第4話「それでも魔王は遅刻していた。」

 おどろおどろしい蝋燭の灯る大広間。


 その席にはアンデットや黒騎士、ダークエルフと言った面々が並び、

 彼らの双眸には暗い光が満ちていた。


 そこにぴしゃぴしゃと濡れた足音を立て、一人の男がやってくる。


 男は濡れたマントを着込んで杖を持ち、その雰囲気はいかにも

 ラスボスと言った具合で、見る者を震撼させるオーラに満ちていた。


 そうして、男は一番奥の赤いビロードの椅子に座るとこう言った。


『すまないね。今日は定例会議の日であるというのに

 魔王である私が遅刻をしてしまって…。

 なにせ、今日はちょっと拾いものを…おっとっと…。』


 そう言うと、魔王の懐から一匹の子猫が転がり出た。

 それは豪華な机の上に乗ると、濡れた毛を舐めて乾かし始める。


『こほん…まあ、私の事情はこれくらいにして、会議をはじめるか…』


 そうして次に魔王は「あれ?」という具合に首をかしげた。


 五大幹部…それは、魔王に仕えるという名目の

 種族も思想も別のいわば烏合の集を従える長たちである。


 だが、その席に座っているのは四人…なぜか一人減っている。


『ふむ、魔女のクシィエーヌはどうしたんだ?』


 すると、一番若い黒騎士のジェノバがすっと手を挙げた。


「なんか、勇者の仲間の武器商人の仕掛けた罠にはまって死んだらしいっす。

 なんでも「魅了」持ちの動物を家に持ち帰らせて、そいつが突然爆破する

 ようにしたって話で、最近の魔物の死因はそいつの仕業で間違いないって

 話っす。」


『えぐいなあ、それ。』


 そう魔王はひとりごちると、膝の上に乗って来た子猫をなでた。


 その子猫は橋のたもとで見つけた猫で、

 「ひろってください」と書かれた

 箱の中でもの悲しげな声をあげていたのだ。


 その日は強い雨も降っており、魔王は思わず猫をマントにくるんでいた。


『して、その動物とは何か?』


 すると、ジェノバをさえぎり、アンデッドのプアゾンがその骨ばった顔を

 しゃちこばらせながら、こまったような声をあげた。


『いえ、種類も大きさもまちまちでして、ロバ、犬、ウサギ、あと猫なども

 該当するという話で…。」


 そこまではなしたところで、魔王はプアゾンの言葉を止めた。


『なんだって?猫?』


 すると、魔王の隣に座るプアゾンは呆けたようにうなずいた。


『ええ、猫です。』


 その途端、机にのった子猫から突然の発光がはじまった。

 それと同時に姿が十倍ほどに膨れ上がり、猫は奇妙なうなり声をあげる。


『…いかん、爆発する…!』


 とっさに魔王がその場から離れようとした瞬間、大広間とその周囲のもの

 は、猛烈な爆風とともに木っ端みじんに吹き飛んだ…!


 


 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る