眼光鋭い目を細めながら、しばらく間を置いたあと、

「想像以上だわ」と言いました。

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