第17話 新生活

 今から書こうとしている文章は、はっきり言って本編の物語を進めていく上で、あまり重要ではありませんし、書かなくとも然したる影響は無いと思って書きますので、もしかすると私の情熱や意気込みなどは感じられないかもしれませんが、先ほどゴミ箱がどうのという文章を、瑞歩との共同生活5日目からいきなりスタートさせてしまった都合で、目の肥えた読者の方たちは、彼女のことをもっと詳しく丁寧に説明しろよ!と、思われたのではないかということで、私が手を抜いていない証拠に、内容が前後して真に恐縮でございますが、今から補足として、瑞歩の個人情報を無断で公開させていただきます。

 ご存知の通り、瑞歩は19歳の大学2回生で、彼女が通う大学は、関西のお金持ちのご子息たちが多く通うことで有名な、神戸市東部の山手にある私立大学です。有馬から瑞歩が大学へ通う場合、車だと六甲山を超えれば40分強で到着するのですが、電車通学の場合は線路の軌道が六甲山を大きく迂回する関係で、徒歩を含めて2時間近くもかかってしまいます。

 本来、瑞歩の自宅は大学の隣町の芦屋なので、通学時間は車で10分、電車でも徒歩を合わせて30分と、有馬と比べて所要時間と道程の不便さがあまりにも可哀相だということで、元姪思いの私は、「どうせ俺は暇やから、車で学校の送り迎えしたろうか?」と、優しい言葉を掛けたのですが、

「そんな心配はいらんから、涼介は小説のことだけ考えとき!」と却下されました。

 瑞歩は本格的に始まった梅雨空の中、別荘から最寄りの有馬温泉駅までの、勾配のきつい坂が連続した道のりを、傘をさしながら上り下りし、徒歩と電車を乗り継いで通学し始めましたので、(意外と庶民的で我慢強いな)と、すこし見直してしまいました。

 そして、一緒に生活してみて私が驚いたのは、瑞歩は何もできないお嬢様だと思っておりましたが、ところがどっこい、彼女は男が家事をする姿を見たくはないといって、料理以外の家事を完璧にこなし、とても古風な考えを持っていることに驚きました。

 そして、瑞歩の料理の腕前なのですが、私は自分が元調理師で、和洋中を問わず、家庭で作る範囲の少人数の料理は、不味く作る方が難しいという考えと、それなりの腕を持っておりますので、採点が厳しいと自分でも思いますが、瑞歩はナウいヤング(両方死語で、意味は今時の若者です)にしては、達者な方だというレベルです。

 しかし、得意料理のオムライスは確かに美味しいのですが、二日に一回は作りますので、

「涼介、今晩はキノコの和風あんかけオムライスやで!」と言って、先ほど瑞歩は大学へ向かいましたので、今夜は6種類目のオムライスを食すことになります・・・

 しかし、なんにしても全く何もしない、或いはできない娘に比べれば、とても贅沢な悩みということで、瑞歩がただの我が儘なお嬢様でない、ということが理解していただけたでしょうか。

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